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超マイナーな金融ビジネス:”プレースメント・エージェント”とは?

ファンド業界において”プレースメント・エージェント”という業態がある。これは、日本語で言うと”ファンド販売代理業”となろう。欧米では数も多く、大手はスタッフも大勢抱えている。米国大手のサイトを見たら、これまで30兆円以上販売し、NYSEに上場もしている。しかし日本では数えるほどしかいない。これがどのような仕事なのか私見で書こうと思う。(以下プレースメント・エージェント=PA)

PAは、通常プライベート・エクイティや、ベンチャーキャピタルや、不動産ファンド、ヘッジファンドなど、”オルタナティブ”と言われる投資ファンドを、主に機関投資家に営業、販売するビジネスである。あまり伝統的な上場株や債券のファンドを取り扱うことはない。オルタナに特化する理由は、投資家の需要もあるが、主に経済的なものだと思う。オルタナの方が運用フィーが高く、その分け前をファンドからもらうPAとしてはビジネスが成り立ちやすい。

さて日本でPAを行う場合、一般的には第二種金融商品取引業として登録する必要がある。筆者はこれを二度登録したことがあるが、場合によっては1年以上掛かることも多い。申請手続きは弁護士事務所にサポートを依頼し、会社にはコンプライアンス担当の専任者を置く必要がある。これは、ビジネスを立ち上げる前に相当な資金を必要とすることを意味する。

晴れて免許が取れたら、これがこのビジネスの最大の肝だが、取り扱いファンドを発掘しなければならない。世界には実に数多くのファンドがある。結論から言うと、そのほとんどは日本で機関投資家に販売するに足らない。そしてそういうファンドに限って、日本でお金を集められるなら是非集めたいと、PAに積極的にアプローチしてくる。イージーにそういうファンドと提携してしまうことが、このビジネスの落とし穴だと思う。

詐欺とは断定できないものの、胡散臭いファンドも多い。例えば個人やスモールビジネスへの金貸しをするファンドが、オープンエンド(いつでも解約可能)でパフォーマンスが10年間7-8%で、資料のどこにもデフォルト率の説明がないという場合、即座におかしいなと思うリテラシーが必要だ。

一方で、世界的に著名な一握りの大手優良ファンドは、日本に拠点を設け営業スタッフも採用していたり、そうでなくとも世界中から投資家は簡単に集まるので、PAを必要としていないことも多い。

ちなみに、オルタナのファンドは規模が大きければ良いというものでもない。何故ならファンドの規模が大きすぎると、運用に支障がでる。投資対象が制限されてしまうのだ。たとえパブリックな社債を対象とするファンドでさえ、巨大ファンドが投資するに十分な社債が入手できない為、先物を使って代替したりする。プライベートなアセットを投資対象とする場合、尚更大きすぎると難しい。

さてPAは、資金集めに血眼な9割以上のファンドを避け、資金集めにさほど困ってなさそうな良いファンドで、しかも日本に拠点がないという割と小さな母集団を攻めなければならない。つまり受け身ではダメで、こちらから直接アプローチしてアポを取り付け、現地を訪問する。

ところで海外のPAが、日本の投資家にアクセスしたいが為に、提携を持ち掛けてくることも多い。しかし投資家のところに、ファンドと海外のPAと自分たちの3者で行くようなカッコ悪いことは避けたい。投資家に経済的なご迷惑は掛けないとは思うけど、お前の付加価値は何だ?と問われる気がする。

さて晴れて良いファンドと販売代理契約を結んだら、なるべく分かりやすく投資家に説明することを心掛ける。プロである投資家のデューデリジェンスをサポートする。ただ個人的には、そもそもどのファンドを取り扱うかの方が大事かなと思っている。

ところで日本の機関投資家の元には世界中の大手オルタナファンドがあまねく営業しており、しかし実際に投資を受けるのはほぼ最大手に限られると筆者は理解している。従って日本に機関投資家向けのPAは然程必要とされないのかもしれない。
一方で、日本で個人向けにオルタナファンドを販売するルートは極めて限られている為、筆者はその分野のビジネスは有望であり、サービスを提供する会社は必要とされていると考え、Keyaki Capital株式会社を創業した。