仕事のコスパ

「管理職はコスパが悪いから昇進したくない」「仕事を頑張ってもコスパが悪いから、仕事はそこそこにプライベートに労力を割きたい」なんて話をよく聞きます。いろんな考え方があるのでそのような考え方も同然尊重されるべきなのですが、この仕事のコスパについては僕も思うところがあります。実は僕も、特にキャリアの序盤では頑張ってる割に対価が見合ってないなと感じることがありました(「仕事を頑張るコスパが悪い」)。一方で、色々経験を経てみて今思えば「コスパ」を低く見積り過ぎてしまっていたかなとも思います。もしかしたら、僕と同じように多くの人が「コスパ」を低く見積り過ぎてしまっているのが冒頭のような話につながっているのかも知れません。そこで、この「コスパ」を低く見積り過ぎてしまいがちな理由をなんとか言語化してみようかと思います。

まず、「コスパ」の定義として、「成果/労力」を考えます。「成果」は例えば報酬(お金)、「労力」は例えば投入した時間、とかですね。

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コスパ=成果  /  労力
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ここで、単純なモデルとして、能力に応じて同じ労力あたりの成果が変わるとします。

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成果=能力 \times 労力
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例えば時給労働(典型的にはアルバイトなど)でいうと、時給が能力、働いた時間が労力、給料が成果に対応します。見ての通り、このモデルは線形の関係を仮定しています。つまり、投入した労力に比例して成果が増えるというような関係です。

もちろん現実には労働の成果と労力は非線形な関係にあることが多いはずです。例えば、アルバイトでも、同じ時間を使ったとして時給が上がる人と上がらない人が居ますよね。しかし、このような非線形の関係を直感的に認識するのは人間には難しいので、コスパの感覚は上のような線形モデルのような感じ方をしていることが多いでしょう。

では、もう少し現実に即したモデルはどのようなものが考えられるでしょうか?例えば、線形モデルが見落としている要素として、成長速度があります。成長速度とは、労働によって得られるスキルや知識、経験などの質的な要素の増加率のことです。成長速度×労力は能力の増加になるので、この成長速度を加味すると、成果と労力の関係は次のようになります。

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成果=能力 \times 労力 + 成長速度 \times 労力^2
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つまり、このモデルの元では、労力をかけた時の成果の増分は、線形の関係(直感的な感じ方)よりだいぶ多くなることになります。

仕事のコスパ(成果と労力の関係):直感的な関係が線型なのに対して、実際の関係が非線形であるために、直感と実際の成果に差が生まれる。

さらに、実は能力と労力の関係も非線形である可能性があります。例えば、マネジメント能力に関して考えてみます。マネージャー1人につき10人をマネージするという組織を仮定すると、マネージャーをマネージする能力を身につければ100人単位の組織を運営することができます。さらに、マネージャーのマネージャーのマネージャーは1000人単位の組織と、指数的に大きくなっていきます。1人当たりの成果量を一定とすると、組織の成果量は人数に比例すると考える事もできます。つまり、マネジメントレイヤーを一つ上がる度に成果が指数的に増えることになります。いわゆるエライ人の報酬が高いのは一つにはこういう理由がありますよね。ここで、マネジメントレイヤーを一つ上げる労力を一定とすると、以下のようなモデルを考える事ができます。

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(マネジメント)能力=10^{労力}
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成果=10^{労力} \times 労力
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とまあ、成果と労力が非線形な関係になる例はいくらでもあげられるかと思います。もちろん実際には上で挙げたモデルはどちらも単純化されていて、現実とは異なることがほとんどです。ただ、成果は労力に対して非線形の関係な一方、人間は線形の関係を仮定して成果を想像するので、実際の成果は想像したより大分大きくなる、みたいな現象は現実にもよく起こっていることではないでしょうか。

というわけで、仕事のコスパ、思ったより良いかもねという話でした。

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