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【#毎週ショートショートnote】穴の中の君に贈る

「ねえ、ドーナツを穴だけ残して食べることできる?」
 そういって彼女は目の前にあるドーナツを片手で持ち上げた。
 
 ある休日の午後、僕たちはある喫茶店にいた。昔からある古びた店だが、ここの手作りドーナツが二人とも好きでよく食べに来るのだ。
「ん、どういうこと?」
 いきなりの不思議な質問に僕は戸惑う。少し考えてから答える。
「ギリギリのところまでドーナツ生地を食べればいいの?」
「それじゃ完食じゃないでしょ」
「じゃあ、例えば四次元の僕がドーナツを食べても三次元の君のドーナツは残るから、穴も残るよ」
「なにその理系らしい回答。そもそも四次元に行けないでしょ」彼女は笑って答える。
 
 ドーナツの穴の奥にある彼女の眼が僕を見つめる。穴の中に彼女がいる。僕は穴の中の彼女にある言葉を贈る。
「それ、この先死ぬまで一緒に議論してみない?」
 
 僕は彼女の持っていたドーナツにかぶりつくと、ドーナツの穴がなくなった。その先には彼女の溢れんばかりの笑顔があった。
(410字)

#毎週ショートショートnote

今週も参戦しました!
SFやホラーっぽいものにするか迷ったのですが、きっと皆さんも同じこと考えるかと思い、敢えてほのぼの系にしてみました。

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