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【短編】冬の春はまだ来ない-2020ver.

 建物から外に出たときに、その温度差に身を竦めた。首に巻いたマフラーの隙間にふと、流れ込んだ冷たい風が肌を刺す。一瞬にして外気に晒され、触れた鼻がツンと赤く染まる。少々暖房の効きすぎた商業施設の中は、どこもかしこも人だらけで。そして、皆々が誰かに寄り添い、温かな表情をしていた。自動ドアの前で立ち尽くす自分に、今しがた怪訝な目線を送ってきたあの女。その右腕に男のそれを絡めて、蕩けた顔をして追い越していった。

 皆、自分の存在などには目もくれない。

 厚く着込んだコートの下で、全身から嫌な汗がじわじわと染みだす。その気色悪さに、唾を吐くような心地でため息をついた。それは、ほわっ、と白い煙を巻いて、直ぐに空気に解けて消えていく。何なのだ。本当に何なのだ。この時期は嫌いだ。
 刺すような空気は人肌を恋しくさせて、勝手に空しさだけを募らせてくれる。背後に流れるクリスマス・ソングが、やけに耳について離れない。一人で過ごすのが、嫌だってか。それは、二人きりの温かさを知っているからだよ。自分のように人の温もりすら知らぬような人間には、とんと理解ができなくて。そのハスキーな歌声から逃れるようにマフラーに顔を埋める。冷えた鼻先とマフラーが擦れて痛い。その表皮だけを撫でるような痛みが、さらに自分が世界とズレている感覚をもたらす。途端に、自分が孤独でいるような気がした。どこもかしこも、そんな気分が充満しているみたいに思えた。大して心の中に気にも留めていない人々の顔がちらついては消える。じんわりとした不快感がこみ上げてきたので、それらを振り払うように歩き始めた。

 普段は見向きもしない街路樹。こんな時だけ、街路樹に巻き付けたLEDに分かりやすく浮いた声を上げて、端末を掲げる人々。新緑薫るあの季節、この街路樹が艶やかなエメラルドのように葉をつけることを、ここに訪れたどれだけの人が知っているのだろう。くだらない。何もかも。そう、こんな感情も。サンタクロースがプレゼントを持ってきてくれるなら、それと引き換えに、この要らないものをも持ち去ってはくれないだろうか。居もしないそれを信じなくなったのは、相対的に季節に流されていく街の人間を、俯瞰的に見るようになってからだった。明るく浮いた街の中で、着飾る世界の瞬きがとても眩しく思える。
 そんな都合の良いように街を白くも染めず、星も瞬かせない。淡い紺に薄く、灰をまぶしたような空模様。お前とは仲良くなれそうだな、と空を見上げニヒルに笑った。

 ベツレヘムの星が、そんな自分たちを全て見透かすように、冷たく光を放っていた。

めっちゃ喜ぶのでよろしくお願します。すればするほど、図に乗ってきっといい文を書きます。未来への投資だと思って、何卒……!!