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【思い出】運命の眼鏡と出会いについて

私は一人背筋を伸ばし、烏丸御池駅の南側の改札に向かって歩いていた。それは意思が揺らがないようにするための、私なりのファイティングポーズだ。「本当にそれ必要?」と問う声に対し、天使とも悪魔とも思える別の声が語りかける。「覚悟を決めるだけだよ」と。

11月8日、私は学生生活2度目の高額の買い物をするために街に出てきた。前回はカメラ、そして今回はメガネだ。普通、メガネなんて10,000円もあればある程度の種類から選べるだろう。しかし、今日行くお店「グローブスペックス 京都店」にはおよそ40,000円以上のものしかない。レンズは別で20,000円ほどする。必需品ならまだしもおしゃれだけが目的となると、私基準ではどうやっても合理的には説明のつかない大金である。


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時刻は16時前。改札を出るとすぐ、地下鉄の駅には不似合いな輝きを放つ「新風館」の文字が見えた。ここは95年前にできたレンガ造りの建物を改築した商業施設で、こだわり抜かれたお店や映画館、アート作品が並んでいる。地上に出ると屋根付きの通路は風通しが良く、鉄骨と木材と植物の組み合わせがいかにも都会的な雰囲気を感じさせる。

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以前も訪れていたためすぐにお店に到着した。しかしなかなか入ることができなかった。揺らぐ気持ちに向き合うため、近くのベンチに腰掛けた。思い出していたのは恩師のフェイスブックのとある投稿だ。先日、修理に出していた革靴が戻ってきたという。聞けばその革靴は、昔「清水の舞台から飛び降りる想いで買った靴」だそうだ。それもそのはず、チャーチの靴は、私が持っている1~2万のものと比較して桁一つ違うのだ!先生は偶然の出会いを大切にする人だ。きっとその靴に、特別な感情があったのだろう。

そこで、私もお目当てのメガネとの出会いについて思い出してみた。最初のきっかけはNHKの「世界はほしいモノにあふれてる」という番組で、本日訪れる眼鏡店のバイヤー岡田哲哉さんの密着取材を観た事だ。内容は、岡田さんがメガネについて語りながら、フランスでヴィンテージメガネを買い付けていくというもの。登場するメガネ達はど派手なものばかりで私にはかけられそうもなかったが、メガネに対する価値観は大きく変わる事になった。メガネは視力を改善する道具という認識が強かった。しかし、メガネで自己を表現したり、その日の気分で選ぶ楽しみがあると知り、「自分もメガネを楽しんでも良いんだ!」と思う事ができたのだ。番組内で何か名言めいた言葉があったかは分からない。ただ純粋に、岡田さんがメガネを楽しまれている様子や、買い手を想像しながら選ぶバイヤーという職業に憧れた事を覚えている。

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それから1年9ヶ月が経過した。いつかは行きたいと思っていたが、それに見合う自分になってからにしよう、京都を離れる時までには、と考えていた。そしてその間、様々な変化があった。当時関心がなかった自分の身なりにも気を使うようになった。大学を卒業して地元に帰るまで残り4ヶ月ほど。今日という日は来るべくして来たのかもしれないなと思った。

「よし、行こう」。私は勢いよく立ち上がり、意を決してお店に入った。接客は的確だった。悩んでいた2択を用意してもらうと、それぞれの特徴を伺った。何か明確な方向性があるわけではなかった。しかし、今日は直感が冴え渡っていた。話を聞いていくうちに、すぐに運命の一本にたどり着いた。

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選んだのはドイツのメーカーLunorの「A5 mod.226 col.02」。濃いべっこう色、ボストン型のものだ。黒より少しだけ個性を出した色味と、細身ながら堅牢な作りが気に入った。スティーブジョブズもこのメーカーのものをかけていたんだとか。図らずもまたジョブズに一歩近づいてしまった。そしてこのメガネは、以前接客して頂いたお兄さんが学生時代に初めて買われたものなんだとか。用途について話しているうちに、なんとその方も新卒で私と同じお仕事に勤められていたという偶然も重なった。

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眼鏡を決めた後のレンズ選びと視力検査はそのお兄さんに担当して頂いた。前回よりフランクに色々なお話をしてくださった。視力検査の時、「アメリカではこのくらいにするんですよ」と言って適正のプラス3段階の度数を試させてくれた。かけた瞬間に視界がぐわんぐわんとゆがみ、頭がきーんとして思わず目をつむった。アメリカ人すごい...。

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お会計までの時間、不思議な気持ちになった。これからこのメガネと過ごす時間を想像した。今のようにゆっくりとした高揚感をこれからも感じられるだろうか。きっと上手くはいかないことばかりだろう。でも、このメガネをかける時、鏡を見た時には思い出したい。今日の私はワクワクしていた事、このメガネにはたくさんの出会いと前向きな気持ちが詰まっている事を。

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帰り道、高い買い物にはその人の生き方が現れているのかな、なんて思ったりした。カメラを買ったのは外出するきっかけを作りたかったからだ。それから2年。「少しは成長できたのかな、どうだろうね」。私は考えるのを止めて、帰宅ラッシュの地下鉄に乗り込んだ。

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最後まで読んで頂きありがとうございました。皆さんの思い出のお買い物はなんですか。

参考にしたサイト
新風館について https://shinpuhkan.jp/about/
番組出演のお知らせ http://www.globespecs.co.jp/news/information/detail.php?id=36&fr=top
グローブスペックス-ルノア http://www.globespecs.co.jp/products/brands/list.php?id=2


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