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【人道支援チャド】緊急現場での活動と混乱~本当に僕の届けたいものは何か~

割引あり

みなさんこんにちは
人道支援家のTaichiroSatoです。

僕は現在チャドで活動しているわけですが、チャドでの人道援助活動は僕の国際医療人としての活動の中でも非常に厳しいものです。
現場での活動、セキュリティの問題、情報発信のこと。いろいろな制約がある中でアウトプットすることにも気を使う今日この頃。
現地での活動詳細ではなく、そこで働く人道支援家たちの心境と、そんな活動の中で僕を突き動かした言葉を今回は紹介します。
6000字を超えるボリュームになったので少し長くなります。

ーーーこの文章は7月上旬に書き下ろしたものですーーー

国境付近
フィールドワーク18日目
国境付近が大変なことになっている。タイ、明朝、飛んでくれ。
そんな指令がその日の23時に告げられ、よくわからないまま現地に飛び込み気が付くと今日で18日目。
特別意味はないが、時間に換算すると432時間になるらしい。
この間、僕は3回熱を出した。マラリアではなく、疲れからくるものだったのだと思う。僕の体は、体力が残っていないが体を動かさなければいけない時、その限界値を超えると発熱するようにできているらしい。でも、本当に不思議なことに夜間の間だけ発熱し、朝には熱が下がるのだ。
僕の体は超緊急で何週間も稼働し続けた後、全てが終わり現地を離れて家に到着すると、僕はその3日後から下痢や関節痛などの体調不良が起こり、約一週間ほど盛大に体を壊すのが通例になっている。

さて、432時間という時間はあくまで僕だけの時間経過である。
暴力によって傷つけられ、場所を追われ それ から何とか逃れ、この地に辿り着くことが出来た人たちの時間は、それまでも、そしてこれからも、続いている。
僕は今日も傷ついた人たちのケアをし、国境付近での救命チームをマネジメントした後、車で5分程の家へと帰り、真っ暗な部屋の簡素なベッドにへたり込む。腕時計を見ると22と表示されている。
日没後、電気のない中パソコンの光だけが僕の顔をポッと照らし、僕は考えるともなくキーボードをカタカタと今現在たたいている。
何を考えているのか、自分でもよくわからない。

声にならない現地の声を。
僕の中にあるべったりこびり付いた何かを。
叫ぶことすらも出来ないこの状況を。
文字にすることで吐き出した気持ちにしたいのかもしれない。

毎日、3ケタにもなる救急患者。小さな救急外来テントに流れ込んでくる患者とそれを受け止めるにはあまりに小さな僕らのチーム。
必死に24時間を耐え忍ぶ。
2ケタを超える患者が同時に到着する情報が入ると、入り口にトリアージブース(誰を優先的に診るか決める場所)を作り、僕らは対応する。僕の中の*1マスカジュアルティの定義の上限値は確実に上へと押し上げられ、変わり始めていた。

*1 マスカジュアルティ:多数傷病者。一度に何人もの患者が同じ場所に運ばれてきて、医療と患者のパワーバランスが崩れること。

Taichiro 意訳

銃創、切創、銃創、熱傷、銃創。
一体どれほどの人が傷つき、一体どれほどの幸運な人がここにたどり着けているというのだろうか。
怪我をした後でも、危機的な情勢によって1か月以上も家から出ることすらできず、ようやくロバに乗って移動し到着できた患者も少なくない。
創部は感染し、パンパンに腫れあがり、動けなかったため風呂に入ることすらできず、つーんと酸っぱい体臭が鼻をつく。

救急の現場で僕らは、なぜ受傷したのか、もう理由を聞くことはない。
鉄の塊がどこから入ってどこから出たのか、それを確認する。
あとはひたすら、傷を見ては重症度を判断し、処置を施していく。
僕らには、考えてる暇も、立ち止まっている暇もないのだ。
いや、僕らの心のどこかには、一度立ち止まったらもう動けなくなるのではないか、そんな感覚があって、それが僕らを突き動かしているものの一つなのかもしれない。

一時間、また一時間と、ただひたすらに、医療を提供する。
来る日も来る日も、日が暮れようが昇ろうが患者が止まることはない。

フィールドワーク6日目
上記の記録から時間が遡ること12日前。
僕らはたくさんの患者を毎時間受け入れケガの理由を聞くことはなかった。
銃の射入口と射出口の場所と出血有無だけ確認すれば救急の現場では十分だったからだ。それくらいの数だということ。
しかし、この日の患者だけは外傷のプロとして働く僕の理解の範疇をはるかに超えるものだった。
身体のある部分が裂けている。
僕の頭の中にあるシナプスをどんなに刺激しても、僕の経験ではどうしても理解することが出来ない傷。
僕は緊急処置をしながら、何があったかをその患者に聞いた。
そのあとで僕は、言葉を失う。

患者の傷を見ながら、ここは安全な場所だよ、と一言声をかけ、
僕は黙々と灼熱のテントの中で顔の汗が
傷に垂れないように注意しながら処置をした。
本当のことを言うと、ただただ悲惨な現実にかける言葉が無かった。
この時、僕の心の中でドロッとした汗が流れたのがわかった。

哺乳類で同種であるはずの人間。
その人間の闇。
僕らだれもに、同じ血が流れている。

行動を起こす人間と、それを受ける人間。
この二つの人間の間には一体どんな違いがあるというのだろうか。
人の命の価値があるとしたら、それは果たして皆同じなのだろうか。

ここへたどり着く人たち。
辿り着いた人の為に、ここで活動する全ての人たち。
その誰もが必死に一日一日を生きてる。

フィールドワーク16日目
僕は毎朝すべての患者を一人で見て回る。
サラマレコム、サラマレコム。
一人ひとり目を合わせ、挨拶をする。
数百に上る患者の中で具合が悪くなったり、
見落としている患者はいないか、
気になっている患者の今朝の様態はどうか、
などをフォローするためだ。

ある患者の足に夥しい量のハエがたかっている。
これだけの大人数の中から創感染の悪化兆候がある患者を手っ取り早く見つけ出す、この地での僕なりの一つの指標になっている。

今日という日が終わり、目を閉じる前の1分間。
僕はいつものように一言二言、携帯のメモ機能に今日の出来事と患者や自分の感じた事を書く。16日目という日数を特別数えているわけではない。ただ、たまたま数えてみたら、16日たっていたというだけだ。
実は数日前から、おそらく10日目を過ぎたころから僕の集中力の限界が来ていることを感じていた。毎日毎日無理難題の中で体を使って処置をし、頭を使ってプランをたて、話し合い、交渉をし、肉体的にも精神的にも僕の残りの電池が少なくなってきているのがわかっていた。

毎朝病院に到着し、辺りを見渡す限り僕らにできることは限界ばかりだ。
僕らのチームが進むべきところにたどり着くまでに、一体あと何日この状況を持ちこたえればいいのか、見えない未来が苦しかった。

緊急支援と混乱
緊急事態が起こったとき、いち早く駆けつける医療者やそのチームメンバー。チームの到着は、これでもう大丈夫だと外から見れば思うかもしれない。
たくさんの患者をケアするべく、緊急医療チームが現地に入る。
実は医療チームが戦うべきなのは患者事情だけではないのだ。

世界中から、ひっきりなしに救援の人が到着する。
どこの誰なのか、誰だかわからない、医者なのか、看護師なのか。
誰が何の担当で、情報はどこから出ていて、それが正しいのかどうか。
どんなプランを立て、いつまでに誰が意思決定をし、
どうやってチームをマネジメントしていくのか。
団体の垣根すら超えると、どこまでをチームと呼ぶのか。
それすら、わからなくなる。

僕は、先隊としてこの地に入った。当時は緊急医療チームは数名だった。
それがこの2週間でメンバーは数十人にまで大きくなり、緊急招集されたチームメンバーたちは1週間、2週間という単位で現地に入っては去り、また入ってきては去り、現場はさらに混乱のスピードを加速させる。
その間に、上層部できめられる方針や指揮命令系統管理。チーム構成など大幅な舵を切りを行わざるを得なくなり、僕はリーダーを務めたり、サポートに回ったりと混乱の渦に思いっきり巻き込まれたのだった。
更には、一つの組織の問題の枠を超える。3つ4つの団体が一つのプロジェクトにごちゃまぜになっている。形式上のタスクの住み分け、指揮命令系統はもちろんあるが、現場レベルでは大混乱は想像に難しくない。

組織構図の問題だけではない。
患者はアラビア語、現地医療者はフランス語、外部医療支援者は英語、など使用言語にもばらつきがでる。カオス。この一言に尽きると思う。

僕が伝えたいのは、僕が緊急支援現場をいくつも経験する上で、今回の現場のダメ出しをしたいわけでも、良し悪しの評価をしたいわけでもない。
緊急支援というものは、不完全で、こうゆうものなのだと理解している。
どんなにシステムを整え、こうです、といったところで、世界中から集まるそれぞれのプロたちがこの混乱の状況の中、はいそうですね、と足並みをそろえることがあるはずがない。そもそもみんな誰が誰だかもろくにわかっていないのだから。

そして僕は経験上、どうにもならない時は最後は自分がやるしかない、ということを知っている。それぞれの団体や所属も超えてごちゃまぜのスペシャルチームの中で活動すること。この中で意思決定をし、現場をまとめていくことは困難を極め、想像以上に神経をすり減らす。
きっとその集中力の限界が10日目くらいから僕に見え始めていたのだろうと思う。

この時僕は、緊急チームの中で、事実上一番の古株になっていた。
しかし、プロジェクト全体の決定事項と自身の所属チームの関係から僕はリーダーの立場から助っ人としての立ち位置に変更になったため、いろんなことが難しくなっていた。
最初からそうだが、今もチームは混乱を極めている。診療チームの看護師を統括していたのは僕なので、良く知っているが今はそのポジションのバトンを渡した後なので、どの程度アシストするべきか。
現場をよく知る現在助っ人の元キャプテンの僕と、ほとんど誰も知らない新人キャプテンと副キャプテンがいるっといった感じだろうか。

フィールドワーク19日目
この日の僕は、ぼーっとしていた。
正確に言うと、ここ数日はぼーっとする時間が多かったのだと思う。
あたまが働かないといった感覚だ。

この記事を投稿する8月11日の今からこの時の19日目を振り返れば、この数日後に自分たち先隊の首都への一時撤退が決まり(自分が提案した撤退プランが認可され飛行機が手配された)飛行機に乗りこむことなる。

しかしこの時はまだ撤退も決まっておらず、先の見えない中、初動から力を出し尽くし、それでも混乱に身を置く自身の逃げ場がなくたっていたのかもしれない。
現場の状況は大きく改善されてつつある。自分のポジションも大きく変わり、リーダーから助っ人になった。
新しくたくさんの患者を収容するテントが作られ、手術室も追加で完備、たくさんの手術が可能になった。僕がここに到着してすぐに提案書をだしたスタッフ増員計画もついに第一弾を迎え、新しくここで働いてくれるスタッフも補員された。これで終わりではなく新しい体制の始まりの訳だが、この日の僕は安心し、肩の力が抜けたのを覚えている。
時同じくしてこの日、僕はエリィに新しい病院説明のため病院ツアーをしていた。

彼女のキャラクターがわかるエピソードを書いたので参照してみてほしい
環境を楽しめ、事象を笑え~人道支援家たちの珍言集~ Vol.1

エリィと僕は、この国境付近に出発する前からチャドで共に活動していた仲間で、彼女は小柄な熱血ブラジル人薬剤師。
日ごろ薬剤管理やコーディネーションをしている彼女は、彼女自身の今回のミッション終了のため明日帰国する。その前に現場を見ておきたいとのことだった。

そこで、エリィは帰らない
エリィは初めて見るここフィールドでの惨状に息をのみながら病院を回る。
そして、ツアーも終わり僕らが帰ろうとしたとき、スコールが降り僕らは新しく増設されたテントの中で足止めを食らった。
そこには既に旧テントから新しく整えられたテントへと患者たちの移動が終わっており、以前とはうってかわってしっかりとしたスペースと入院生活環境が整えられている。
ふとエリィが新しいテントの一部から雨漏りがしているのを発見する。

あ、ここ漏れてるわね。
ホントだ。。

僕は、僕の担当ではないテント設営のことなので、誰が担当かわからないけど帰りにテントチームに一声かけて帰ろうかとだけ伝えた。
その後いろんなイベントがあり、テントのことをすっかり忘れて帰りの車に乗り込んだ僕とエリィ。
ハッと、雨漏りのことを思い出しエリィが僕の腕をつかむ。

タイ!雨漏り伝えてない!戻って伝えよう!

正直に僕はめんどくさいと思った。
疲れたし帰りたい。
テントの担当が誰かわからないから、それを見つけるのにたらいまわしに会い30分は絶対にかかる。
それでもエリィは僕を車から引き摺りおろし、土砂降りの中僕らはテント設営チームの担当者を探した。

僕はぼそっと文句を言う。

エリィ。雨漏りで患者は死なないよ。あとで電話するとかでもいいんじゃないか?

エリィは返す。

テントから水が漏れてる
患者も困るし、薬も濡れる。
何より
私はこれを解決するためのアクションを起こさなかったら
夜、気になって眠れない
だから私は解決するまで帰らない

30分後ようやく責任者を見つけ、雨漏りカ所を責任者と確認し、今すぐ直すと約束させ僕らは車に乗り込む。
帰りの車の中で、僕はエリィにこんな話をしていた。

決めるのは、誰か
エリィ。現場は混乱だらけだ。患者のことももちろんそうだが、
チームで誰が決めるのか、誰がどこまで管理するのか、ぐちゃぐちゃなんだよ。緊急支援によくあることだけど、よく知っている人が決められず、良く知らない人が判断に迷い、物事が進まないことが僕はもどかしいんだ。

もしかしたら僕は、エリィに何かしらの答えを求めてたのかもしれない。

タイ、あんた何言ってんのよ。
どんなに現場が混乱していても
誰が何するかとか、誰か決めるとか責任取るとか
そんなのどーだっていいのよ。

いろいろめんどくさいのはわかってる
でもあんたが現場を一番知ってるって自信があるなら
あんたが決めたらいいじゃない
決まらないなら、これはこうだ、こうしようって
あんたが押し切りなさいよ

私らのゴタゴタなんでどうだっていいのよ
私たちは患者を救うためにここにいるの
あんたがやんのよ


どこの組織だからとか、
誰がイニシアチブをとるか、
自分の立ち位置がどうとか、
たとえばそれを押し切って僕が何かをやったら
後からいろんな文句を僕は言われるだろう。
たとえそうなるとしても、
僕がこうだと信じるものが 患者の命を救う為であって
それが必要なアクションなのであれば
組織の混沌を蹴散らして 前に進め
そうゆうことだ

組織のしきたりなんて、患者の為にならないならくそくらえだー
エリィがまだ何かしゃべっているが、
僕の耳にはこれ以上入ってこないらしい

どんな混沌の中でも 
主語は患者であるべきだから

誰が何を担当したっていい
誰が決めたっていい

最後の最後に患者に届くもの
それが、自分が納得ができるものかどうか
その答えに自信が持てるかどうか
押し切る覚悟が僕にあるかどうか

僕は彼女のおかげで
自分の置かれた立場にはまりすぎず
混沌の中もっと強くあろうと思えたのだった。

僕の中の空っぽの電池に
もう少しだけ、パワーをチャージしてみる。
うん、まだ、もう少し動けそうだ。

Best,
Tai

次回は、このような緊急現場での僕の活動エネルギーの在り方やチャージの仕方、考え方、僕の心を燃やし、前に進む力の原動力になるエネルギーの源について臨床心理士のマキさんとの面談で見えてきたものを書いていこうと思います。お楽しみに。

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