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日本選手権を見てあふれ出した思考を吐き出すための記事(その1:3日目終了後執筆)

2024年第41回全農カーリング日本選手権が1月28日から始まり、全試合はとても見られないものの、なるべく多くの試合を見ようと思っているのですが、見れば見るほどいろいろなことを感じ、考え、それをどこに吐き出していいのかわからなくなってしまったので、ここに書かせてもらうことにしました。私のひとりごとだと思って、読んでいただければ幸いです。ただし、私のたわ言が正しいかどうかは保証しませんので、話半分に読んでください。リンクの貼ってあるタイムスタンプは、試合のその場面に直接飛ぶはずなので、だまされたと思ってナイスショットを見てみてください


男子:LOCOSOLARE vs 北見協会(1月29日18:00〜)

ここまでのベストゲーム

現状、この試合をここまでのベストゲームだと思う人は少なくないでしょう。LOCOSOLARE(ロコ・ドラーゴ)と北見協会(KiTカーリングクラブ)の双方の選手の良いところがよく出た感動的に面白い試合でした。ロコ・ドラーゴは札幌国際大に初戦で勝利していましたが、相手チームの大黒柱でもある青木豪選手が怪我で欠場しており、その相手にエクストラエンドまで持ち込まれていたので、少し不安な立ち上がりに見えていました。一方のKiTカーリングクラブは、抜け番スタートだったため、この試合が大会初戦でした。(ちなみに、その青木豪選手の弟である青木亮選手が解説でしたが、実況の畑さんと一緒にこの試合を盛り上げてくれていました。)

不利な状況を一転させるショットとそれへの対応

4点スチールのピンチを救った第1エンドのKiT平田選手のラストロック(24:30頃)から始まった試合ですが、その後、さっそく私の好きなショットのうちの1つを2回も見せてもらいました。第2エンド後攻スキップ1投目のドロー(36:50頃)と第3エンド先攻スキップ2投目のヒットロール(55:30頃)の2投のことで、ガードの裏に隠して、不利な状況を一転させるショットです。

先日、2024年グランドスラム「カナディアン・オープン」男子決勝の第4エンドで、🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿ブルース・󠁴󠁿󠁴󠁿モウアット選手が同じようなドローで相手のミスを誘って、結果的に久しぶりの優勝につなげた場面があったのですが、その時と同じような相手に揺さぶりをかけるようなショットです。そして、投げ手とラインコールとスイーパーとすべてがそろわないといけないチームショットでしょう。グランドスラム決勝でのチーム🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿󠁴󠁿󠁴󠁿モウアットも、後攻の🇨🇦ボッチャーに大量得点を奪われそうな場面で、スキップが2投投げて2投目でミスを誘うことができました。前回世界選手権優勝チームでも簡単には決められない、そんな繊細で難しいショットだと思います。

KiTは、第2エンドではその石を出そうとしてミスとなり、後攻2点を許し、第3エンドでは大量得点のチャンスを逃すことになりますが、その石を狙わずに後攻で1点を取りました。第3エンドの方がガードの数も多く、その分難易度も高かったと思いますが、第2エンドで似たようなショットをミスしたことが、第3エンドでの選手のショット選択に影響を与えたのかどうかが気になります。

ただ、同時にここで思ったのは、ここで無謀な挑戦をしないことは、きっとKiTの強みなんだろうということです。仕事とカーリングの両立に積極的に取り組んでいるKiTだと知っていたからかもしれませんが、現状のリスクを冷静に捉えた“大人な選択”だと感じました。当然、リスクから逃げないことが求められる場面もありますが、“リスクを判断できた上で、リスクを選ぶ”のと“リスクを見極められずに選んでしまう”のとは、まったく意味が違います。仮にそれが今の実力ではできないという判断だったなら、その部分を今後伸ばすという選択肢が生まれますし、できることが増えた時にもそれぞれの場面で正確な判断ができることは強みであり続けます

試合は、コーナーガード裏での攻防でのわずかな差を活かしてドラーゴが第4エンドに後攻3点を取ります(1:13:50頃)が、見事にフォースした第5エンドの後、第6エンドではKiTにうまくNo.1, 2 を作られた(1:51:10頃)後の後攻ラストロックが長くなり、2点スチールされて、再び同点になります。

「ヒロキ、ランバックもあるか?」

この試合の決め手となったのは、その次の第7エンドでした。お互いにショットを決める中で、ドラーゴはサード中原選手の素晴らしい2投(2:00:30頃から)で相手の石を出しながら、自分たちの石2つをガードの裏に残すことに成功します。ただ、片方の石はセンターガード裏の離れた場所にあったため、センターガード裏の取り合いに発展します。KiTも石の大部分をガードの裏に隠すことに成功し、ドラーゴは後攻ラストロックでなんとか2点を方法を考え、スキップはハックに向かいます。ただ、バイスの前田拓紀(ひろき)選手がブラシを立てて待つ中で、兄でもあるスキップとの会話が始まります。(2:07:46頃)

「ヒロキ、ランバックもあるか?」
「やるなら、こっち(アングル)だよ。ここに当たれば4点かも。」

第6エンドラストロックで残り時間8:40と、決して時間に余裕がない中でしたが、奇数エンドであること、ミスしても1点スチールで収まりそうだったこともあり、前田兄弟はアングルランバックを選択します2:09:15頃) 。結果は、自分の石を1つ道ずれにしたせいで4点とはなりませんでしたが、相手スキップの投げた石2つを出し切って、後攻3点となりました。

最後まで止まらない両チームの好プレー

ただ、このまま引き下がるKiTではありません第8エンド後攻スキップ1投目では、相手のNo.1, 2を出しきれないものの、No.1, 2 を同時に取り返すショットを決めました(2:20:45頃)。ドラーゴの先攻ラストロックで打った石が1投前に出しきれなかった石にジャムしたこともあり、このエンドは後攻2点を獲得。第9エンドは相手がNo.1〜3を持った状態で先攻ラストロックを投げることになりますが、これをトリプルテイクアウトですべて出して2:35:35頃)、再びの複数失点を防ぎます。

しかし、もちろんロコ・ドラーゴもやられっぱなしではありません。第9エンドの相手のトリプルテイクアウトの直後には、残った相手の石2つをピールして2:36:35頃ブランクエンドに持ち込み、最終第10エンドを1点リード後攻という有利な条件で迎えることに成功。第10エンドでも相手の1投目がセンターラインを外れたと見るや、きっちりウィックショットを決めたついでに、自分たちの石はハウスの端にかけて2:38:45頃)、スチールの芽を摘んでいきます。

その後、KiTの持つNo.1の石をめぐって、ガードとピールの応酬が続き、KiTは先攻ラストロックでNo.1, 2を作って、手を渡します。少し見えているNo.2に直接当てられれば、2つは出なくても、後攻でエクストラエンドに進めます。一方で、スキップの第1感は、前からのランバックだったようで、最後のタイムアウトを使って考えても、それは変わらなかったようです。

結果的には、「“イエス”と“ウォー”が交互にかかるショットは、だいたい決まる」という定説通り、ランバックで相手の石を2つ出し(2:52:30)、10-7でロコ・ドラーゴが勝利しました。試合の強度は決勝戦と見まごうほどの面白さでしたが、同時に、同じ北見市を拠点とするチーム同士、仲の良さがうかがえるような場面もあり、良い意味で非常にカーリングの試合らしい試合だったと感じました。ある人に言わせると、“日本選手権は大会中にどんどんパフォーマンスを上げられるチームが優勝する”そうですが、勝って2連勝としたロコ・ドラーゴはもちろん、良いパフォーマンスを見せたKiTカーリングクラブも、週末にかけてさらにパフォーマンスが上がって行きそうな雰囲気を醸し出しており、今大会中に再び試合を見るのが楽しみになりました。

カーリングにおける“攻撃的”と“守備的”を考えた女子の2窓観戦(1月30日18:00)

選手はよくインタビューで「攻撃を重視して」とか「守備的なカーリング」とか言うのを耳にするのですが、カーリングにおける“攻撃的”・“守備的”って他のスポーツほど明快ではないように感じています。今のところ自分の中では、“得点のチャンスや得点の数を増やす=攻撃的”、“相手の得点のチャンスや得点の数を減らす=守備的”というのが、基本的な考え方なのかと思っています。攻撃的なチームだからといって、すべてのショットが攻撃的なものではありませんが、ショットに選択肢がある時や各エンド序盤の組み立てなどには、そのチームが攻撃的か、守備的かが現れるのだと思います。

そんなことが日頃から気になっている中で、この時間帯の2試合を交互に見ていたら、攻撃的なチームと守備的なチームを感じられたような気がしました。

“攻めvs攻め” - 女子:岩手県協会 vs LOCOSOLARE

ロコ・ソラーレは、一般に“攻撃的”なチームと言われます。グランドスラムの解説者によく言われているのは、“ハウス内で点数に関与する石が多い”ということです。自分たちが点数を取るチャンスも増えますが、スチールされるリスクも増えると言えるでしょう。一方で、岩手県協会(Koto)のカーリングについては決して詳しくはないですが、女子ジュニア年代のチームだと攻撃的なチームを作る方が理にかなっているような気がします。守備的なチームを作るには、高いスイープ力や速い石を投げる能力が大切で、大人と比べて体格や筋力で劣る選手には不利だと考えられるからです(世界で戦う上では、アジアの選手全般に言えることかもしれません)。

この試合は試合途中からの観戦でしたが、見始めた時はKotoがリードしていました。少し巻き戻して見てみると、Kotoのドローがきれいにガードの裏に収まる反面、ロコ・ソラーレのランバック系のショットは成功率が低く、最後に難しいドローを投げさせられてスチールを重ねているようでした。

攻撃的なチーム同士の対戦だと特に強く感じたのは、第5エンド。エンド終了時には、16個中11個の石がハウスにかかっていましたが、結果は先攻Kotoの1点スチール。Kotoはハウス中央に先着して、そこにどんどん石が貯まっていく中で、先着した優位性が生きる展開だったと思います。また、どんどん石が貯まっていく中で、物理的に空間がなくなっていき、最後はKotoのNo.1を押し出す出口がなかったようでした(1:47:10頃)。これはミックスダブルスの先攻の戦略に近いようにも見えました。ミックスダブルス日本代表として多くの経験を持つ苫米地選手がサードバイスを務めるチームだからそう思っただけかもしれませんが、私が現地観戦した世界MDで銅メダルを獲得した🇳🇴ルンニン/ブレンドゥン ペアがこの戦略で勝ち星を積み重ねていたことを彷彿とさせます。4人制世界選手権で銀メダルを獲得したチームでリードを務めるM.ルンニン選手のドローの正確性を活かした見事な戦略でした。

ただ、攻撃的なカーリングが得意なのは、お互い様です。第7エンドには、反対にロコ・ソラーレがハウス中央部に自分たちの石を残し、石が10個入ったハウスでNo.1〜3まで確保した上で、Kotoに後攻ラストロックを投げさせることに成功します。結果として、最後のドローがわずかに長くなり、藤澤選手のスイープも相まって3点スチールとなりました(2:20:15頃)。

その後は、ロコ・ソラーレの石だけがハウスに増える展開となり、第8エンドはフォースでKotoが後攻1点、第9エンドはKotoの先攻ラストロックが短くなった所でドローを決め、ロコ・ソラーレの後攻3点のビックエンド2:53:30頃)となり、試合の大勢は決まったようでした。結果的には9-7でロコ・ソラーレが勝ちましたが、Kotoは前年度優勝チームを相手に攻め合いを挑み、相手の選手やファンをハラハラさせるような戦いを見せてくれましいた。

"守りvs守り" - 女子:フォルティウス vs SC軽井沢クラブ

フォルティウスは、一般的に“守備的”なチームと言われます。私の目には“教科書通りに精度の高いカーリングをするチーム”に見えていて、先攻でも相手に何点も取られることの少ないチームだと思っています。選手も比較的身長が高い選手や筋力の強い選手が多く、速いテイクアウトショットを投げたり、ショットの微調整を行う強いスイープができたりと、守備的な戦術に向いた選手が多い印象です。ただし、守備的なチーム全体の印象として、精度の勝負になることが多いため、よりミスの少ないチームと対戦すると分が悪くなったり、一度大きくリードされた後に逆転するのが難しかったりするのが、リスクなのかと思っています。そのため、失点するにしても、それを最小に抑えるような粘りが大切になりそうです。(ちなみに、中部電力も守備的なチームの1つなのかと思います。)

一方で、SC軽井沢クラブの方も、“守備的”なチームなのかと思います。奇をてらったような作戦を見掛けることは少なく、基本に忠実な作戦を高い精度で実行することを狙うチームに見えます。ただ、フォルティウスに比べると、まだ若い選手が多く、経験ではフォルティウスの方に分がある試合だと思っていました。守備的なチームでミスをしないことが大事なのだとすれば、経験があることはプラスになると思っています。

結果から先に書くと、試合は7−5でSC軽井沢女子が勝利しました。守備的なチーム同士らしい比較的ロースコアな展開になりましたが、ミスの少ない締まった試合だったような印象です。SC軽井沢クラブが相手をフォース(1点に抑える)し続けて、試合を優位に進めましたが、最後までそれが緩むことはありませんでした。メジャーが複数回登場した試合で、そのわずかな差がSC軽井沢が優位になる方に出たことが結果にも影響を与えたような、点数以上の接戦だったと思います。ただ、SC軽井沢クラブが崩れることなくフォルティウスについていったからこそ、その接戦をものにできたのだと思うと、過去に“4強”の一角だったチームとそれを追いかける若いチームとの差も、もうさほど大きくないのかと思います。

“攻めvs守り”がどうなるかは、2次予選で!

攻撃的か守備的かで考えると、今回の女子の組分けでは、攻撃的なチーム(ロコ・ソラーレ、北海道銀行)と守備的なチーム(フォルティウス、中部電力、SC軽井沢)がブロックで分かれたようにも見えます。すると、攻撃的なチームと守備的なチームが対戦するとどうなるのかは、2次予選でのお楽しみ!となりそうです。

攻撃的なチームが出せないところに石を隠して、難しいショットを相手に強いるような試合になるのか?

守備的なチームが石を貯めさせず、先攻からスチールを奪ってリードを少しずつ広げるような試合になるのか?

2次予選からも目が離せない試合が続きそうです。(そして、他のことが手につかないのをどうしたらいいのか…)

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