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映画界のブラックボックス、「VFX業界」

映画業界人なら、誰もが精通している映画 “制作” 業界事情。国内外問わずそこは実に入り組んでおりしかし、驚くほどに地味な世界だ。相手はどこまで進んでも、人間。スタジオや会話の内容が変わるだけしかし、どうだろう。あなたはきっと知らない。「VFXスタジオ」の世界を。VFXとは、“Visual Effects”の略称。HOLLYWOODエンターテインメント超大作映画に代表される、ハイエンドな特撮の世界。そこは、超一流最高峰の監督やプロデューサーにも熟知している者がいない、映画界の近未来研究所である。教えよう。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 VFXって? 』

大作エンターテインメントに必須の、“ VFX ”。好むと好まざるとに関わらず映画ファンなら誰もがそのスタジオで誕生したシークエンスを、目撃ている。VFXと聞くと、アメコミのヒーロー作品や異世界での物語をイメージする観客が多いだろうしかし、映画に限らず、テレビのコマーシャルにまで縦横無尽にその技術は投入されており、回避は不能。誰もがその恩恵を受けている。

想像できる映像は、必ず創れる。それが、現在のVFX業界だ。


『 VFX映像の、制作前準備 』

脚本家が描き上げる壮大な世界を、プロデューサーが読み解いて、指揮者として適任な監督を指名する。指名された監督は演出プランを完成させ、文字情報をまず「STORY BOARD」(※シーンのイメージ画)に仕立てる。イマジネーションを共有し、「画コンテ」を作成する。これで、文字情報だった映画のストーリーはコミックさながら、“見える化”される。その画コンテを元に、「ビデオコンテ」が作成される。画コンテを元に簡易的なアニメーション動画を制作してデモの音楽と効果音を加え、“画コンテを映像に”仕立てた状態のことだ。画コンテとビデオコンテは各部に共有され、映画の中に必要になる全ての素材を決定づける。また、撮影場の問題をシミュレーションするための叩き台となる。ここでようやく、“VFX部”の参加、となる。

映画界のどの部署にも“雰囲気”があるものだがしかし、VFX部の面々は少々、空気が違う。著名な監督も、大御所のプロデューサーでさえも緊張しながら、彼らを迎えることとなる。

なぜなら、

エンタメ系映画ならその中核を担う部署であり言葉を選ばずに表現してしまえば、“主演俳優”よりも優先される最重要ポストなのだから。なにしろ、VFX部とのセッションさえ成功させられたなら、実写映画の中の俳優すら、創り出すことが可能なのだ。大予算を必要とする撮影現場の移動など不要、天功は自由自在、どんなに危険な演出要素にも安全にフル対応、撮影現場の失敗すら、いかようにもカバーしてくれる。まさに、映画制作現場における魔法使いたちなのである。VFXスタジオ、VFX部、VFXクルー、VFX技術それらが生み出す、VFX映像を総称して、「VFX」と呼ぶ。

そこまで重要なVFXというポストについて実は、衝撃的な事実が存在する。

VFXの最新状況に精通している映画監督、映画プロデューサーは、ほぼ居ない。業界人口%では集計不可能。全世界の全監督とプロデューサーを集めても恐らく、手足の指で余る程度の人数しか存在しない。そう断言できる。VFXを駆使したエンターテインメントの世界的な大ヒット作品を多数生み出している映画監督たちを著名順に10名、選出したとしよう。その中ですら、VFXを知り抜いている監督は、3名しか存在しない。プロデューサーはどうか。2名だ。間違いない。


『 VFX業界という、ブラックボックス 』

監督とプロデューサー合計してわずか5名しか精通していない、VFXスタジオの最新状況。なぜ彼らだけが、知り得ることが出来たのか。彼らはそれぞれ、あらゆるカタチでVFXスタジオを保有、Updateし続けているのためだ。それ以外に、映画関係者がVFXに精通する方法は、存在しない。

お判りだろうか。“VFX”に関してはどんなに著名な監督も大御所のプロデューサーも、全員が素人であり、VFX部との会議に挑む席においては、緊張するのだ。目の前の映画を成立させられるかどうか、が、その会議にかかっている。映画の命運を握るVFXクルーたちに作品を気に入らせて、ビジョンを実現しなければならない映画監督。技術内容を全く理解できないままに見積書を取り交わしながら制作予算に合致させねばならないプロデューサー。彼らはVFXという未知なる技術と人々を克服し、人類が観たことの無い映像ビジュアルを完成させるのだ。

なぜVFX業界は必須とされていながら、映画人に理解不能な業態を形成しているのか。それは、誕生に起因する。業界の歴史、などというつまらない文字埋めはしたくないので、意訳を含めることを理解して欲しいただし、ここから記載する記事は、わたし太一本人が目撃、または立ち会った現実であり確実な一次情報であることを保証する。紹介しよう。「VFX業界」を。


『 VFX業界は、突然誕生した 』

「アーティスト業界情報局」の記事を通読している国際映画業界通の皆さんなら、一般的な映画業界の非常識に気付いているだろう。126年前パリのカフェの地下で誕生した映画は、映画業界は、熟練の天才たちが生み出した、泥臭い闘いの成果である。小さな改善と命を賭した挑戦が生み出すひとつひとつの小さな輝きが、現在の映画業界を誕生させた。すべてはひとつひとつ、必ず先輩から新米へと引き継がれた継承の歴史なのである。

しかし、VFX業界は違う。たった1本の映画を起点とし、突如世界中に出現。わずか3年で業界を形成し、30年たたずして現在、エンターテインメント映画は勿論、ハイエンド映像の最新ソリューションとして、君臨している。VFX業界のマイルストンとなった映画は、スピルバーグ監督作品「ジュラシック パーク(1993年6月11日公開)」である。使用された主なVFXは、「アニマトロニクス」と「CG」だ。

ディズニーの実写映画「TRON」をはじめ、それまでにも演算器を駆使した実験的なCGは登場しているしかし、「Amiga」という手持ち出来るほど小型のコンピュータは後に「Lightwave」とう汎用性CGソフトの原型を備えており、モデリング(※キャラクターの形成)からテクスチャーマッピング(※CGに実質感を与える)そして、アニメーションを実現できた。当初はミニチュアのストップモーション用人形でコマ撮り撮影を準備していた映画ジュラシック パークに、実在しない、“CG製恐竜”という選択肢を与えたのだ。Amigaという画期的なデバイスはそれでも“作成したデータのアウトプット方法が無い”という致命的な問題を抱えていたが、仔細は放置しよう。


『 VFX技術は、デジタル と アナログ からなる 』

もう一つのVFX技術が、「アニマトロニクス」だ。実在しない、まだ完成度の高くないCG製恐竜と、撮影現場のリアルをコネクトする役割として、旧来から存在し、重宝されていた“特殊造形”の技術。その画期的な進化形である。特殊造形の歴史は古く、フランケンシュタインの怪物を誕生させ、映画2001年宇宙の旅には“猿人”を提供し、ターミネーターからE.T.まで、異世界のキャラクターを提供してきた。しかし本作で使用されたアニマトロニクスは、動力に油圧を用い、プログラミングされたシーケンスを駆使して自在に稼働する実質的な“ロボット”であった。簡易的なロッドパペットも使用したが、細かいことはスルーだ。ちなみに、“アニマトロニクス”という単語は、エレクトロニクスとアニメーションからなる、本作で業界一般化した造語である。

上記二つの「CG(デジタル)」と「アニマトロニクス(アナログ)」という技術が、「VFXスタジオ」の担当である。“両方が必須”であり、どちらか片方に注力が傾いているまたは、どちらか片方を専業としている企業や部署は本当のVFX部門ではない。必ず、創れない映像があるためだ。それまでに、存在しなかった新部門なのだ。CG担当では「ILM社」と「Digital Domain社」が、アニマトロニクス担当には「Stan Winston Studio社」が参戦し、二つの異なる新技術を、「Phil Tippett」の手動インプットデバイス型モーション キャプチャ技術が活用されていた。


『 VFXは、技術先行型業界である 』

上記の描き方は流暢だが、全てのプロセス、全ての技術は連日の大トラブルに見舞われており、映画の完成を見通せた人物は、スピルバーグ監督ただ独りだと感じている。スタッフたちは全員が疲弊しており、監督の笑顔だけを求めていた。監督は躊躇いなく、「なんとかなる。今までもそうだった。巨大サメも宇宙人もUFOも、最後には映画の中に存在していただろう?」と言い切って立ち去っていた。彼は間違いなく、VFXという部門を誕生させた大きな貢献者である。ただしそれでも、VFX業界に精通しているとは言えない。ただの豊富な経験者であり、映画「レディ プレイヤー1」を経てもなお、VFX業界の素人である。つまり、VFX業界を俯瞰して理解できる監督とプロデューサーは、居なかったのだ。


『 VFX業界は、新たな進化をしなければならない 』

後にはスティーヴ ジョブズが自身の最新コンピュータ性能を証明するために運営した「PIXAR社」が映画トイストーリーを誕生させ、現在においてはMacBook一台でエフェクトを加味可能なプラグインも、膨大に普及している。そんな中、VFX技術は圧倒的な進化を続けており完全に、需要出し抜いて、新たなソリューションを提供する立場にある。ハイエンドな映画人はまた、“後続として”、その技術を応用した最先端VFX超大作映画を排出しているに過ぎない。彼らの映画は壮大で圧倒的だが、その撮影現場を知る者にとっては、時代遅れ一歩手前の安全技術を活用した、手探り映画である。

VFX業界に求めるモノがあるとすれば、映像の進化はもう十分だ。VR.とAR.が進化する中で既に、2D上にリアルなエフェクトを加味する時代は終わった。「撮影現場の経費削減」と「パンデミック対応のクラウド共同作業化」に注力して欲しい。

それから、

もっともっと、「撮影現場」に足を運ぶことだ。

スパイダーマンよりもカメラマンの方が超人であろう映像を提要している違和感に、気付かなければならない。

あぁ、ところで。

まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:ザック スナイダー監督版「Justice League」が“4時間の新作”として、HBO Maxから発表される。

2017年に公開されたザック スナイダー監督版「ジャスティス リーグ」が、約2,700カットのVFXシーンを加えて、HBO Maxから配信される。総尺は実に4時間。タイトなスケジュールの中でもスナイダー監督は、実質的に全てのショットを作り直したことを認め、パンデミックさなかでの作業状況を語った。追加撮影の他、VFXシーンはすべてリメイクされ、一貫性を保つことに成功しているという。VFXを担当したのは、「Weta」。ニュージーランドにある、映画監督ピーター ジャクソン(※ロード・オブ・ザ・リング/キングコングほか)が所有するVFXスタジオだ。「また、再撮影に現れたベン アフレックは最高に若い状態に仕上がっていた。おそらくこれまでの最高の状態だったと思う。我々は彼に、こんなところで何をしてる?映画グッド ウィル ハンティング(※ベン出演の1997年作品)の撮影か?と聞いたよ」- MARCH 26, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

巨額の予算を消費するVFX業界には、スペシャリストが少ない。スペシャリストたちは堂々表に出て、VFX業界のロードマップのみならず、世界を救えるソリューションの最先端を公表して欲しい。もう誰も奪えない。安心して、披露して欲しいのだ。我々が目撃し、返す言葉も持たないほどの“あの技術群”の一端を。

先のピーター ジャクソン監督、現場主義のジェームス キャメロン監督、地味ながらVR.とAR.にも精通して続けている技術オタクのダグ リーマン監督そして、サンタモニカのオリンピックブルーバード沿いにレンガ造りの工場を建造して「INTERNATIONAL TYPEWRITER COMPANY」という“ウソの看板”を掲げて近所住人にも隠れてスターウォーズやミッション:インポッシブルの新作を作り続けているJJエイブラムス監督。そこから徒歩2分の裏路地の事務所で息を潜めている、映画パイレーツ・オブ・カリビアンのジェリー ブラッカイマー プロデューサー、貴方たちだ。

驚くほど手作りで、126年経ってもまったく進化する気配すらない企画開発が生む映画製作の現場へ帰るとしよう。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記