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【守秘か共有優先か】アーティストの企画方針が、二分されている

守秘義務好きの日本は、時代に取り残された。一方で、共有を優先した各国でのトラブルが続発している。このトピックでは、「開発中プロジェクトの攻め方と護り方」を、知ることができる。人生を賭した企画案を抱えて“進展方法”に困っているアーティストの、ために書く。

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アーティスト情報局:太一監督
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 稼働させてこその企画、だが 』

企画自体に、価値はない。
稼働してこそのアイディアだと、理解しておく必要がある。徹底して秘匿しても、ただの妄想に過ぎない。立派な装丁で配布しても、ただの妄言に過ぎない。重要なのはただ、“企画を稼働させる”ことにある。

つまり、
そのためには「情報共有」が必須である。情報共有の目的は、企画を推し進めるための“力と同志”を得ることだ。しかし、企画を開示してみなければ相手の性質と、企画への意思を確認することは難しい。ならば、破談も想定してNDA(秘密保持契約)を締結しておくべきだ。しかしそのための興味を促すには“情報共有”が必要となり、などと巡りめぐる。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:“クライストチャーチ襲撃事件”の映画化、イスラム教コミュニティの反発を受けてプリ プロダクションが停止中

アンドリュー ニコル監督の本映画は、ニュージーランドのイスラム教徒のコミュニティとの協議が行われるまで、一時的に中断されている。

2019年に起きたクライストチャーチのモスク銃乱射事件を軸にした企画映画「They Are Us」は、SCRIPT(映画脚本)の流出により、映画製作準備が保留になっている。監督のアンドリュー ニコル(映画「ガタカ」)は、自身が執筆した脚本が「無神経である」との批判を受けた。

「私たちが書いた“ドラフト脚本”が誤って配布されたことにより、被害者のご家族に苦痛を与えてしまったことを深くお詫びします。この脚本は最終的なものではなく、被害を受けたイスラム教徒の方々とこのような早い段階で共有することは決して意図していませんでした」とニコルは述た。

「許可なく公開された脚本の唯一の目的は、潜在的な資金提供者の関心を調べることでした」と述べた。

この映画の“ドラフト”SCRIPTは夏の初めに、ニュージーランドのイスラム教徒のコミュニティから、前提条件が "卑猥 "で "無神経 "だという批判を受け、不満と反発を引き起こしていた。

ニコルは、「国家がこのような悲劇にどのように対応できるかを世界に示すことが、映画製作者の意図なのです」と付け加えた。6月に脚本が流出した後、映画の開発中止を求める署名活動が行われ、プロデューサーのフィリッパ キャンベルは、直後に辞任した。
- JULY 25, 2021 IndieWire -

『 ニュースのよみかた: 』

実録映画企画について投資家たちへの打診用にSCRIPTの“準備稿”を用意したが、ストーリー中の対象者に流出してしまって意見が噴出。映画企画の準備段階が一時停止に追い込まれている、という記事。

映画業界あるあるだ。
「企画を盗用されないために」などとNDAを求めてくる輩がいるが、そもそもにたかが独りが発案した企画など、盗用の価値はない。NDAの本当の目的は、企画開発準備の“妨害抑止”だ。

本件の場合、引責辞任したプロデューサーの落ち度であることは明白で、本作には大きなハードルが加味されたことに違いはない。だが監督なら、それを“話題性”と理解して、前進すべきである。映画監督という人種はよほど生活に困窮したとしても、“無関心な企画には手を付けない”という習性がある。むしろ、その習性がない人々はアーティストではなく、ただの趣味人だ。

すれ違いばかりで私的な交流はないが、共通の友人を介して知るアンドリュー ニコル監督は、良識ある優秀な作家だ。遺族たちのためにも、頑張ってほしい。

『 遅い日本は、安全、信頼のマーケット 』

徹底的なNDAを締結することに注力していると他者に遅れて、機会を掴むことはできず、企画は稼働しない。国際映画マーケットのロビー活動で日本映画界が惨敗し続けている理由の一端でもある。しかし、スピードを優先すれば、記事のような事故も起こりえる。

八方塞がりの日本マーケットには観えるが想像通り、取引きの安全性では、世界最大マーケットのハリウッドを越えて圧倒的な信頼度を誇っている。

『 最優先は、タイミング。 』

ハリウッド映画の契約書はとんでもなく分厚い、とう話を聞いたことがないだろうか。半分正解で、半分は誤解だ。“契約社会”の実態は等しく“妨害抑止”が目的であり、NDAは脅迫材料ではない。それを、極端に細かく刻んでいるのが、ハリウッドをはじめとする国際映画界のデファクトスタンダードだ。

出逢って、名刺交換。それは日本だけだ。
アーティスト同士の名刺交換になど、意味はない。出逢ったら互いの「ティーザー:TEASER」を交換しよう。

“ティーザー”とは、詳細を伝えずに興味を促すための材料、だ。立ち読みできる程度の“ペラ1枚”の企画概要文でもいい。最近では60秒の動画を、スマートフォンで観せることが主流だ。たった一枚のキービジュアル(映画イメージ画像)が、勝つことも多い。

最重要なのは、わずか3分間の間にすべてを完結する「タイミング」だ。10分間もあれば互いに、意気投合できる。

次の瞬間、目の前の紙ナプキンにペンを走らせ、「Deal‐Memo(契約基本情報)」を手書きし、互いにサインして交換すればいい。たった2行だ。

「お前はわたしの企画に興味を示したので、以後互いの協力を約束し、情報を共有することにした。管理と責任は、理解している。」

こんな“メモ”が積み重なり、1作の映画が完成するまでには10㎝の厚みの“契約書ファイル”が完成する、というわけだ。タイミングを逃さないためには、NDAなど遂行している場合ではない。その場、その場で、紙ナプキンに手書きまたは、動画で記録して顧問弁護士宛てにアップロードだ。

3回会議が必要な相手など、時代遅れの足手まといだ。忘れていい。より詳しい“企画遂行方法”は下記、マガジン(無料)を購読することがお勧めだ。

『 編集後記:』

物質的価値が下がり続けている。やがてはハイブランドの売り上げをしのぐ、アバター用バーチャル衣装が台頭するだろう。人工知能を備えたペットはAR.、映画の編集環境はVR.、オンライン通貨はクリプトで、ミニマルな生活様式が無限の使途を備える。

そんなことより、だ。
地球上から“ケーブル”を消滅させる日を、急いではもらえないだろうか。個人スタジオのたった1本のケーブルをGen2に変えるために、100本に溺れながら人生の6時間を賭すのは嫌なのだ。

同志と紡いだ心の波を観える化すべく、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記