音楽の記録 ドレスコーズ「平凡」(2017)
とにかく、何度も聴いて抱いた感想は「とんでもなくラディカル」だということだ。
タイトルや歌詞に含まれる「平凡」や「凡庸」「人民」や「規律/訓練」といった共産主義や統制を感じさせるワードが並ぶ。特設サイト上の、旧ソ連時代の構成主義的なビジュアルも象徴的だ。そのサイトには、楽曲の歌詞が掲載されている。にも関わらず、サウンドは全編にわたってファンク、アフロビートである。先行公開されたLPサイトを見てから聴いた人にしてみれば、かなりの裏切りであろう!そこでは志磨遼平が得意とするストーリーテリングな歌詞はなりを潜め、代わりに、アルバムを通して鳴り響くビートやグルーヴが、私の身体を否が応でも揺らしてくる。そして、ブラックミュージック、アフロビートは自由の象徴でもある。
もちろんテクノとアフロを融合させた、トーキング・ヘッズの引用でもあると思うのだが、こちらは融合ではなく相反だ。その相反する要素がぶつかり合って、なんとも気持ちが悪い。ジャケットのマネキンのような顔にヒビが入って、中から得体の知れないものが出てきちゃうんじゃないかという気持ちにすらなるのだ。
(タイトルに反して、アルバム中最もアツイ、ダンサブルソング。アフロビートに、ツートーン、本アルバムに参加しているPOLYSICSのハヤシやZAZENBOYZの吉田一郎の良さも存分に発揮されていて最高!どうやらドラムのビートさとしという人もすごいらしい。というか、参加メンバーが凄すぎる。)
(いつものようにたくさんのオマージュもりもりの楽しい楽曲たちなのだが、こちらの「エゴサーチ&デストロイ」はコーネリアス、New Orderとかそこら辺か…歌のメロディはサザンのようなダンサブルなポップさもある。)
本作は「ごくごく近未来の世界で発表されたとあるバンドの作品」というコンセプトアルバムだという。全11曲+ボーナストラックなのだが、このボーナストラックがゴリゴリのハードロック曲「人間ビデオ」である。(人間椅子の和嶋慎二とピエール中野が共作してる大変な曲。)
タイアップ曲なので流れは異なる、とはいえである。規則正しい字面を散々音楽で裏切ってきたところで、最後の最後に人間臭さ(さらにいえば血生臭さ)を感じさせるこの曲で終わらせる。なんせタイトルは「人間ビデオ」である。私もこれをきっかけに知ったが、いわゆる検索しない方がいいワードらしい。⚪︎体の画像がゴロゴロ出てきちゃうという……(本当か嘘かはわからないけど私は怖いので検証しません)そのどんでん返しっぷりはよくできていて、心地が良い。いや、最高……!
現在は2024年。7年前の作品に今さら大興奮しても誰も構ってはくれなさそうなので、とりあえず感想を書き留めておくことにした。というのも、学生時代から毛皮のマリーズは大ファンなのである。今でもよく聴くアーティストの一つなのだが、そのフロントマンでもあった志磨遼平が自叙伝「ぼくだけがブルー」を先月出版した。志磨さんのトークはとても好きだし興味深かったので、迷わず即購入。これがまた大変に面白く、最近は今まで距離を取っていたドレスコーズを聴いていたのだった。
私としてはやっぱり「1」以降が好みのようで、「ジャズ」「戀愛大全」「式日散花」もかなりの名盤であると思う。特に「戀愛大全」では志摩遼平式の90年代渋谷系を聴くことができてうれしい。(豪の部屋で聞いたところによると、渋谷系ファンでもあるらしい。)発表年を振り返ると、2017年が「平凡」、2019年に「ジャズ」と、とても突き抜けてイケてるアルバムを出しているわけだが、その後にコロナのパンデミックがやってきたと思うと、音楽もまた変容しているのを感じる。というか、2019年まではある意味世の中はバブル期にも近い明るさ、豊かさがあったようにも感じてしまう。
ということにも思いを馳せたりしたのは、また別のところで書こうと思う。もし書く気になったらね。
とにかく私の好きなアルバム、そしてアーティストに、新しく素晴らしいものたちがまた加わったというお話でした。
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