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スカイツリーの日々

最初は断然、東京タワー派だった。温かみのある色がいい。スカイツリーは、白っぽくて無機質な感じがするし、あまり興味がなかった。東京に遊びにきた父が張り切って一緒に最上階まで登ったけど、人が小さい!くらいの感想しか出ず、何故そんなにも気に入っているのかわからなかった。

上京してからも、どちらかといえば私は東京西部(中央線沿い高円寺〜吉祥寺あたり)が好きで、あまり東部にも縁がなく過ごしていた。かといって東京タワーと近しくなった訳でもなかったが。

しかし大学を卒業するタイミングで転機が訪れる。学生時代は利便性だけで家賃の高いエリアに住んでいた私だが、もう少し部屋が広くて生活感のある場所に住みたいと考えていた。その時にスカイツリー周辺は全く視野に入れていなかったが、まあ色々とあって総武線で両国〜平井あたりを揺られることになったのだ。

総武線の、しかも千葉方面に乗る機会がめっきりなかった私は、ぼーっとしながら外を眺めていた。すると急に巨大なスカイツリーが急にワ〜ッと現れて、ワ〜ッと去っていったのである。衝撃的だった。「なんだあれは!?」という気持ちである。正体はわかっている。高さが634(ムサシ)なのも知っている。が、その大きさを実感したのはここが初めてだった。最上階まで行った日も下から見上げていたはずだが、私は何を見ていたのだろう。「この辺りだと、電車でこんな風景が見られるのか〜」と思いながら目的地へ歩いた。

何件か部屋の内見をしたのだが、次の物件には徒歩で行けそうだったので橋を渡って行くことにした。少し日も落ちてきた頃だった。橋を渡ると、電車が走る音がした。電車を見ようとすると、そこには鉄橋と電車、そしてスカイツリー。
この光景で、完全にやられてしまった。スカイツリーに恋に落ちた瞬間。
ここに住みたい。スカイツリーのある生活、めっちゃいいじゃん。
物件がどうでも住みたい気持ちだったが、幸い物件にも恵まれ、無事にスカイツリーが近くにある生活を手に入れた私だった。

結局、最初にスカイツリーに惚れ込んだ橋には2,3回しか行っていないのだが、日々の通勤路でもスカイツリーを見ることができた。住むまで知らなかったのだが、スカイツリーは思っていたより色々な見た目をする。単純に色のバリエーションが多いだけでなく、キラキラ光ったり、一部だけ色を変えたりしているので、毎日見ていてもあまり飽きない。どなたかスポーツでメダルを取った時には「金メダル おめでとう」といったようなメッセージを首のところに表示していて、そんなこともできるのか!と驚いた。

ここで暮らす間、仕事がけっこうしんどくて、夜遅くにしょんぼりと帰ることもあったのだが、色々に光るスカイツリーを見ると少しだけ心が明るくなった。暗い中での道しるべのようにキラキラと光っていた。たった2年程度の期間だが、スカイツリーは確実に生活の中に浸透しており、スカイツリーが好きだったり、親しみを感じたりする人たちの気持ちがよくよくわかった。

私が住んでいたのは基本的にスカイツリーがそこそこの大きさで見えるくらいの場所だったが、ひと月だけスカイツリーのかなり近くで暮らしたことがある。その期間でも、ますますスカイツリーのことが好きになった。
なんといっても大きい。富士山の麓で暮らしたらこんな気持ちになるのだろうか。大きいのなんて当たり前だけれど、やはり近づけば近づくだけ「大きいな〜」ということを実感させられる。晴れた日の青空にポッカリとあるスカイツリー。深夜まで遊んでレンタルチャリで帰る途中、道標になりながら青くチカチカと光るスカイツリー。ショッキングピンク一色のスカイツリーを間近で見上げた日。曇りで上の方が見えなくなっていくのが不思議な感じだった。東京を去る前夜、せっかくならとスカイツリーが見えるホテルで青とゴールドにチカチカ光るのをじっと眺めていた。

スカイツリーの近くで暮らすと、みんなスカイツリーが好きになるのだろうか。それは分からないけれど、私はこの数年で確実に大好きになった。


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