【ラーメン攻撃】…小学生

怪我は男の勲章という言葉があるが、僕には人に自慢できるような勲章がない。

病院で初回診察時に記入するアンケートで
[過去に大きな怪我や大病を患ったことはありますか]
という項目がある。
僕は一度もないので[特になし]と書くのだけれど、一度くらいはそんな経験もしてみたかったなと思ったりする。
健康が一番なのは重々承知しているのだけど、そういった経験をしている人に少しだけ憧れがあるわけだ。
なのでアンケートに記入する時は[特になし]と書く前に何か書けることは無いかなと一応考えたりしている。

そんな僕の大したことない怪我の歴史の中で、一度だけ大怪我になりかけた事件がある。

僕が小学3年生の夏。土曜日のお昼にそれは起こった。
僕は小学校のサッカーチームに所属していて、その日サッカーの練習を終えて帰宅すると、家には7歳年上の兄が自分の部屋で寝ていて他の家族は出かけていた。
僕はユニフォームから着替えることもせず、1人で昼食にラーメンを作った。カップヌードルのカレー味のBIGだ。
本来は先にお風呂に入ってから昼ごはんを食べるのが暗黙のルールだが、家にそれを咎める人は誰もいないので僕は調子に乗っていた。
これから悲劇が起こるとも知らずに、意気揚々と鼻歌を歌いながらお湯を注いだカップラーメンを居間へと運んだ。
さあ食べるぞと机に容器を置こうとした瞬間、手を滑らせてカップラーメンを全て溢してしまった。
そして溢れたカップラーメンは真っ直ぐに僕の右足に襲いかかってきた。

「うぅっ!…あう」
僕は言葉にならない声を出してその場に倒れ込んだ。
「どうした!?」
兄が部屋から飛び出してきた。

熱々の麺とカレーのドロっとしたスープを太ももに乗せて倒れてる弟を見て全てを察した兄は、僕に向けて
「とにかく冷やせ!こっちこい!」
と言ったが僕は動かなかった。

人は衝撃的な痛みに見舞われると動けないんだな、とこの時学ぶことができた。
動かない僕を見て兄は
「おい!?動けよ!」
と不思議に思っていたが、僕はやっぱり動かなかった。
兄は僕の上に乗ってる麺たちをどかして、冷やすために風呂場へ僕を引きずっていった。
そうこうしているうちに母が帰宅しすぐに病院へ向かった。

診察時に初めて自分の火傷部分を見たら、ラーメンの麺が乗ってた部分と、乗ってない部分のコントラストがはっきりと分かれていて、迷彩柄のような火傷になっていた。
僕は
《なんてカッコ悪い勲章を残してしまったんだ》
と思った。

医者も
「この火傷は少し残るかもねぇ」
と言っていたが、少し笑っていた気がする。
僕は
《え、待ってください先生。今後友達とプールや銭湯に行く時は必ずこの火傷の説明をしなければいけないのですか?》
と言いたくなったが、そんなこと言える立場じゃないので黙って話を聞いていた。

家に帰るとこの事情を聞いた家族は全員笑っていた。
まだ幼い子供が怪我をしたという心配よりも、嘲笑が勝つくらいに間抜けな事件だったのだ。
僕は夏にもかかわらずしばらくは長ズボンを履いて登校した。
ただの長ズボンでは擦れて痛むため、兄から貰ったダボダボのラッパーとかが履くようなズボンを履いていたので、自然と腰パンというファッションを身につけた。

火傷はしばらくして綺麗さっぱり無くなったので、僕は恥ずかしい説明をしないで済んでいるが、もし残ってしまっていたら僕の人生は大きく変わっていたかもしれない。

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