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「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」よりーその②【選抜試験の流れ】

”「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」よりーそのX”と題した一連の記事は、
「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」という2008年の選抜試験について綿密に取材し、丁寧にまとめられた書籍を元に、
宇宙飛行士を目指している人間の一人として、知っているようで知らない、宇宙飛行士について勉強していくための足掛かりである。

前回は応募した志願者の特徴について、また、宇宙飛行士に選ばれた際のリスクについて記述した。
今回は、そんなリスクを背負ってでも、それでも宇宙に行きたい人たちが挑む宇宙飛行士選抜試験の流れ(書類提出~二次試験)についてまとめてみた。

ー宇宙飛行士選抜の流れ

JAXAが募集の発表を行ったのが、2008年2月27日。

そこから約3か月後の6月から、試験は始まった。

①書類提出・英語

2008年の選抜試験で最終選考まで残った、HTV(こうのとり)フライトディレクタの内山崇さんによると、まず以下の書類の提出を求められたという。
しかも期間は4/1~6/1の二か月間しかない。

(実は今、前回の選抜試験時のことを語った内山さんの記事が連載されていて無料で読むことができる!宇宙飛行士を目指す人はぜひこちらも読むといいと思う
また、12/5にはWeb連載をもとにした書籍も発売されるので要チェックだ)


①宇宙飛行士候補者志願書
②経歴書
③健康診断書
④健康状況調査書
⑤大学卒業証明書
⑥学位証明書(修士または博士の学位を有する者のみ)
⑦英語能力証明書類(海外在住者はこれにより英語試験免除可能)

応募時に求められた書類の数々

今までで一番書類を求められたのは、大学院の入試だが、その時でさえ
大学卒業証明書・大学成績証明書・経歴書・英語能力証明書類くらいだった。

①の”宇宙飛行士候補者志願書”なんてすぐに書けるものではないだろうから、日ごろからなぜ宇宙飛行士になりたいのか、自分がどのように貢献できるのかを考える必要があるだろう。
後述のように、一次試験の前に英語試験が実施されたのだが、その前の段階でも英語能力証明書類が必要のようだ。
やはり英語は最重要事項なのかもしれない。
そして今気づいたが、海外在住者は英語試験免除可能のようだ。海外に住んでいる優秀な人たちを宇宙飛行士に引き入れたいというJAXAの熱意の表れからだろう。
(自分がこれから研究者になりNASAで働いたりすると..などという妄想をしてしまう、、笑)


また、宇宙飛行士として働くには、何年もの間訓練を積まなければいけないし、そのための体力も必要なため、健康である必要がある。

がんなどの三大疾病、生活習慣病の発病、またその恐れのある人はこの段階で不採用となってしまうようだ。
(しかし、〇〇の病気ならば不採用ということは明記されていない)

以下はJAXAの健康状況調査書の一例だ。これだけでもかなりの病気が網羅されている。
(JAXA 健康状況調査書で検索すると出てくる)

JAXA健康状況調査書


書類提出の後は、英語試験だ。

英語試験の構成は以下。

・リスニング/リーディング試験(筆記式) 120分
・ライティング試験(コンピュータ入力式) 75分

(内山さんの連載より引用)

問題の内容は、1999年の採用試験では、英語試験はTOEICによく似た形式だったようだ。
2008年も同様だったかは現時点での自分の調査ではわかっていないのだが、1999年と同様ならば、TOEIC試験の勉強はすなわち宇宙飛行士選抜試験の英語試験対策にもなる!?かもしれない。
4コマ漫画を文章で解説するという文章表現力も問われたそう。

この時点で963人から1/4の230人に絞られた。

②一次選抜試験

一次選抜試験で重点的に行われたのは以下の2つだ。

・より詳細な医学検査

・心理/精神面の適正検査

体が健康であることはもちろん、精神面も健康でいなければならない。宇宙では長期間、外界と隔絶された世界で何が起こるかわからない環境の中暮らしていくため、精神面が健康かどうかも重要となる。

心理/精神面の適正検査は、500程度の質問事項にYes or Noで答える形式。

問題例
・「毎日の生活は充実している方だ」
・「人づきあいはいい方だ」
・「頭の中で人の声が聞こえる」

よく見る設問から突飛なものまで様々だったよう。

また、宇宙飛行士は、科学者の代わりに宇宙実験施設で実験を行う職業とも言えるので、科学や工学の知識が必須となる。

そのため、
5科目試験(数学、物理、化学、生物、地学)+一般教養、科学の専門知識を問う筆記試験も行われた。

問題例
・「1から100までの整数のうち、3でも5でも11でも割り切れない整数の個数は?」

高校で習ったはずだが計算方法がわからなかった、、
数Ⅰの集合で出てくる問題のようだ。

ベン図を利用すれば簡単に出てくる。

・「恒星の南中時刻は1日に何分早くなるか、遅くなるか?」

中学の時に習ったような気もするが、、全然わからん。

国立天文台のHPによると、
「南中」というのは、天体がちょうど真南にくることを表す言葉だそう。
ちなみに太陽の南中時刻は東ほど早く、西ほど遅くなるもよう(太陽が東から昇り、西へ沈んでいくため)

解答としては、1日に1°が正解みたいなんだけど、求め方がいまいちわからない…誰か分かる方いたら教えてください…


・「2008年現在、65歳以上の高齢者の総人口に占める割合は15%以上か否か」

これはすぐに15%以上だとわかった。
ちなみに、2019年のデータだと、28.4%で、
日本人の7人に1人が75歳以上とのこと。びっくり😱笑

・「内閣不信任案が可決された場合、内閣は何をしなければならないか」

内閣の総辞職しか思いつかなかったが、もう一つ、「衆議院の解散」という選択もあるようだ。

上記の問題の自分の正解率は2/4だったので、まだまだ知識の習得が必要だ…!!

数学のレベルは中学入試~高校数Ⅰ程度とのこと。

一般常識の問題は日常のニュースチェックのみならず、就職活動対策の本や、池上彰さんが分かりやすく解説している本で対策できるかもしれない。

肝心なのは、それぞれの分野において6割以上の正答率であることのようだ。何かの分野で突出していることはもちろん好ましいが、他の分野が平均より下だとOUTになる。

中途半端でも良いが、すべてにおいていい意味で中途半端である必要がある。並の中途半端では宇宙飛行士にはなれない。

この時点で230人から1/6の48人に絞られた。

③二次選抜試験

二次選抜試験では、以下の2つが行われた。

・心理学者、精神科医による検査

心身が健全であるか、さらに細かく徹底的に調べられた。医学的な検査は応募時の書類提出も含めると、ここで3回目だ
人間ドックで定評のある都内の医療機関などに協力を仰ぎ、4日間もかけて体のあらゆる機能が調べつくされ、心理学者や精神科医による検査が行われたそうだ。


・面接試験

面接試験は、応募者の医学分野以外の適正を審査する、7人の審査委員により行われた。
ここで初めてJAXAの審査員たちと顔合わせになった。
委員長は、当時のJAXAプロジェクトマネージャー 長谷川 義幸さん
国際宇宙ステーションに取り付けられた日本の実験施設「きぼう」の開発に20年前から携わってきた(当時)。

長谷川さんは5回目の採用試験について以下のように語っていたそうだ。

日本人宇宙飛行士が宇宙飛行を重ねて20年。その経験により、どのような日本人が優れた宇宙飛行士になれるのかがやっと分かってきた。今回(2008年)は『答えが分かって』選抜できる最初の試験。

他の6人は、外部の有識者3人とJAXAの部長クラス3人という構成。

面接では厳しい質問が続いた。

質問例①宇宙飛行士になぜなりたい?

宇宙飛行士は憧れだけでやっていける仕事ではないので、どれくらいの覚悟をしているのか、採用後はどのようなキャリアを考えているのか。

応募者の"本気度"が推し量られた。

たとえば、ある応募者は以下のように回答した。

「研究者のバックグラウンドを活かして、画期的な科学実験の提案をし、自分の手で宇宙分野の可能性を切り開きたい」

しかし、返ってきたのは以下のような厳しい言葉だった。

「宇宙飛行士は学者ではなく技術者です。(中略)
宇宙飛行士なんてつまるところ、実験装置のボタンを押すことしかできない。(中略)
宇宙飛行士になれば研究は一切できなくなるし、あなたの功績を証明するような論文も、一切書けません(※)。
今まで培ってきたキャリアや価値観を捨てることになりますが、あなたは未練なくやっていけますか?」

日頃から「宇宙飛行士」という夢を現実にするには何が必要か自問自答し、その手段を模索し、実際に自分が宇宙飛行士になったら何ができるのか、そのために今自分がすべきことは何なのか考えていく必要がある。

これから人生を進んでいく中で、綺麗事だけじゃなく、かつ合理的な答えが出てくると思う。それでも、「宇宙に行きたいから宇宙飛行士になりたい」という根底にある気持ちは変わらないだろう。

あなたなら何と答えるだろう。

※これは必ずしも正しくはない。一例として、土井飛行士はミッションを宇宙でミッションを行う中で、「もう少し専門的に宇宙のことを知りたい」という思いから、自分のミッションが終了した後で、アメリカのライス大学に通い、天文学の博士号を取得した。

質問例②あなたは宴会の幹事をしたことがありますか?

これは、仲間の意見を募りそれをまとめ上げる「リーダーシップ」と人をもてなしたり楽しませたりする「コミュニケーション能力」を備えているか問う質問だったようだ。

日常の中の飲み会でさえ、宇宙飛行士に繋がっている。
要は、日頃から率先して皆を引っ張っていくことを意識することが大事だ。(もちろん、後ろから皆を押すことも)

_ _ _ _ _ 

余談だが、私は今までリーダーとして集団を率いることから逃げることが多かったのだが(宴会の仕切りなら何度も経験がある)、オンラインサロンでプロジェクトリーダーになったので、

大学時代、同じサークルで部長をしていた友達に集団を率いる秘訣を聞いてみると、以下のような回答をもらえた。

・みんなといかに同じ時間を共有して、相手のことをどこまで知るか
・一番は自分らしく(無理しないこと)

_ _ _ _ _

上記のような質問がいくつもあり、一人あたりだいたい40分ほどかかったという。

博士課程を経験した人ならこれくらいの口頭試問には慣れているかもしれない、あるいは教壇に立つ人はもっと長い時間人に説明しているので人に説明すること自体は簡単かもしれない。(宇宙飛行士になるチャンス!)


そうではない自分のような人は、日頃から厳しい質問を意識して生活していこう。
まわりの人に、宇宙飛行士選抜試験を意識した模擬試験、模擬質問を作ってもらうのもいいだろう。


今回は宇宙飛行士選抜試験の書類選考から二次試験までの流れを確認した。
次回は時代によって変わる、宇宙飛行士として求められる人材についてまとめたい。

<参考>
・ドキュメント-宇宙飛行士選抜試験- 大鐘良一・小原 健右 著

・宇宙兄弟公式サイト
https://koyamachuya.com/column/column_category/uchiyama/
・国立天文台HP
https://www.nao.ac.jp/faq/a0107.html
・日経新聞 記事
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49851150V10C19A9MM8000/
・東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構 インタビュー記事https://www.ipmu.jp/sites/default/files/webfm/pdfs/news3/036-039-Interview.pdf

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