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【閑話】書かれたものはすべて片言隻句

 書かれたものは全て、片言隻句である。それは氷山の、海面から出た部分である。

その下には、技術がある。文章表現の技術、構成の技術、論理の技術、等々。

またその下には、その人間の経てきたあらゆる経験がある。思索の跡がある。知識や教養の集積がある。

さらにその下には、その人間の生き方がある。朝の過ごし方があり、昼の過ごし方があり、夜の過ごし方がある。他人と接するときの心の持ちようがある。行為としての思想がある。

あらゆることばは片言隻句である。そこから実義を得るためには、眼光紙背に徹することが必要である。氷山を、海面に潜って見る必要がある。

そんな風にして、福田を見ようとした。すると、完成した人間としてではなく、書くことで少しずつ「福田恆存」になっていく、一人の人間が目の前に現れてきた。

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