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タイムリミット

よくわからないけど道なりに走ってきた
なんとなく遠くに行きたい気分だった
免許を取ったばかりで気がはやっていたのが本当だ
助手席には友達が座っている
深夜のバイト明けで悪いとは思ったけど付き合ってもらった

車の中では流行のJ-POPがかかっている
友達は洋楽のCDをかけたいと言うけどそれだけは譲れない
洋楽は受けつけない
聴き慣れているJ-POPの方が良いに決まってる

カッコつけるのはやめた方がいい

街中は避けて田舎の方へ向かっている
車は多くなくて道も穏やかなので運転を楽しめる
空はしっかりと晴れている
まだ午前中のこの時間なので朝露に濡れたような澄んだ空気が心地良い
目的もなく下調べもしていないので周りを見渡しながら面白そうなものがないかと探す

友達は特に眠そうな様子もなくてシートに深く座り込んでいる感じ
元々おとなしい性格
小学校からの長い付き合いだからわかっている
お互い気をつかい合うような気まずさはないはず

道路の標識を確認しながらなんとなく右折したり左折したりしている
その途中に大きなダムがある
面白そうと思って寄る
他に来ている車もいてちょっとした観光スポットなのかもしれない
田舎ならでは

ダムの下が見下ろせる柵が張ってある場所に人が集まっている
そこに俺らも近付いて同じように下を見下ろす
それは壮大な見せ物で大量の水が一気に放出されている
水が助走をつけて大きくジャンプしているようなイメージ
その周りを囲むコンクリートの構造物もスゴイ
どういう手順で作ったんだろうという驚きがある
技術の蓄積が詰まった奇跡

友達は一言も話さない
その青白いポーカーフェイスで何を考えているのか
長めの前髪が風で揺れている
切れよと思う

キモイ

そこまで思うとかわいそうかもしれない

「虹がかかってる」

ん?

友達が指で方向を示している

「そう・・・」

俺の反応は冷ややか
だからどうしたという感じで自分でも驚くくらい冷たいと思う
確かに虹がかかっている
水の放出口の付近
キレイとは言わない
当たり前だ

それこそキ・モ・イ

もう十分 じゅうぶんだと思って車に向かう
友達もそれに続く
俺はタメ息をつく
これからどこに行くのかを考えないといけない

車に戻ってエンジンをかけると音楽が流れる

「タイムリミット」

え?

「この曲のタイトル」と友達が言う

俺は何故か きょをつかれたような感じ

「イイ曲じゃん」と友達が言う

俺もそう思う

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