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回転寿司屋で100円のガチャを回した話

「お父さんがくら寿司行こう、って」

暑い部屋の中、目覚め頭に母がそう言う。
朝食を食べた後昼過ぎまで二度寝を決め込んでいたものだから、私は少し驚いた。
それでも、久しぶりの外食のお誘い、寝覚めは良好だった。

1人暮らしをしていた際、外食なんていかなかった。
そもそもファミリーレストラン類の人の声は私にとっては騒音のように感じられる。
1人行動に慣れている私でもファミリーレストランに単独で向かうには少し気が引けるものだ。

久々に向かった近所のチェーン回転寿司屋は休日の昼時ということもあって賑わいを見せていた。そんな中で番号札を呼ぶアナウンスも大音量だ。

以前の私なら耳を塞ぎ、怪訝な顔をしながら不機嫌になっていただろう。
しかし案の定、今の私は違った。
家族揃ってこの騒々しさの中にいられることが幸せに感じられた。

弟がアプリで予約を取っていてくれたのですんなりと席につくことができた。

回転寿司やなのだから当然のことなのだが、お寿司がくるくるとレーンに乗って回っている。
ごく当たり前の光景なのだが、やはり特別に思えてしまう。

今は退職し無事(?)無職になったわけなので、成人していながら親のお金で食事にありついている。
理由が理由の退職なので、親も嫌な顔をせずに「居てくれることが何よりだから」と食費を賄ってくれている。
というわけで、弟と共に今日もお寿司をご馳走になったわけだ。

1人じゃ絶対に来なかっただろう。
それに、きっと周囲の家族連れを見ては寂しく思っていたに違いない。

久々に食した1貫目はサーモン。
なんてことないありふれたものなのだろうが、皆との会話がその美味しさを割り増しさせてくれる。

私と弟は決まってレーン側に座るものだから、父母に取って欲しいものを指示されるのでゆっくり食べることができない時もある。
しかしそのちょっとした慌ただしさがしあわせなのだ。
子供のようだが、頼られていることもちょっぴり嬉しかったりするもので。

みんなで会話しながら食べ進める。
ほんと、何気ない会話なのにとてもしあわせ。

帰りには店の玄関にある100円のガチャガチャをしたいと母にねだった。
はいどうぞ、と100円が渡されてハンドルを回す。
ここからがうちのルーティンなのだが、ラインナップを見て1番欲しいものと欲しくないものを決める。
そして購入者ではない人が中身を確かめるのだ。

今日は母と弟が中身を確認してくれた。
にやにやしながらカプセルを渡される。
私はいつも引きが悪いのだ。

今日はどうだろう、と渡されたカプセルの中身を確認すると、2番目に欲しいものが入っていた。

100円の景品だから大したものではないのだが、いろいろな喜びを含め、私は嬉々としてカバンにそのキーホルダーを取り付ける。
少々子供っぽいのだが、それがまた嬉しい。

早く親離れしないと、とそのキーホルダーを眺めながら思う。
しかしまだ、皆と楽しい日常を味わっていたい。

そんなアンビバレントな感情を抱きつつ、父が運転する車の後部座席で揺られて自宅へと向かった。

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