ココイチとモネ

 
 丸ノ内線の駅を降り、ラジオの収録の前に、ココ壱番屋に入った。
 構成作家はパーソナリティに指示出しするため、ブースに入るので、本番中、お腹が鳴るといけないのだ。
 店内を進むと、高校生くらいの年ごろの女の子が二人、もうカレーを食べ終わったのか、おしゃべりをしていた。
(ココイチに女の子二人ってけっこう珍しいな)とぼくは思った。
 ライス150グラムサイズのポークカレーに半熟卵をトッピングして注文する。ほどなくして提供されたカレーを食べていると、女の子たちの会話がぼくの耳に届いた。
 ジャージ姿の女の子が言った。「岐阜に行きたいんだよねー」
(岐阜か)ぼくは(岐阜に、女の子がわざわざ行きたい場所なんてあったっけ?)などと失礼な感想を抱いていた。
 グレーのパーカーの女の子が尋ねる。「なんで岐阜?」
「モネの『睡蓮』にそっくりの池があるんだって」
「マジ? モネの睡蓮? すごいじゃん!」
 ぼくは内心驚いていた。(え? モネの『睡蓮』に似た池? それ、なんか聞いたことあるぞ。ていうか、なぜ高校生の女の子が『モネの睡蓮』なんて知ってるんだ?)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/Claude_Monet_038.jpg/1920px-Claude_Monet_038.jpg

 ジャージの女の子がスマホで検索をかけながら「その池はモネが描いた絵にそっくりなんだけど、やっぱり日本の池だから、ニシキゴイが泳いでいて、それがとてもきれいなんだって。ほら」
 ジャージの子が示したスマホの画像を見て「うわ、すご。これわたしも観たい」
「じゃあいつかいっしょに行こうよ」
「行こう行こう」
 ぼくは手元のスマホで検索を試みした。なるほど、これは確かにきれいだ。通称、「モネの池」というらしい。
 カレーを食べ終わったぼくは、去りぎわに女の子たちの様子を横目で観察した。向かい合わせのテーブルには、東急ハンズで見かけるような、絵を入れる長くて大きく四角く黒いバッグが立てかけてあった。
 そういえば今は4月だから、高校生と思ったのは、ひょっとすると、今年度から美大に通いはじめたばかりの、女子大生かもしれないな、と考えつつ、ぼくはPASMOで会計を済ませ、ココ壱番屋を出て、スタジオに向かった。

https://www.city.seki.lg.jp/cmsfiles/contents/0000008/8969/IMG_3437.JPG


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