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「性能のよい 〜シェイクスピア作『オセロー』より」 (2006)

※上演ご希望ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。著作権はシェイクスピア及び田口アヤコに、上演権はCOLLOLに帰属します。


【上演記録】

COLLOL
「性能のよい 〜シェイクスピア作『オセロー』より」
2006年1月6日(金)〜9日(月・祝)
@王子小劇場

STAFF

音響演出・作曲  江村桂吾
照明       関口裕二(balance,inc.DESIGN)
照明オペレーター 

美術「amu!amu!」ナカガワエリ
衣裳       田口アヤコ


記録映像  藤田敏正(FOU production)
WEB    鈴木順子(PISTOL☆STAR)


舞台監督  吉田慎一

制作    眞覚香那子

words&direction 田口アヤコ


CAST

村上哲也
オセロー
ロダリーゴー
エミーリア
京王線で出会うおとこ

笠木真人(ひょっとこ乱舞)
オセロー
イアーゴー
デズデモーナ
庄三さんにうらぎられたおとこ

伊東沙保(ひょっとこ乱舞)
オセロー
イアーゴー
デズデモーナ
たき火をするおんな

円谷久美子
デズデモーナ
ロダリーゴー
エミーリア
京王線で出会うおんな

金崎敬江(bird's-eye view)
デズデモーナ
イアーゴー
くすりをのむおんな

八ツ田裕美
デズデモーナ
イアーゴー
エミーリア
だまされたおんな

田口アヤコ
ピアノを演奏する人


本日はご来場いただきありがとうございます。
みたひとが
おうちに帰ったあと
だいじなひとに みたもののことを話したくなったり
これは ぜったいに話すことができない ということを抱えこんだり
という 1時間15分をつくりました

どうぞごゆっくりおたのしみください。

Vulgar and vivid;
As warm as blood-heat;
Colorful and aromatic;
Beautiful like lots of dreams

俗でなまなましく
血のかよったあたたかく
色彩ゆたかにかぐわしく
夢みるようにうつくしく

COLLOL
劇作家/女優 田口アヤコ



『性能のよい』のための映像短編

Vol.1『結婚』
撮影:寺島由紀
出演:瀬島典子 円谷久美子 八ツ田裕美 田口アヤコ
音楽・演奏:中澤史絵

Vol.2『出会い』
撮影:寺島由紀
出演:大澤共輝 石川油 円谷久美子
音楽:田口アヤコ

Vol.3『戦争』
撮影:藤田敏正
出演:江村桂吾 金崎敬江
音楽:江村桂吾
ピアノ演奏:田口アヤコ

Vol.4『裏切り』

Vol.1〜4
すべての Words&direction および 編集:田口アヤコ


*********

客入れ曲
♪I was made to love her

<オープニング>

●パフォーマ−登場

●オープニング ベネツィアとキプロス

ここは ヴェニス
ヴェニス ゴンドラ?!
ゴンドラ。。
ゴンドラかあ。。
英語で Venice(ヴェニス)
フランス語で Venise(ヴニーズ)
ドイツ語で Venedig(ヴェネディヒ)
日本語では〜
ヴェニス ベニス
ヴェネツィア ヴェネチア ベネチア ベネツィア
めんどう。V だから。
 
ヴェネツィア本島は 大きなさかなのようなかたちをしていて
そのまんなかに 逆S字型におおきな運河が流れている。
小さな運河が176本 運河によって切り離された 島の数は122
むかしは海の上に浮かんでた 島 だったけど
いまは鉄道と自動車道路でイタリアにつながれている。
でもヴェネツィアのなかでは 車は走れない。

大潮、気圧の変化、南から吹く風「シロッコ」の
3つの要因が重なると、
「アクア・カルタ」と呼ばれる高潮が発生。
サン・マルコ広場は水没する。
地盤沈下もすすんでるから、
将来 地球の温暖化がもっと進行したら
ヴェネツィアの町 全体が アドリア海に水没してしまうのではないか
と 懸念されている。


キプロス。
面積 9251㎢
人口 80万人
首都はレフコシア。
北緯35° 東経33°
トルコの下。おおきさは四国の半分くらい
地中海の中で シチリア島、サルジニア島に次ぐ
3番目に大きな島
1960年イギリスより独立、
したのだけれど、
いまでも国内2カ所に大きな軍事基地がある。島国ぽいかんじ。
日本みたいなかんじ。
そのあともばたばたとして、
1974年にクーデター そして
北と南に分裂
市内には ベルリンみたいに 壁がある。いまだ。
北が トルコ系、 南が ギリシャ系

東地中海のまんなかにあるから
いろんな国に支配された
ヒッタイト とか アッシリア とか 東ローマ帝国 とか。
キプロス王国 というのがいちどできたのだけれど
1470年に断絶
そして ヴェネツィア王国が キプロスを植民地として 手に入れた。

主要産業は観光業
美の女神 ヴィーナスの産まれた海 ともいわれている。
そしてワインがうまれた島 ともいわれている。秋には各地でワイン祭り
365日のうち 晴れてる日が340日
明るい明るい 地中海の 島。
英語よみでは サイプラス
キプロス。


♪ピアノ キプロス


<シーン1>

●1.1 イアーゴーとロダリーゴー

(かさぎ  & かなざき)

イアーゴー(かな):まあまて。
イアーゴー(かさ):俺があいつに仕えているのは、実はこっちの用件のためもあるのさ。
イアーゴー(かな):人間誰しも親分になれるわけではないし、
イアーゴー(かさ):親分は誰しもがいい家来に恵まれるというものでもない。
イアーゴー(かな):義理がたくかしづいてる有象無象どもはたくさんいる、
イアーゴー(かさ):おのれの奴隷の身分に甘んじ、得々として一生を過ごす輩、
イアーゴー(かな):主人の言いなりになるロバのように。
イアーゴー(かさ):それでもらうものはまずい飼い葉だけ、
イアーゴー(かな):年をとりゃあ売りとばされる。
イアーゴー(かさ):だが、そうでないやつもいる、
イアーゴー(かな):見かけはりっぱな忠義面、
イアーゴー(かさ):内心 忠義を尽くしている相手は自分自身、
イアーゴー(かな):主人に忠勤を励むと見せかけながら、
イアーゴー(かさ):自分の腹を肥やしている。
イアーゴー(かな):こういう連中には何がしの根性がある。
イアーゴー(かさ):俺様はまさにこんな類いだ。
イアーゴー(かな):なぜってさ、
イアーゴー(かさ):君がロダリーゴーであることは確かなことだが、
イアーゴー(かな):この俺がオセローなら 俺はイアーゴーではない。
イアーゴー(かさ):あいつに仕えてはいるが、
イアーゴー(かな):俺が仕えてるのは実はこの俺様自身、
イアーゴー(かさ):愛だとか義務だとかはどうでもいい。
イアーゴー(かな):ただ俺自身の個人的な思惑のために、そういうフリをしているだけのことだ。
イアーゴー(かさ):俺は俺ではない。

(いとう  & やつだ vs むらかみ)

ロダリーゴー(む):ちぇっ! まったく君は不親切だよ、イアーゴー、
ぼくの財布を完全に自分のものにしてきた君がさ、
このことを ぼくにまったく話してくれなかったなんて。

イアーゴー(い):くそっ! 君は俺の言うことをまったく聞いてないな!
こんなことになるなんて俺が想像してたわけないだろ。

ロダリーゴー(む):言ってたじゃないか、
君はあいつが嫌いだって。

イアーゴー(い):ああ そうさ
町のお偉方が、この俺をやつの副官にしてくれと
頭を下げて頼んでくれた、三人そろってさ!
俺には俺の値打ちがよくわかってる、副官には十分だ。
ところがあの野郎、自分のやり方を曲げるのがよっぽどいやならしい、
軍隊用語をちりばめて、こちらの話を何のかのと言いぬけやがる。
要するにだ、
俺の副官の件は却下。
「副官の選考は すでに終えておりますので」だと。
決まった男、何者だと思う?
驚くなかれ、
マイケル・キャッシオーという名のフィレンツェ生まれの男だ。
実際の戦場だったら 一個小隊の指揮すらできない ずぶのとうしろ
唯一の取り柄は 口先だけの戦術学、
それがあいつの軍人精神てやつだ。それがどうだ! 副官様!
この俺は、ロードス島、キプロス島、その他いたるところで
オセローの目の前で戦ったこの俺は、
この貸し方、借り方、簿記専門のそろばん野郎のあとにつきしたがい
ただおとなしく、満足していなけりゃならんというわけだ。
キャッシオーはまんまとオセローの副官様!
そしてこの俺様は オセロー閣下の旗持ちだ!
さあ、これでもどうしてこの俺があのオセローを大事にしなけりゃならん理由があるのか?

ロダリーゴー(む):じゃあ 家来にならなきゃいい!
ぼくだったら、あいつの首つり役になりたいくらいだ。

イアーゴー(い):まあまて。
俺があいつに仕えているのは、実はこっちの用件のためもあるのさ。
イアーゴー(や):人間誰しも親分になれるわけではないし、
イアーゴー(い):親分は誰しもがいい家来に恵まれるというものでもない。
イアーゴー(や):義理がたくかしづいてる有象無象どもは
イアーゴー(い):たくさんいる、おのれの奴隷の身分に甘んじ、
イアーゴー(や):得々として一生を過ごす輩。主人の言いなりになるロバのように
イアーゴー(い):それでもらうものはまずい飼い葉だけ。
イアーゴー(や):年をとりゃあ売りとばされる。
イアーゴー(い):だが、そうでないやつもいる、
イアーゴー(や):見かけはりっぱな忠義面、
イアーゴー(い):内心 忠義を尽くしている相手は自分自身、
        主人に忠勤を励むと見せかけながら、
イアーゴー(や):自分の腹を肥やしている。
イアーゴー(い):こういう連中には何がしの根性がある。
イアーゴー(や):俺様はまさにこんな類いだ。
イアーゴー(い):なぜってさ、
イアーゴー(や):君がロダリーゴーであることは確かなことだが、
イアーゴー(い):この俺がオセローなら 俺はイアーゴーではない。
イアーゴー(や):あいつに仕えてはいるが、俺が仕えてるのは実はこの俺様自身、
イアーゴー(い):愛だとか義務だとかはどうでもいい。
イアーゴー(や):ただ俺自身の個人的な思惑のために、そういうフリをしているだけのことだ。
イアーゴー(い):俺は俺ではない。

ロダリーゴー(む):このままなにもかもうまくやってけるとしたらさ、あのムーアの野郎、
何とつきの回った奴だろう!
ああ、彼女があいつのものになんて!

イアーゴー(い):デズデモーナのおやじを呼び出せ、たたき起こすんだ、
オセローはお楽しみの最中だ、そこに毒を注いでやれ。
お楽しみはお楽しみだろうが、少しはいやがらせをして興醒めさせてやらないと。

ロダリーゴー(む):ここがあの女(ひと)の家だ。どなってやろう。

イアーゴー(い):やれやれ!
真夜中、町のまんなかで火事が起こったようにわめくんだ。

ロダリーゴー(む):おおい! ブラバンショー! ブラバンショー閣下、たいへんだ!

イアーゴー(い):起きろ! ブラバンショー! 泥棒、泥棒、泥棒だ!
ご用心あれ、お宅の戸締まりは? 娘さんは? 金袋は?
泥棒だ! 泥棒だ!


●ブラバンショーについて あやこ

ブラバンショー というのは ヴェネツィアの貴族の娘 デズデモーナの父親

こちらのロダリーゴーという男
デズデモーナに求婚したが
あっさり このブラバンショーにはねつけられた という過去がある

デズデモーナは 黒人 ムーア人の将軍 オセローと愛し合っている
こちらの男 イアーゴー は
その将軍オセローの腹心の部下

父親ブラバンショーは 黒い男と愛し合う娘を許さない
しかし
ヴェネツィアに大きな功績をもつ将軍オセロー
ヴェネツィア公爵と 議員たちは
この結婚を認めないわけにはいかない
おりしも
敵国トルコの艦隊が 植民地キプロスへ向かっている という
報告が入ってくる
この戦いには 優秀な将軍オセローが必要とされている

この混乱の中
オセロー と デズデモーナ
ふたりは 結婚する。


<シーン2>

●断片結婚 ♪ピアノ あやこ & つぶらや


●1.3 オセローとデズデモーナ 出会い

オセロー:
それでは彼女が参りますまで、ここでわたくしオセローが天に向かい、真実をもって、
(1)(かな)え
   (やつ)真実?

いかにしてわたくしが、デズデモーナの愛を得るに成功したかを
(2)(かさ)愛?(でてくる)

皆様にお話ししましょう。
(3)(いと)なになに?(でてくる)
   (つぶ)ききたい(でてくる)
 
彼女の父親 ブラバンショーは、
たびたび自分の邸にわたくしを呼んで わたくしの身の上話を聞きたがりました。
(4)(かな)あたしも聞きたいー(でてくる)
   (やつ)へー(でてくる)
   (いと)うんうん

これまでわたくしが経験した数々の戦闘、事件
死をおかして城壁を破り、間一髪死をまぬがれたことや、
(5)(つぶ)すごーい
   (かさ)へー

敵の手に捕えられて、奴隷に売られ、身代金を払って逃げ帰ったこと、
(6)(いと)やだ
   (かさ)え いくら?
   (かな)かわいそう

互いに他を食い合う食人種、
(7)(つぶ)えー
   (やつ)へー

デズデモーナは 熱心に、むさぼるように耳を傾けておりました。
しかし家の仕事に追われて、よく中座しなければならず、それに気づいたわたくしは
(8)(いと)え?

一度、彼女のほうから もう一度話してくれ と
(9)(かな)ききたーい

わたくしに頼みこむように仕向けました。
(10)(いと)ききたい

物語が終わると、
彼女は何度もため息をもらし、
(11)(つぶ)え
    (いと やつ)えー
    (かな)わあ
    (かさ)そうなんだ

不思議で、驚くばかり、
かわいそうで、かわいそうでたまらない、と申しました。
そして
(12)(つぶ)うん

もしわたくしの友人の男で デズデモーナの愛を得たいという人がいたら、
(13)(やつ)愛?

わたくしのこの物語をすれば、
彼女のこころはきっと動いてしまう と言ったのです。
(14)(つぶ かさ)へー
    (やつ いと)えー
    (かな)そうなんだ

彼女はわたくしの経験、数々の危険の故にわたくしを愛してくれた、
(15)(いと)すごーい
   (つぶ)へー
   (かな)うんうん

そしてわたくしは、わたくしに同情してくれたデズデモーナを愛した。
(16)(かな)愛?
    (つぶ)同情って?
    (やつ)へー

デズデモーナが来ました。彼女のことばを お聞きください。


デズデモーナ:お父さま
いま わたくしのおつとめは 二つに引き裂かれています。
わたくしが生まれ、ここまでにしていただいたのは お父さまのおかげ、
深く深く敬い、敬愛の念、感謝の気持ちはことばではいいあらわせないばかり。
しかし いまはここに わたくしの夫オセローがいる。
お母さまが おじいさまよりもお父さまを大事になさったように、
わたくしも
わたくしの最上のおつとめを
わたくしの夫 オセローさまに捧げます。


●断片出会い むらかみ & つぶらや

(平日昼間 ほとんどひとのいない京王線の車内 ロングシート)

女  あの こないだ

男  え

女  あのあそこで

男  あ あ えっと

女  遠藤です

男  あ どうも 高崎です

女  あれ きょうは お休みですか

男  あ 振休で あのー休日出勤の分で。

女  あ

男  仕事中 ですよね

女  えーっと
   まあ ちょっと ふらっと

男  あ 営業とかじゃあないんですか

女  あー 営業なんですけど。
   えーっと なんか。
   高崎さん どこまで行くんですか?

男  あ えーっと おれもふらっと 新宿まで

女  あ いっしょです

男  あ 名刺 わたしたっけ?

女  あ えっと
   こないだ わたしからわたして
   連絡 ください ってことで。

男  あ あ

女  新宿 どこ行くんですか

男  なんか 家 出てはみたんだけど
   どこ行こうかなあって

女  あ 休みの日って そうですよね

男  なんか すっごい前に
   いちどお会いしてますよね

女  え

男  あの えーっと
   サッカーの
   あのー 高木君の。

女  え
   あ
   あ
   あ そーだ
   あ どうも。。


●断片出会い かさぎ & かなざき

(渋谷円山町 とあるラブホテル前)

男  すいません

女  え
   え
   ぜんぜん だいじょぶ
   うん
   え
   ごめんね
   えっと 駅まで とりあえず
   山手線?

男  手 つないでもいいですか

(女 手を出す つなぐ 歩き出す)

男  近藤さんて 北海道でしたっけ

女  うん

男  札幌 市内ですか

女  うん

男  寒そうですよね

女  うん さむいよー

男  寒いですね

女  うん

男  朝かー

女  仕事は?

男  行きます

女  あ このまま?

男  あ はい

女  休んじゃえば?

男  いやー
   今日 休みですか

女  ん たまたま
   きょうは

男  つぎ
   シフト

女  え
   あ あさって
   えっと
   あ 駅 こっちか
   ごめんね

男  え(立ち止まる)

女  (手を放す)やっぱ

男  だめですか

女  だめじゃないよ
   ぜんぜん だめじゃないよ

男  あの
   おれ
   2番でも3番でも 何番でもいいんで

女  なにも 約束とか できない
   けど。


<シーン3>

●1.3 イアーゴーとロダリーゴー
(いとう  & やつだ vs つぶらや)

ロダリーゴー(つ):イアーゴー。

イアーゴー(いとうやつだ):何だい、坊ちゃん?

ロダリーゴー(つ):おれはいったいどうすりゃいいんだろう?

イアーゴー(い):そりゃあ、今すぐ寝床へ入って 寝るんだね。

ロダリーゴー(つ):ぼくは 今すぐ身投げがしたいよ。

イアーゴー(や):じゃあ勝手におやんなさい、
イアーゴー(い):だがもう こんりんざいほっとくぞ このバカ王子!

ロダリーゴー(つ):生きてるってことが苦痛にかんじられるときには、
生なんてまったく愚劣だ。
だから 死神がわれわれのお医者であるということにして、
「死んでもいい」という処方箋をもらう…

イアーゴー(い):ばかだな!
イアーゴー(や):俺はこの世間というものを今日まで、二十と八年も見てきたが
イアーゴー(い):自分自身というものをほんとに大事にする奴っていうのには、
イアーゴー(や):とんとお目にかかったことがない。
イアーゴー(い):たかが夜鷹の一羽や二羽、それに惚れたから身投げするのどうの、
イアーゴー(や):俺様ならいっそ人間の商売やめて オランウータンにでもなった方がましだ!

ロダリーゴー(つ):ぼくはどうしたらいいんだろ?
ここまで彼女に惚れこむなんて まったくばかばかしい
でも それを矯正する 強い性格というものが無いんだよ、このぼくには。

イアーゴー(や):強い性格?
イアーゴー(い):われわれがこうだああだいうのは、みんなわれわれ自身の内部にあることなわけさ。
イアーゴー(いとうやつだ):
われわれのからだはわれわれの庭だ、俺たちの意志はその庭師だ。
いらくさを植えようが ちさを蒔こうが、
やなぎはっかを残して たちじゃこうそうを引き抜こうが、
草花を一種類だけ植えようが、ありとあらゆるものを植えようが、
手入れを怠けて駄目にしようが、精を出してしっかり肥やしをやろうが、
イアーゴー(い):つまりだ、これを統制する力、支配する能力はわれわれの意志にある。
イアーゴー(や):もし俺たちの天秤に、あの欲情と釣り合う理性の皿ってやつがなけりゃあ、
イアーゴー(い):俺たちの生まれつきのお下劣な品性が、
イアーゴー(いとうやつだ):どうしようもない場所まで俺たちを連れてゆくことになる。
イアーゴー(い):さあ、男らしくし給え! 身投げするって? 
イアーゴー(や):どうしても投げるんなら、猫かめくらの仔犬にしろよ! 
イアーゴー(い):(以下 太字部分 いとうやつだ)
俺は君の友だちだとはっきり宣言しただろ。
君の面倒見があまりにもいいからこそ、
切るに切れないぶっとい綱で 俺は君に結びつけられているわけさ。
今ほど俺がお前の役に立てるときはないよ。
君の財布に金を入れとくんだ。そしてちょっと変装して この戦争についていけ。
いいか、君の財布に金をちゃあんと入れとけ。
デズデモーナのオセローへの愛なんて、長く続くはずがない。君の財布に金を入れとくんだ。
オセローの愛情だって同んなじこった。
あまりにも無茶な始まりだ。やがて同じように無茶な結末が必ずやってくる。
君の財布に金を入れとくんだ。
あいつらムーア人は気が変わり易い。君の財布をぱんぱんにしとくんだ。
女の方は もっと若いのに乗り換えるに決まってる。
あいつのからだに飽きが来たらさ、こりゃあ選択を誤ったと気がつくだろう。
乗り換えなくちゃいけない、乗り換えなくちゃ!
だからね 君の財布に金を入れとくんだ。
どうしても地獄へ落ちなきゃ気がすまんというなら、
身投げなんかしないで、もっとマシな方法でやれよ。できるだけ金を工面しろよ。
安心しろ お前にあの女を楽しませてやる。だから金を工面しろよ。
身投げする奴なんか阿呆だ! まったくなんにも見ていない。
身投げなんかしたら 女の味見すら出来ない。
イアーゴー(や):大いに楽しんで 縛り首にでもなった方が ずっとマシだろ。

ロダリーゴー(つ):わかった、
君はぼくの力になってくれるってことだよね?

イアーゴー(い):俺のことは心配するな。金の工面だ。
俺はあのオセローが憎い。
君だって同じことだろ。
ほら 回れ右! 前へ進め! 金の用意! あとはまた明日話すことにしよう。

ロダリーゴー(つ):明日 どこで会おう?

イアーゴー(い):俺の宿で。

ロダリーゴー(つ):じゃできるだけ早くゆくよ。

イアーゴー(い):オーケーオーケー、グッドバイ。
イアーゴー(や):…いいかい、ロダリーゴー?

ロダリーゴー(つ):何?

イアーゴー(や):もう身投げはやめだよ、オーケー?

ロダリーゴー(つ):もう気が変わったよ。

イアーゴー(い):オーケーオーケー、さようなら。
イアーゴー(いとうやつだ):君の 財布に たっぷり金を入れとくんだ。

ロダリーゴー(つ):ぼく いま持ってる手持ちの土地は全部売ってくよ。〔退場〕

イアーゴー(いとう かなざき かさぎ それぞれ):
こうして俺は いつも 俺のカモを俺自身の財布にしてやる…
俺はあのオセローが憎い。
やつは俺のベッドで、
俺様の仕事をやらかしちまったっていう評判だ。
あいつは俺をとことん信頼している。
それだけ やつに対する仕事はやりやすいってわけだ。
そういや キャッシオーってやつはハンサムな男だ。
そうだ…
キャッシオーの地位をもらう、その上で俺様のオセローに対する恨みを晴らす。
この二重の悪を働くには…どうすりゃいい。どうすりゃいい?
ふうむ…
オセローの耳から騙してやろう、

イアーゴー(いとう かなざき かさぎ):
「あのキャッシオーは、あなたの奥さんとあんまり仲が良すぎるんじゃあないですか?」
オセローは卒直で、寛大、
人を見れば正直だと思いこむ、
そしていとも簡単に 鼻っ面で引き回されてしまう、
まるで ロバだ。
オーケー!

イアーゴー(いとう かさぎ かなざき):すばらしい考えだ!
あとは地獄と夜が、
この生まれてくる怪物を
この世の明るみに出してくれるだろう。〔退場〕


●断片戦争 ♪ピアノ やつだ & あやこ


●断片戦争 いとう & つぶらや

(海岸 冬 夜 流木をあつめて たき火をしている 女ふたり)

女1  寒い

女2  え たき火しようって言ったの
    そっちじゃん

女1  うん 意外と燃えるね

女2  うん

女1  夜だと ぜんぜん見えないね

女2  え なに?

女1  え 海とか
    あっちがわ
    あっちが アメリカ

女2  うん まあ

女1  え なんかさあ
    ほんとに空襲とか くるのかなあ

女2  いや くるのかなあって

女1  え どうする
    いま ここになんか 爆弾とか
    落ちてきたら

女2  え

女1  なんかさあ この火が
    目印になって

女2  ないよ え ないでしょ
    え くるのかなあ

女1  ね なんでさ 女は戦争行かなくていいの?

女2  うん でも 行きたくないじゃん

女1  え 男のこだって 行きたくないでしょ

女2  うん

女1  え ほんとにさあ 爆弾
    落ちてきたらどうする
    え なんか いま とかじゃなくて
    あした とかさ
    今日が 最後の一日 とかだったら
    どうする?

女2  え
    え
    たき火する

女1  うん。
    なんかさあ
    そうかんがえるとさあ
    死ぬまえに こども 産みたいよね。


<シーン4>

●キャッシオー & キプロス あやこ

「あのキャッシオーは、
 あなたの奥さんとあんまり仲が良すぎるんじゃあないですか?」

ここはキプロス。
明るい明るい 地中海の 島。

イアーゴーは
キャシオーに酒をたらふく飲ませ くだらない喧嘩をさせて
キプロスの島中に騒ぎを起こす。
オセローはこの騒ぎの原因 キャシオーをクビにする。

「あのキャッシオーは、あなたの奥さんと
 あんまり仲が良すぎるんじゃあないですか?」


●3.3 オセローとデズデモーナ

(むらかみ & つぶらや)

デズデモーナ:どうしたの、あなた?
わたし、いまここで、あなたに頼みごとがあるという方とお話してたの。
あなたのご機嫌を損ねたせいで すっかり落ち込んでいらっしゃるお方。

オセロー:誰のことだ、それは?

デズデモーナ:つまり、あなたの部下の、副官キャッシオーよ。ねえあなた、
もしわたしにあなたを動かすだけの力が わずかでもあるなら、
あの方の慎ましい和解のお願いをすぐに聞き入れてあげて。
あの方はあなたを心から愛してる。過ちを犯したとしたら、
それはあくまで知らずにやってしまったこと、わざとやったわけじゃない。
これが誤りなら、わたしには 誠実かどうか 人を見る目は無いってことだわ。
お願い、呼び戻してあげて。

オセロー:あいつは いまここから出て行った?

デズデモーナ:そうよ。あんまりにも悲しんでいるから、
それが伝染して、わたしもいっしょに落ち込んじゃったわ。
ねえあなた、お願いです。あの方 呼び戻してあげて。

オセロー:いまは駄目だ、デズデモーナ。またあとでだ。

デズデモーナ:でも、ごく近いうちによ?

オセロー:ああ、できるだけ早く。

デズデモーナ:今晩、お夕食の時?

オセロー:いや、今晩は駄目だ。

デズデモーナ:じゃあ、あしたのおひる?

オセロー:ひるは家では食べない。砦で将軍連中と会食だ。

デズデモーナ:それならあしたの晩、でなければ火曜日の朝、
じゃなければ火曜のひる、それとも夜、それも駄目なら水曜の朝。
ねえ、はっきりきめて、でも三日以上はのばせない。
ね、オセロー、
あなたがわたしにしたお願いで、わたしがお断わりしたり、
渋ったりしたことがある? マイケル・キャッシオーよ?
あなたが結婚の申込みにいらした時に一緒に連れ添って来たお方、
わたしがあなたのことを悪く言った時には、何度も何度も
あなたの肩を持ってくれたわ。そのお方をもういちど呼び戻すっていうだけのことよ?

オセロー:わかった。来たい時に来させてよろしい!
君のお願いは何も断われない。

デズデモーナ:あら、
あなたご自身のためになることを、
お願いしているのとおんなじ。
あなたの愛情をほんとに試そうと思ったら、
それはそれは重大で、難しいお願いにしてさし上げますわ、

オセロー:おれは君のお願いは 何んにも断われない!
じゃあそのお返しに、
しばらくのあいだ 一人にしておいてくれないか。

デズデモーナ:了解! じゃ、あとでね。

オセロー:ああ、デズデモーナ。すぐに行く。

デズデモーナ:
わたし、あなたのお考えのとおりに従うわ。
〔デズデモーナ退場〕

オセロー:最高の女だ! これでお前を愛さぬというなら、
おれの魂なんか破滅してしまえ! お前を愛さぬ時が来るとすれば、
それこそこの世は再び混沌だ。


(かさぎ  & かなざき)

デズデモーナ:どうしたの、あなた?
わたし、いまここで、あなたに頼みごとがあるという方とお話してたの。
あなたのご機嫌を損ねたせいで すっかり落ち込んでいらっしゃるお方。

オセロー:誰のことだ?

デズデモーナ:つまり、あなたの部下の、副官キャッシオーよ。ねえあなた、
もしわたしにあなたを動かすだけの力が わずかでもあるなら、
あの方の慎ましい和解のお願いをすぐに聞き入れてあげて。
あの方はあなたを心から愛してる。過ちを犯したとしたら、
それはあくまで知らずにやってしまったこと、わざとやったわけじゃない。
これが誤りなら、わたしには 誠実かどうか 人を見る目は無いってことだわ。
お願い、呼び戻してあげて。

オセロー:あいつは いまここから出て行った?

デズデモーナ:ええ、あんまりにも悲しんでいるから、
それが伝染して、わたしもいっしょに落ち込んじゃったわ。
ねえあなた、お願い。あの方 呼び戻してあげて。

オセロー:いまは駄目だ、デズデモーナ。またあとでだ。

デズデモーナ:でも、ごく近いうちによ?

オセロー:ああ。

デズデモーナ:今晩、お夕食の時?

オセロー:いや。

デズデモーナ:じゃ、あしたのおひる?

オセロー:ひるは将軍連中と会食だ。

デズデモーナ:じゃあ あしたの晩、じゃなければ火曜日の朝、ひる、それとも夜、
じゃなければ水曜の朝。
ねえ、お願い、はっきりきめて、
あの方 ほんとうに後悔してるのよ。
それに、だって、あの方の過ちって、わたしたちがふつうに考えたって、
そんなにとがめたてることでもないでしょ?
ね、オセロー、
あなたがわたしにおねだりなさったことで、わたしがお断わりしたり、
渋ったりすることがある? マイケル・キャッシオーよ?
あなたが結婚の申込みにいらした時に一緒に連れ添って来たお方、
その方をもういちど呼び戻すっていうだけなのに! ほんとに、わたしいざとなったら…

オセロー:わかった。
君の頼みは何も断われない。

デズデモーナ:あら、そんなにたいへんなこと?
手袋をおはめになってとか、
おいしいご馳走を召し上がってとか、暖かい格好をしてねとか、
あなたご自身のためになることを、
お願いしているのとおんなじよ。
あなたの愛情をほんとに試そうと思ったら、
それはそれは重大で、難しいお願いにしてさし上げますわ、

オセロー:君の頼みは何も断われない!
ではそのお返しに、
しばらくのあいだ 一人にしておいてくれないか。

デズデモーナ:了解! また あとでね。

オセロー:ああ、デズデモーナ。

デズデモーナ:
わたし、あなたのお考えのとおりに従うわ。
〔デズデモーナ退場〕

オセロー:最高の女だ! これでお前を愛さぬというなら、
おれの魂なんか破滅してしまえ! お前を愛さぬ時が来るとすれば、
それこそこの世は再び混沌だ。


(いとう  & やつだ)

デズデモーナ:どうしたの、あなた?
わたし、いまここで、あなたに頼みごとがあるという方とお話してたの。

オセロー:誰のことだ、それは?

デズデモーナ:つまり、あなたの部下の、副官キャッシオーよ。(オセローの服の裾をつかむ)
あの方の和解のお願い、聞き入れてあげて。

オセロー:あいつは いまここから出て行った?(座る)

デズデモーナ:ええ。どおしようもなく落ち込んでるから、
わたしもいっしょに悲しくなったわ。
ねえ、お願い、

オセロー:いまは駄目だ、デズデモーナ。

デズデモーナ:でも、ごく近いうちによ?

オセロー:ああ、できるだけ早く。

デズデモーナ:今晩?

オセロー:いや、今晩は。

デズデモーナ:じゃ、あしたのおひる?

オセロー:ひるは家では食べない。

デズデモーナ:じゃ いつ、あの方をお呼びしていい?
マイケル・キャッシオーよ?
あなたが結婚の申込みにいらした時に一緒に連れ添って来た方!

オセロー:わかった。
君の頼みは何も断われない。

デズデモーナ:そんなにたいへんなこと?
手袋をおはめになってとか、
おいしいご馳走を召し上がってとか、暖かい格好をしてねとか、
あなたご自身のためになることを、
お願いしているのとおんなじ。
あなたの愛情をほんとに試そうと思ったら、
もっともっと重大で、難しいお願いにします

オセロー:君の頼みは何も断われん!
そのお返しに、
しばらくのあいだ 一人にしておいてくれ。

デズデモーナ:了解! じゃ、あとでね。

オセロー:ああ、すぐに行く。

デズデモーナ:
わたし、あなたのお考えのとおりに従うわ。
〔デズデモーナ退場〕

オセロー:最高の女だ! これでお前を愛さぬというなら、
おれの魂なんか破滅してしまえ! お前を愛さぬ時が来るとすれば、
それこそこの世は再び混沌だ。


●断片裏切り やつだ & かさぎ

(女の部屋 夜)

男  何 折ってるの

女  なんだろ
   てきとう
   うん
   わかんないけど わかった

男  え だからさ なにも ないし
   なにも
   なにも うん
   あれ すれちがってる?

女  え
   なにが

男  え だから

女  たぶんね あたしがおもうに
   誤解っていうのは ありえるんだとおもう のね

男  うん
   え あやまったらいい?

女  なにを? ぜんぶ?

男  え
   ごめんちょっと それ わかんない

女  え だってさあ
   あたし だまされてたってこと?

男  え だから わかんない。

女  いいんだけど

男  え

女  え いくないけど、
   ずるずる、
   ずるずる、
   してたいけど、

男  え
   っと
   え

女  ごめん


●断片裏切り(たぶん 男の部屋 夜)
むらかみ & かさぎ

男1  あのー
    だから ちょっと 確認させてもらってもいいですか?
    いや 確認てゆうか
    そんな きっついことじゃ ないんですけど

男2  うん

男1  え 庄三さん
    就職するんですか?

男2  うん
    いや

男1  え
    内定 でたんですよね?

男2  うん

男1  どうしたらいいですか?
    え いや
    信じてた ていうか
    いや いいんですけど

男2  や ごめん

男1  いや すいません
    すいません。


●3.3 イアーゴーとオセロー

イアーゴー:あの、閣下…

オセロー:何だ、イアーゴー?

イアーゴー:マイケル・キャッシオーは
閣下が奥様に求婚された時には、その事実を?

オセロー:知っていた、始めから終わりまで。なにを聞くのだ?

イアーゴー:いえ、ただわたくし自身が納得したいため。
わたくしは彼が奥様と知り合いだったとは思っておりませんでした。

オセロー:いや、前々から、われわれの間を往き来してくれた。

イアーゴー:本当ですか!

オセロー:「本当ですか」? ああ、本当だ、
あの男は誠実ではないとでも?

イアーゴー:「誠実」ですか?

オセロー:そうだ、「誠実」だ。

イアーゴー:閣下、わたくしの存じております限りでは。

オセロー:どう思うのだ?

イアーゴー:「思う」ですか?

オセロー:『「思う」ですか』?

イアーゴー:閣下、わたくしが閣下を愛することは閣下も知り給う。

オセロー:ああ、

イアーゴー:マイケル・キャッシオーにつきましては、
彼は誠実な人だとわたくしは信じたい。
ええ もちろん、キャッシオーは誠実な人だと思います。

オセロー:いや、まだ何かある。それを話せ。

イアーゴー:閣下、なにとぞお許しを。
心の内を言えとおっしゃいますが、それが 汚らわしく 不実だったら。
このように不完全きわまる揣摩臆測(しまおくそく)をなす者にお気をとめられることなく、
断片的にして不確実この上ない観察から、
あえて自ら煩わしさを生み出す愚はなさいませんよう。
閣下の安らいのためにも、御身のためにも、
またわたくしの男の面目、誠実心、分別のためにも。

オセロー:お前は何を言いたいのだ?

イアーゴー:閣下、どうかご用心ください、嫉妬だけは!
これは緑の目をした怪物で、口にくわえた獲物をもてあそぶ。

オセロー:おれは嫉妬心など持たない、
妻の美しさをひとからほめられたとしたって、
それにくらべ おれが魅力の点でいささか欠けるところがあるとしても、
デズデモーナは自分の目で、このオセローを選んだのだ、
おれはよく見てから疑う。疑う時には証明する。
そして明確な証明の結論は一つ
愛を捨てるか、嫉妬を捨てるかだ!

イアーゴー:
それでは忠義によって申し上げます、
奥様から目を離さないよう、キャッシオーと一緒にいる時にご注意を。
わたくしは閣下の寛大にして高貴なるお人柄が、
善良さのために欺かれることは許せません。用心してください。
わたくしはわれわれヴェネチア人の気質をよく知っている
ヴェネチア女は浮気をしても、神様には申し上げるが
亭主には絶対明かさない。連中の良心は
それをやらないことではなく、わからないようにやるということなのです。

オセロー:それは 真実か?

イアーゴー:あの方はあなたと結婚したとき、自分の父親を欺いた。
十分ではないですか?
あんなにお若いのに、あんなふうなフリをすることができる、
閣下、いささかご気分を害されたようですが?

オセロー:いや、

イアーゴー:いま申し上げましたことは、閣下に対するわたくしの敬愛の念からのこと。
どうか単なる疑惑の域に。
わたくしの言葉は わたくしが思いもかけない忌まわしい結果にすすんでしまう
キャッシオーは立派な友人です
閣下、お気にさわられたご様子ですが。

オセロー:いや、
デズデモーナは貞淑だ、おれはそう信じている。

イアーゴー:いつまでもそうありますように! そうお考えでありますように!

オセロー:この話はもうしまいだ。
君の妻 エミーリアに見張らせろ。

イアーゴー:では閣下、〔礼 退場 見えなくなる〕

オセロー:なぜおれは結婚した?

イアーゴー:〔戻って来て〕閣下お願いでございます。
この件に関しましては、もうこれ以上ご詮索なさいませんよう。
奥様がキャッシオーとの和解をいかに強引に押してこられるか、
また熱烈にせがんでこられるかを よくご注意ください。
おそれる理由は十分あるのですが…
どうぞ閣下、奥様には何のやましいところもないものとお考えください。

オセロー:心配するな、おれにも自制心はある。

イアーゴー:では。〔退場〕

オセロー:イアーゴーは誠実だ。
おれの色が黒いから、
あるいは優男のようなていねいな女あしらいができず、
あるいはおれの年齢、人生の下り坂…
あいつは いってしまったのだ
俺の唯一の救いは
あいつを 憎む? 何たる結婚の呪い!
デズデモーナがやってくる。〔デズデモーナとエミーリア登場〕

♪ピアノ


●断片裏切り(男の部屋 夜)
むらかみ & かなざき


女  きのう 夜 電話 つながらなかったでしょ あたし
   なにしてたとおもう?

男  え
   いや
   え

女  なんかさあ
   薬とかたくさん飲んでみたりして
   バファリンみたいなやつだけど
   あー もう だめなんだあ とおもってさあ
   で
   メールしたのにさあ
   へんじが 「具合悪いなら寝てろ」ってさあ

男  …

女  あのね あたしね ちっちゃいとき
   白い犬を飼ってて
   ちっちゃあい子犬
   でも 3ヶ月くらいで死んじゃって
   飼ってたなんていえないかも
   なんかぜんぜんまっしろじゃなかったかも
   子犬だからさあ くるくるくるくるまわったりしてさあ
   あったまわるそうで

   あーなんか
   もういっしょにいても 楽しくないし

男  え
   やりなお そうよ
   いや こんな言い方はあれだけどさ

女  (男をみる 間)
   うん。


●イアーゴー1&ハンカチ あやこ

閣下、どうかご用心ください、嫉妬だけは!
これは緑の目をした怪物で、口にくわえた獲物をもてあそぶ。
嫉妬だけは!

みどりの めをした 嫉妬

このハンカチをキャッシオーの部屋に落としておけば、
それが 証拠の品となる。
オセローから デズデモーナへの 最初の贈り物。
イチゴの刺繍のハンカチ。

おれは見なかった、考えなかった、心を痛めなかった、
次の日もよく眠った、よく食った、楽しかった、
妻のくちびるに ほかの男のキスの跡など。
盗まれても気づかぬ者には それを知らせぬことだ。
知らなければ。

閣下、どうかご用心ください、嫉妬だけは!


<シーン5>

●断片結婚 むらかみ & あやこ

(結婚しているふたりのリビング
 妻がごろりと横たわっている
 夫が帰ってくる)

妻  おかえり

夫  そんなとこに寝るな

妻  あーー

夫  どした

妻  …

夫  あ
   おみやげ(出す)

妻  あ マカダミア
   誰か ハワイとか行ったの?

夫  なんか 派遣の子

妻  冷蔵庫 入れとこ(そのへんに置く)

夫  寝れば?

妻  うん
   おふろ わいてる

夫  うん

(携帯鳴る 止まる)

夫  いいの?

妻  うん
   メール

夫  誰から?

妻  え 知らないよ

夫  見ないの?

妻  いい


●断片結婚 かなざき & やつだ

(既婚者 であろう 女ふたり
 女2の部屋 夕方)

女1  何時?

女2  帰る?

女1  まだ大丈夫

女2  え 遅いんでしょ
    だんなさん

女1  うん まあ

女2  何つくるの

女1  たぶんー さば
    みそ煮

女2  じゃすぐだね

女1  うん

女2  最近ね
    あれ ぬか漬けやってる

女1  あー
    まいにちでしょ

女2  意外と つづいてる
    すごい

女1  へー
    たいへんそう

女2  なんかね
    手が しろくなるんだって

女1  あ 美白?

女2  そんなかんじ
    だからね 片手でやっちゃいけないんだって

女1  あ どっちかだけ白くなっちゃうんだ

女2  ほんとになればいいけどね

女1  だんなさん
    やっぱ最近もずーっと遅いの?

女2  まあね


♪ ピアノ


●4.3 エミーリアとデズデモーナ

(やつだ  & かなざき)

エミーリア:いかがですか?
旦那様 前よりやわらかいお顔でしたけど。

デズデモーナ:すぐにもどってくるから、やすんで待っていろ、
そして、あなたを退らせておけって。

エミーリア:あたしに 退れ?

デズデモーナ:ええ。お願い、エミーリア、
わたしの夜着をもって来て。そして退っててちょうだい。
今はあの人を怒らせてはだめ。

エミーリア:奥様は あの方にお会いにならなければよかったんですわ。

デズデモーナ:わたしはそうは思わない。
着替えるわ

エミーリア:あの婚礼のシーツ、ベッドに敷いておきました。

デズデモーナ:もうどうでもいい。わたしたちの心って 愚かなばかりだわ
わたしが死んだら、あのシーツでわたしをくるんでね。

エミーリア:奥様。

デズデモーナ:わたしのお母様にはバーバリーという名の召し使いがいてね、
その子が恋をしたのだけど、その恋人、すぐにその子を捨ててしまった。
バーバリー、柳の歌を歌いながら死んだの。
さあ、お願い、行ってちょうだい。

エミーリア:夜着をとって参りましょうか?

デズデモーナ:いいえ、このピンを外して。
ロドヴィーコーさんて 立派な方ね。

エミーリア:すばらしい方ですわ。

デズデモーナ:お話もとてもお上手だし。

エミーリア:あの方の唇にキスできるのなら、
パレスチナまでだって はだしで歩いて行ける って言ってたヴェネチアの人がいましたわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
あわれあの子は かえでの陰で
ため息ついて歌ってた
ああ 青い 青い 柳
胸に手を当て かしげた首を
お膝にのせて歌ってた
そばを流れる 小川の声も
あの子の嘆きを歌ってた
したたる涙に 無情の石も
あわれをかんじて歌ってた
ああ 柳 柳 柳
とがめてはいや あのひとのこと
罪はわたしにあるものを
これは2番? 誰か戸をたたいてる?

エミーリア:風ですわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
ああ 柳 柳 柳
つれない人と とがめてみたら
つれない返事が返ってきた
こっちがだれかと浮気をしたら
そっちも男と寝ればいい…
さあ、行ってちょうだい。目がかゆい。
何か泣きたいことの起こる前ぶれかしら?

エミーリア:そんなことありません。

デズデモーナ:ああ、男の人って、男の人って!
ねえ、エミーリア……
そんなひどいことをして 自分の夫に恥をかかせる
女の人って いると思う?

エミーリア:そんな悪い女もおりますわ。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたって、あなたはそんなことできる?

エミーリア:奥様だったら?

デズデモーナ:するわけないわ、月の光にかけて、

エミーリア:あたしだって、月の光にかけて なんて。
やるなら闇夜に。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたら、できるの?

エミーリア:…(デズデモーナを見る)
「些細な罪に、大きなほうび」。

デズデモーナ:あなたはそんなことしないでしょ?

エミーリア:
そりゃあ、ちょっとしたおこづかい程度のものなんかもらったって、そんなことは。
でも この世界全部というのだったら…。
ちょっとの浮気で、自分の夫を世界の帝王にすることだってできる。

デズデモーナ:わたしだったらそんなこと…

エミーリア:でも、それが罪であるっていうのはこの世界の中でのことです。
もしこの世界全部が奥様のものになったら、
それはご自分の世界、いいも悪いも ご自分で決めることができる。

デズデモーナ:そんな女の人っていないと思うわ。

エミーリア:
わたしの考えでは、もし妻があやまちを犯したとしたら、
それは自分の義務を怠けた夫のあやまちです。
うちのお金をよその女に注ぎこんでしまったり、
ばかばかしい嫉妬心を起こして妻をなぐったり、
そりゃ、女のほうだって腹が立つでしょう。
妻だって同じように 感じる。
夫たちとまったく同じ。
だいたい 夫たちの浮気、これは
いったいどういうことなんでしょうか? 気晴らし?
そうかもしれない。浮気心?
そうかもしれない。心の弱さのせい?
そうかもしれない。でもわたしたち女だって 同じように たまには
気晴らしもしたいと思う。浮気心も、心の弱さも持ってます、すべて男たちと同じ。

デズデモーナ:おやすみ、もういいわ。
神様 どうかお導きください!
悪からさらなる悪をひき出すことなく、
悪を見て 我が身を改めることができますよう。


(つぶらや & かさぎ)

エミーリア:どんな御様子ですか?
旦那様 前よりやわらかいお顔でしたけど。

デズデモーナ:すぐにもどってくるから、やすんで待っているようにって。
そして、あなたを退らせておけって。

エミーリア:あたしに 退れ?

デズデモーナ:ええ。お願い、エミーリア、
わたしの夜着をもって来て。そして退っててちょうだい。
今はあの人を怒らせてはいけないから。

エミーリア:奥様はあの方にお会いにならなければよかったのかもしれませんわ。

デズデモーナ:わたしはそうは思わない。わたしは とても あの人が好き。
お願い、ピンを外して

エミーリア:お申しつけのシーツ、ベッドに敷いておきました。

デズデモーナ:ああもう どうでもいい。わたしたちの心って 愚かなばかりなのかしら?
もしわたしがあなたよりさきに死んだら、あのシーツでわたしをくるんでね。

エミーリア:まあ、つまらないことを!

デズデモーナ:わたしのお母様にはバーバリーという名の召し使いがいてね、
その子が恋をしたの。だけどその恋人は浮気者で、すぐにその子を捨ててしまった。
よく柳の歌を歌ってたわ。彼女の運命をよくあらわしてた。
バーバリーは柳の歌を歌いながら死んだの。
あの歌が わたしの心から離れない。
さあ、お願い、行ってちょうだい。

エミーリア:夜着をとって参りましょうか?

デズデモーナ:いいえ、いいの、このピンを外して。
ロドヴィーコーさんて 立派な方ね。

エミーリア:とてもすばらしい方ですわ。

デズデモーナ:お話もお上手だし。

エミーリア:あの方の唇にキスできるのなら、
パレスチナまでだって はだしで歩いて行ってもいいと言うヴェネチアの人がいましたわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
あわれあの子は かえでの陰で
ため息ついて歌ってた
ああ 青い 青い 柳
胸に手を当て かしげた首を
お膝にのせて歌ってた
ああ 柳 柳 柳
とがめてはいや あのひとのこと
罪はわたしにあるものを
これは2番? 誰か戸をたたいてる?

エミーリア:風ですわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
つれない人と とがめてみたら
つれない返事が返ってきた
ああ 柳 柳 柳
こっちがだれかと浮気をしたら
そっちも男と寝ればいい…
さあ、行ってちょうだい。目がかゆい。
何か泣きたいことの起こる前ぶれかしら?

エミーリア:そんなことありません。

デズデモーナ:でも聞いたことがある。ああ、男の人って、男の人って!
正直……ねえ、エミーリア……
そんなひどいことをして 自分の夫に恥をかかせる女の人ってあると思う?

エミーリア:そんな悪い女もおりますわ。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたって、あなたはそんなことできて?

エミーリア:まあ、奥様だったら?

デズデモーナ:とんでもないわ、月の光にかけて、

エミーリア:あたしだって、月の光にかけて なんて。
やるんなら闇夜のほうが。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたら、できるの?

エミーリア:世界を全部 っていったら そりゃあたいしたものですよ?
「些細な罪に、大きなほうび」。

デズデモーナ:あなたはそんなことしないでしょう?

エミーリア:いえ、あたしなら。
そりゃあ、指輪や、服や、ちょっとしたおこづかい程度のものなんかもらったって。
でも この世界全部というのだったら…。

デズデモーナ:わたしだったらそんなことできない。

エミーリア:でも、それが罪であるというのはこの世界の中でのことです。
もしこの世界全部が奥様のものになったら、
それはご自分の世界の中でのことだもの、ご自分でいいも悪いも決めることができる。

デズデモーナ:そんな女の人っていないと思うわ。

エミーリア:おりますとも、いくらだって。
その連中が手に入れた「世界」をいっぱいにするくらいに!
でも、わたしの考えでは、もしも妻があやまちを犯したならば、
それは自分の義務を怠けた夫のあやまちです。
うちのお金をよその女に注ぎこんでしまったり、
ばかばかしい嫉妬心を起こして あたしたちをなぐったりすれば…
そりゃ、女のほうだって腹が立つでしょう。もちろん女はやさしくあるべきだけど、
復讐だってしないわけじゃない。夫たちに教えてやらなきゃいけないんです、
妻だって同じように 感じる。
見たり、嗅いだり、甘い辛いの区別をしたり、夫たちとまったく同じ。
だいたい 男たちが妻以外の女を相手にするっていうのは、
いったいどういうことなんでしょうか? 気晴らし?
そうかもしれない。浮気心?
そうかもしれない。心の弱さのせい?
そうかもしれない。でもわたしたち女だって 同じように たまには
気晴らしもしたいと思う。浮気心も、心の弱さも持ってます、すべて男たちと同じ。

デズデモーナ:もういいわ、おやすみ。
神様 どうかお導きください!
悪からさらなる悪をひき出すことなく、
悪を見て 我が身を改めることができますよう。


●断片結婚 かさぎ & つぶらや


1  しあわせ?

2  ん

1  こわい?

2  うん

1  どうする?

2  こわい

1  うん
   しあわせ?

2  しぬほど。

1  うん


(1 と 2 を入れかえ 繰り返し)


●断片裏切り(男の部屋 昼)
むらかみ & いとう(エミーリアとデズデモーナ)

(男 口笛を吹く ♪軍艦マーチ とか)

女  馬鹿じゃないの

(男 ひとくさり吹いてから 口笛をやめる)

女  え どうして あたしに うそつくの?
   え だってさ
   必要ないじゃん
   まえも いったよね
   あたしはそういうのがいやだから
   いやだから
   ちゃんと ひとつひとつ はっきりさせてって
   もううそとか聞くの いやだし
   もうぜんぜんわかんない

男  あのさあ
   や
   なんかね

女  なに?
   え
   あたし 言わないよ?
   え
   あたしさあ
   あたしから
   別れよう
   なんて
   ぜったい 言わないから。

(女 膝を抱いてちいさくなる)

女  うごかないで
   しゃべらないで
   行かないで
   あたしも ずっと ここに いるからさあ

(男 女を抱く しばらく抱きしめるが 女のからだはほどけない 男 離れる)


●4.3 エミーリアとデズデモーナ むらかみ & いとう

エミーリア:どんな御様子です?
旦那様 前よりやわらかいお顔でしたけれど。

デズデモーナ:すぐにもどってくるから、やすんで待っているようにって。
そして、あなたを退らせておけって。

エミーリア:あたしに 退れ?

デズデモーナ:ええ。お願い、エミーリア、
わたしの夜着をもって来て。そして退っててちょうだい。
今はあの人を怒らせてはいけないの。

エミーリア:奥様は あの方にお会いにならなければよかったと思いますわ。

デズデモーナ:わたしはそうは思わない。わたしはとてもあの人が好き。
あの人の頑固さや叱言(こごと)や不機嫌な顔に……
お願い、ピンを外して……あたしは惹かれる。

エミーリア:お申しつけの あのシーツ、ベッドに敷いておきました。

デズデモーナ:ありがと もうどうでもいい。わたしたちの心って 愚かなばかりなのかしら?
もしわたしがあなたよりさきに死んだら、あのシーツでわたしをくるんでね。

エミーリア:つまらないことを!

デズデモーナ:わたしのお母様にはバーバリーという名の召し使いがいてね、
その子が恋をしたの。だけどその恋人は浮気者で、すぐにその子を捨ててしまった。
よく柳の歌を歌ってたわ。
あの歌、あたしの心から離れない。
さあ、お願い、行ってちょうだい。

エミーリア:夜着をとって参りましょうか?

デズデモーナ:いいえ、いいわ、このピンを外して。
ロドヴィーコーさんて 立派な方ね。

エミーリア:とてもすばらしい方ですわ。

デズデモーナ:お話もお上手だし。

エミーリア:あの方の唇にキスできるのなら、
パレスチナまで 靴をはかずに歩いて行ってもいい なんて言うヴェネチアの女がいましたわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
あわれあの子は かえでの陰で
ため息ついて歌ってた
ああ 青い 青い 柳
胸に手を当て かしげた首を
お膝にのせて歌ってた
ああ 柳 柳 柳
そばを流れる 小川の声も
あの子の嘆きを歌ってた
ああ 柳 柳 柳
とがめてはいや あのひとのこと
罪はわたしにあるものを
これは2番? 誰か戸をたたいてる?

エミーリア:風ですわ。

デズデモーナ:〔歌う〕
つれない人と とがめてみたら
つれない返事が返ってきた
ああ 柳 柳 柳
こっちがだれかと浮気をしたら
そっちも男と寝ればいい…
さあ、行ってちょうだい。目がかゆい。
何か泣きたいことの起こる前ぶれかしら?

エミーリア:そんなことありません。

デズデモーナ:でも聞いたことがある。ああ、男の人って、男の人って!
正直……ねえ、エミーリア……
そんなひどいことをして 自分の夫に恥をかかせる女の人なんて いると思う?

エミーリア:そんな悪い女もおりますわ、きっと。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたって、あなたはそんなことできて?

エミーリア:奥様だったら?

デズデモーナ:とんでもないわ、月の光にかけて、

エミーリア:あたしだって、月の光にかけて なんて。もしもやるなら 闇夜のほうが。

デズデモーナ:世界を全部くれるといわれたら、できるの?

エミーリア:世界を全部 っていったら そりゃあたいしたものです。
「些細な罪に、大きなほうび」。

デズデモーナ:あなたはそんなことしないでしょう?

エミーリア:
そりゃあ、指輪や、服や、帽子や、ちょっとしたおこづかい程度のものなんかもらったって、そんなことはいたしません。でも この世界全部というのだったら…。
ちょっとの浮気で、自分の夫を世界の帝王にすることだってできるんですよ?

デズデモーナ:わたしだったらそんなことできない。

エミーリア:でも、それが罪であるっていうのは この世界の中でのことです。
もしこの世界全部が奥様のものになったら、
それはご自分の世界の中でのこと、ご自分でいいも悪いも決めることができる。

デズデモーナ:そんな女の人っていないと思うわ。

エミーリア:おりますとも、きっと。
でも、わたくしの考えでは、もしも妻があやまちを犯したならば、
それは自分の義務を怠けた夫のあやまち。
家のお金をよその女に注ぎこんでしまったり、
ばかばかしい嫉妬心を起こして、あたしたちを縛ったり、なぐったりすれば…
そりゃ、女のほうだって腹が立つ。女はやさしくあるべきだけど、
復讐だってしないわけじゃない。
妻だって同じように 感じる。
見たり、嗅いだり、甘い・辛い、夫たちとまったく同じ。
だいたい 男たちが妻以外の女によろめくということは、
いったいどういうことなんでしょう? 気晴らし?
そうかもしれない。浮気心?
そうかもしれない。心の弱さのせい?
そうかもしれない。でもわたしたち女だって 同じように たまには
気晴らしもしたいと思う。浮気心も、心の弱さも持ってます、すべて男たちと同じ。

デズデモーナ:おやすみ、もういいわ。
神様 どうかお導きください!
悪からさらなる悪をひき出すことなく、
悪を見て 我が身を改めることができますよう。〔退場〕


●断片戦争 いとう & かなざき

(彼氏が戦争に行く女1
 その男とも友だちである(昔つきあっていたのかもしれない)女2
 女2の部屋)

女1  めいわくってなんだろ?

女2  言われたの?

女1  いや

女2  しょうがないんじゃない?

女1  ほんとにそう おもってる?

女2  いや おもって ない

女1  むりだよ

女2  うん
    ね 殺せる?

女1  え

女2  あいつのこと 殺せる?

女1  殺せる とおもう

女2  うん

女1  うん
    なんでそんなこと聞くの

女2  うん
    え
    結婚て そういうことじゃない?

女1  え たぶん 結婚は しないよ

女2  あ え そうか

女1  なんかね
    こないだ
    っていうか あ きのうだけど
    寝顔
    先に寝ちゃったからさあ
    ずうっとみてたら なみだでてきちゃって
    なんか それこそ そこにいればいいっておもってたんだけど
    なんか そばに
    ぜんぜんさあ
    わかんない
    え 戦争 ってさあ

女2  うん

女1  え どうしたらいいのかなあ

女2  え 帰って くるでしょ

女1  え

女2  結婚 しないの?

女1  うん しない。


●断片結婚 島尾ミホ

作家の島尾敏雄が逝って19年。『死の棘日記』が刊行された。
小説『死の棘』のもととなる記録である。
85歳の妻 ミホさんは 語る。

あの前の日のことです。
朝まで駅で待ちましたが、島尾は帰らず、わたしは家に戻りました。
夫の部屋に入ると日記が開けてありまして、
13文字が目にとまったのです。

島尾の気持ちがほかの人に移っている…

その瞬間、がたがた震え、体中が熱くなりました。
人を疑うことを知りませんでしたから。
人間は極限状態だと、ワオーッという ライオンが吠えるような声が出るんですね。
部屋中を駆け回り、畳をかきむしり、
気が変になりました。
その13文字は、だれにも申し上げられません。

50年たったのに、遠い日という気がしません。
島尾が遺した日記の記述は淡々としていますが、
私はもっと理不尽なことをしました。
よく覚えています。
子供の時のあだ名が 記憶力の天才
島尾に「何年何月の家計簿を言ってごらん」とテストされると、
何を 何円で買ったか 間違わずに言えましたから。

『死の棘日記』の最終構成ゲラをファクスで送り終えましたら、
ひとの 気配をかんじまして、
見ると 島尾が正座しておりました。
白地に紺の井桁模様の着物、黒ちりめんの帯、
あらっ お父様 と呼んで
肩に手をかけようとしたら 消えました。


●断片結婚 ♪ピアノ かなざき & あやこ


●イアーゴー3 あやこ

どうやって あいつを 殺したらいいか。

例のハンカチ イチゴの刺繍のハンカチ。
奥さんはあのハンカチをキャッシオーにやったんです
あなたの部下と!
今晩です。
毒薬じゃあ なまぬるい。
あなたの手で絞め殺すのです。
奥さんが汚した そのベッドの中で。
キャッシオーはわたくしが片付けましょう。


●断片裏切り(姉妹の部屋 夜)
かなざき & つぶらや

妹  え ていうかさあ
   ありえないでしょ
   え
   え
   ちょっとぜんぜんわかんないんだけど
   そういうこと?
   え
   なんか すごい ひどくない?

姉  え
   ひどいってさあ
   さそったのはあたしじゃないし
   ていうか
   あんたのことで話したい とか言われて
   呼び出されたの こっちだから
   だから そういうことってさあ
   どういうことを言ってるわけ? ひどいとかさあ

妹  え じゃあさあ
   ぜんぜんひどいとか おもってないってこと?

姉  え おもってない
   おもってないよ
   ごめん 寝るから。(横になる)あいつにかってに聞いて。

(妹 姉をしばらく見ているが 自分のベッドに戻って寝る)


<シーン6>

●5.2 オセローとデズデモーナ

(むらかみ & つぶらや)

オセロー:
こういうことだ
こういうことなのだ おれの魂!
口に出したくない…汚れを知らぬ天上の星よ!
しかしこういうことだ
ああ あれの血を流すようなことは やめよう
雪よりも白いあの肌 磨き尽くした大理石のようなあの肌…
あの肌を傷つけるようなことは やめよう
だが あいつは死なねばならぬ。そうしなければ 彼女はまた男を騙す…
おれはまずこの灯りを消す、そして それから あの命の灯火(ともしび)をも消すのだ
松明! いまは炎をたてて燃え上がっているこいつなら、
一度消してしまった後でも、またもとの明るさを取り戻すことができる。
だが自然のつくった唯一であり最高の作品であるあの灯り デズデモーナは、
一度消してしまえば、
その灯りをもう一度ともしてくれるプロメテウスの火は もうみつからない
このバラは一度摘んでしまったら
二度と生き生きと咲きほこることはない
必ず 必ず 枯れて しぼんでしまう…
花が まだ枝にあるあいだにその香りをかいでおこう。
〔デズデモーナにキスする〕
何と香しい息!
正義の女神もその剣を打ち折りたくなる!
もう一度、もう一度だけ!
どうか死んだ後にもこのままでいてくれ。
おれはお前を殺し…その後でお前を愛してやる。もう一度 これが 最後だ!
こんなにも愛らしいものがこんなにも恐ろしいものだとは!
この涙は無慈悲の涙だ。この悲しみは神の悲しみ。
愛すればこその刃だ。目を覚ました。

デズデモーナ:誰? オセロー?

オセロー:おれだ、デズデモーナ。

デズデモーナ:まだ寝ないの、あなた?

オセロー:おまえは今夜 お祈りをしたか、デズデモーナ?

デズデモーナ:ええ、したわ

オセロー:何かまだ 赦しを受けていない罪があったら、いますぐ許しを乞うがいい。

デズデモーナ:それ どういう意味?

オセロー:いいから祈れ。
おれは覚悟も整わぬおまえの心を殺す気はない。
そうだ、おれはお前の魂は殺したくない。

デズデモーナ:いま 殺す と おっしゃった?

オセロー:ああ 殺す と 言った

デズデモーナ:ああ 天よ どうかわたしにお慈悲を!

オセロー:アーメン おれも おれもそう思う

デズデモーナ:そうおっしゃるのなら、あなた どうか どうかわたしを殺さないで

オセロー:うむ!

デズデモーナ:あなたが恐い!
なんで恐いのかわからないけれど
だってわたし 悪いことをした覚えなんて無い でもやっぱり 恐い!

オセロー:ただお前の罪を思え。

デズデモーナ:わたしの罪 って そんなの わたしのあなたへの愛情だけ。

オセロー:そう、そしてその故にお前は死ぬ。

デズデモーナ:愛してるから殺す? そんなのぜんぜんわからない!
何か血なまぐさいお考えが あなたの体を奮わしている…
違う、きっと違う、
わたしが その 目当てじゃないんでしょう?
わたしがどうしたっていうの?

オセロー:あのハンカチ、おれがあれほど大事にし、お前にやった、
お前はあれをキャッシオーにやったな。

デズデモーナ:なんのこと? 誓ってそんなことはしてないわ!

オセロー:お前、気をつけろ、気をつけるんだ、
偽りに誓いを立てるな。お前はいま 死の床についてるんだ。

デズデモーナ:ええ、でもまだ死ぬわけがないわ。

オセロー:いや、もう すぐ だ。
だからいま、その罪をすべてかくさず白状しろ。
そのひとつひとつに対し、お前が誓いを立てながら否認したとしたって、
おれが呻き悲しんでいるのには確固たる信念があってのことだ、
もうその確信は取り除くことも、押しつぶすこともできない。
お前は死ぬのだ。

デズデモーナ:ああ主よ!
わたし これまで一度だって、あなたに悪いことなんてしてない、
キャッシオーを?!
天も認める 隣人への愛情以外には、
あの方を愛したことなんてないわ。何か贈ったなんてこともありえない!

オセロー:天に誓って言う、あのおれのハンカチをあいつが持っているのを見たんだ
ああ 偽りの誓いを立てる売女!
お前は俺の心を石にして、おれをただの人殺しにしてしまう、これは正義のための犠牲なのに。
おれは あのハンカチを 見たのだ。

デズデモーナ:じゃああの方がどこかで拾ったんでしょう。
わたしがあげた覚えなんてありません。キャッシオーをここへ呼んで来て!
あの方に真実を聞いてください。

オセロー:もうあいつは白状したのだ。

デズデモーナ:何を?

オセロー:お前を好きにしたと。

デズデモーナ:スキにした? 不義をした ということ?

オセロー:ああ。

デズデモーナ:そんなこと言うはずがないわ!

オセロー:ああ、奴の口はすでに塞がれた。忠実なイァーゴーがあいつを始末してくれた。

デズデモーナ:ああ! じゃ もう 彼は?

オセロー:あいつの髪の毛一本一本に命があったとしたって、
おれの復讐心はそのすべてを殺す。

デズデモーナ:あの方は騙され、わたしももうおしまい!

オセロー:あいつのために おれの前で泣くのか?

デズデモーナ:わたしはどうなってもいい、でも どうか 殺さないで!

オセロー:だまれ、この売女!

デズデモーナ:殺すのは明日にして! どうか今夜だけは わたしを生かしておいて!

オセロー:もがくな…

デズデモーナ:せめてあと半時間!

オセロー:もう終わりだ もう。

デズデモーナ:一言 お祈りを言わせて。

オセロー:もう遅い。〔彼女の首を絞める〕

(かさぎ  & かなざき)

オセロー:
こういうことだ
こういうことなのだ おれの魂!
口に出したくない…
しかしこういうことだ
あれの血を流すようなことは やめよう
あの肌を傷つけるようなことは やめよう
だが あいつは死なねばならぬ。
花が まだ枝にあるあいだにその香りをかいでおこう。
〔デズデモーナにキスする〕
どうか死んだ後にもこのままでいてくれ。
おれはお前を殺し…その後でお前を愛してやる。
こんなにも愛らしいものがこんなにも恐ろしいものだとは!
この涙は無慈悲の涙だ。この悲しみは神の悲しみ。
愛すればこその刃だ。目を覚ました。

デズデモーナ:誰? オセロー?

オセロー:おれだ、デズデモーナ。

デズデモーナ:まだ寝ないの、あなた?

オセロー:おまえは今夜 お祈りをしたか、デズデモーナ?

デズデモーナ:ええ、したわ

オセロー:何かまだ 天国に行くための赦しを受けていない
罪が残っていたら、いますぐ許しを乞うがいい。

デズデモーナ:どういう意味?

オセロー:いいから祈れ。おれはちょっと離れていよう…
おれは覚悟も整わぬおまえの魂を殺す気はない。

デズデモーナ:いま 殺す と おっしゃった?

オセロー:ああ 殺す と 言った

デズデモーナ:ああ 天よ どうかわたしにお慈悲を!

オセロー:アーメン おれも おれも心からそう思う

デズデモーナ:そうおっしゃるのなら、あなた わたしを殺さないで
とても恐ろしいわ なんで恐いのかわからないけれど
だってわたし 悪いことをした覚えなんて無い

オセロー:ただお前の罪を思え。

デズデモーナ:わたしの罪 って そんなの わたしのあなたへの愛情だけ。

オセロー:そう、そしてその故にお前は死ぬ。

デズデモーナ:愛してるから殺すなんて そんなのぜんぜんわからない!
何か血なまぐさいお考えが あなたの体を奮わしている…
でもきっと違う、きっと違う、
わたしが その 目当てじゃないんでしょう?

オセロー:静かにしていろ!

デズデモーナ:ええ…わたしがどうしたっていうの?

オセロー:あのハンカチ、
お前はあれをキャッシオーにやったな。

デズデモーナ:誓ってそんなことはしてないわ!

オセロー:お前、気をつけろ、気をつけるんだ、
偽りに誓いを立てないように。お前はいま 死の床についてるんだ。

デズデモーナ:ええ、でもまだ死ぬわけがないわ。

オセロー:いや、もう すぐ だ。
おれが呻き悲しんでいるのには確固たる信念があってのことなのだ、
もうその確信は取り除くことも、押しつぶすこともできない。
お前は死ぬのだ。

デズデモーナ:ああ主よ、どうかわたしにご慈悲を!
そしてあなたもご慈悲を!
キャッシオーを愛した?!
天も認める 隣人への愛情以外には、
あの方を愛したことなんてない。何か贈ったなんてことも!

オセロー:あのおれのハンカチをあいつが持っているのを見たんだ
お前は、おれをただの人殺しにしてしまう、
おれは あのハンカチを 見たのだ。

デズデモーナ:じゃああの方がどこかで拾ったんでしょう。
あの方に真実を聞いてください。

オセロー:もうあいつは白状したのだ。

デズデモーナ:え?

オセロー:お前を好きにしたと。

デズデモーナ:そんなこと言うはずがないわ!

オセロー:ああ、奴の口はすでに塞がれた。忠実なイァーゴーがあいつを始末してくれた。

デズデモーナ:ああ、あの方は騙され、わたしももうおしまい!
わたしはどうなってもいい、でも どうか 殺さないで!
殺すのは明日にして! どうか今夜だけは わたしを生かしておいて!
せめてあと半時間!
一言 お祈りを言わせて。

オセロー:もう遅い。〔彼女の首を絞める〕

(いとう  & やつだ)

オセロー:
こういうことだ
こういうことなのだ おれの魂!
しかしこういうことだ
あれの血を流すようなことは やめよう
あの肌を傷つけるようなことは やめよう
だが あいつは死なねばならぬ。彼女はまた男を騙す…
このバラは一度摘んでしまったら
二度と生き生きと咲きほこることはない
この香りをかいでおこう。
〔デズデモーナにキスする〕
何と香しい息!
正義の女神もその剣を打ち折りたくなる!
どうか死んだ後にもこのままでいてくれ。
おれはお前を殺し…その後でお前を愛してやる。
こんなにも愛らしいものがこんなにも恐ろしいものだとは!
目を覚ました。

デズデモーナ:誰?

オセロー:おれだ。

デズデモーナ:まだ寝ないの?

オセロー:おまえは今夜 お祈りをしたか?

デズデモーナ:ええ

オセロー:何かまだ 赦しを受けていない罪が残っていたら、いますぐ許しを乞うがいい。

デズデモーナ:どういう意味?

オセロー:祈れ。
おれは覚悟も整わぬおまえの心を殺す気はない。
おれはお前の魂は殺したくない。

デズデモーナ:いま 殺す と おっしゃった?

オセロー:ああ
ただお前の罪を思え。

デズデモーナ:そんなの あなたへの愛情だけ。

オセロー:お前、気をつけろ、気をつけるんだ、
偽りに誓いを立てないように。お前はいま 死の床についている。
あのおれのハンカチをあいつが持っているのを見たんだ
おれは あのハンカチを 見たのだ。
奴の口はすでに塞がれた。

デズデモーナ:あの方は騙され、わたしも!

オセロー:あいつのために おれの前で泣くのか?

デズデモーナ:殺さないで!
殺すのは明日にして どうか今夜だけは!

オセロー:もう終わりだ もう。

デズデモーナ:一言 お祈りを。

オセロー:もう遅い。〔彼女の首を絞める〕


●断片裏切り ♪I was made to love her (Stevie Wonder)

おれはリトルロックで生まれた
ちっちゃいころから大好きな恋人がいる
おれたちはいつも手をつないで どこまでも行った
おれはハイカットのスニーカーに シャツのすそは出しっぱなし
スージーは ちっちゃなブタのしっぽみたいな 変なポニーテールにしてて
おれはそんな彼女のことが大好きだった
あまやかな しろい 木蓮の花のように おれの愛 は やわらかに花ひらいた

あいつはおれを愛してる おれをほんとうに必要としている
おれは彼女を愛するべく生まれて来た
よいときも わるいときも つまり いつでも
おれたちの 愛 は 終わらない
だって おれは あいつを愛してる あいしてる

あいつはおれを愛してる おれを必要としている
そして おれは ここから どこにも 行く気なんてない

おれはあのとき まるでちっちゃなひよこみたいに幼いぼうやだった
かわいいおれのあいつが おれを裏切った とき
このもう過ぎ去ってしまった日々 を まだ 信じつづけていたんだ

山が崩れ落ちたって もしこの世界ぜんぶがこなごなになったって
おれは彼女のとなりに そこに よりそっていたい
だって おれは彼女を愛するべく生まれて来たんだ
そして 彼女のために生きるべく

彼女を愛するべく生まれて来た
おれの世界のすべては 彼女のまわりにしか存在してない
あいつはおれを愛してる
おれを必要としている
あいつは おれを


●断片戦争 かさぎ & いとう

(砂浜で ならんですわっているふたり
 男(35) 女(27))

(男と女はだらだらとつきあいつづけ(10年くらい?)
 女はまちきれずに ふっと他の相手と結婚してしまった
 でも関係はつづいている
 男は 戦争に招集された。)

(ジュース か ビール か 冷えた缶を持っている)

(女 じぶんのジュース缶を開ける ぷしゅ
 女 男をみる)

女  行きたくない?

男  うん

(女  ジュースのむ たばこすう)

(男  女のたばこをみる
 女  たばこあげる
 男  女のタバコから火をもらう)

(男  ひとくちすって
 まゆひそめて たばこを消す)
(女  男をみる)

男  なんかさあ
   持ってけるものってすっごいすくないじゃん

女  どこいくか わかんないしね
   ぜんっぜん やくになんか たたなそうなのにね
(男  女の髪をつかんで おでこにくちづけ)
(女  男をみる)

女  これじゃあ 呪いだよ

男  なにが

女  手 つないで

(つなぐ)

男  あいかわらず ちいさい手だ

女  …変わるわけないじゃん

男  (手の感触で 左手薬指 けっこんゆびわがあることにきづく
    女の手をちょっと引き寄せて ゆびわをみて)
   もう はずさないの?

女  うん

(男  女のゆびと けっこんゆびわを かじる)
(女  めをとじる)

女  (あたし)待たないから

男  うん

   (女の方を向く)
   おれさあ
   やっぱり ひとごろし とか むりだとおもうんだけど。

女  うん(手をちょっとにぎる たちあがる)
   帰る

   (男を見る)
   ありがとう

男  うん
   おれ ちゃんと 生きて 帰って くるよ?

女  うん(じぶんのおなかのあたりをさわる なんかいるんだろ。)

   (ちょっとだけほほえんで
   言おうかどうしようか一瞬まよって)
   あ あれ 捨てたから。
   あの 届けの 紙。

   (あたし)
   離婚もしてないのにさあ
   結婚できるわけないじゃん

(こういうときどっちがあやまるんだろう
 あたしだろうか このひとだろうか
 おれだろうか かのじょだろうか)

男  …おれが あやまるのか。

女  (男のあたまなでる)
   生きて 帰ってきてね。

男  運が よければ。

女  (声にださず 「待たないから。」)


<シーン7>

5.2 エミーリアの告白

エミーリア(つぶ 客席から):(戸の外で)ご主人様、ご主人様!

オセロー(むら):誰だ?

エミーリア(つぶ 客席から):(戸の外で)ご主人様、ご報告が!

オセロー(むら):そうだ、エミーリアか。……
キャッシオーが死んだことを知らせにやってきたんだろう。
もう動かんのか?
墓石のように静かだ。……

オセロー(かさ):また動いた! いや違う。
あいつが入ってくれば、この妻に話しかけるにきまっている。

オセロー(むら):おお、妻、妻! それでも妻か? 俺に妻はいない。
(戸を開ける エミーリア登場)

エミーリア(いと 客席から):おお旦那様、あちらでひどい人殺しが!
キャッシオーが ロダリーゴーという若いヴェネチア人を。

オセロー(むら):ロダリーゴーが殺された?
オセロー(かさ):そしてキャッシオーも死んだか?

エミーリア(かな 客席から):いえ キャッシオーは。

オセロー(かさ):キャッシオーは生きている?

デズデモーナ(やつ 客席から):ああ、

(いと かな つぶ せりふとともに舞台に出てくる)

エミーリア(いと):あの声は?
エミーリア(かな):奥様!
エミーリア(つぶ):おお奥様、デズデモーナ様! わたしの奥様! 何かおっしゃって!

デズデモーナ(やつ 客席から):罪なんてないけど わたしは死ぬの。

エミーリア(かな):あああ、誰がこのようなことを?

デズデモーナ(やつ 客席から):誰でもない……わたし自身……さようなら。
やさしいわたしのオセローにもつたえて……さようなら!
(死ぬ)

オセロー(むら):…なぜ死んだと?

エミーリア(つぶ かな いと  やつ あやこ):なぜ?

オセロー(かさ):あいつは自分で言った、
オセロー(むら):自分自身のせいだと。

エミーリア(つぶ かな いと  やつ あやこ):ええ
エミーリア(かな):そのように。
エミーリア(つぶ):皆に事実をしらせなくては。

オセロー(かさ):あいつは嘘つきだ、地獄へ落ちろ!
オセロー(むら):殺したのは このおれだ。
あいつはばかなまねをした。あいつは汚い淫売だ!
オセロー(かさ):相手はキャッシオー。それ以上はお前の夫に聞け。
お前の夫がすべてを知っている。(かさ 客席へ)

エミーリア(あやこ):わたしの夫が?
奥様が不義をはたらいたと?
わたしの夫が?
わたしの夫が?

エミーリア(つぶ):ああ奥様、どこかの悪党が愛情をもてあそんでいる
わたしの夫が 奥様が不義をしたと?

オセロー(むら):そうだ。
お前の夫。
おれの友人、お前の夫、誠実な、誠実な イァーゴーだ。

エミーリア(いと):なんて真っ赤な嘘。
殺すなら殺せ。
あんたなんかにはもう天国へ行く資格は無い、
もともとあんたなんかには あの奥様につりあう資格が無かった。
なんていう大ばかもの! まぬけ!
誰か! 誰か!
ムーアが奥様を殺した! 人殺し! 人殺し!
(イアーゴー その他登場)

エミーリア(つぶ):ああ、あんた、イアーゴー。
あんた他人の人殺しの罪を背負わせ(しょわせ)られてるわ!
この悪魔の言うことは間違いだと証言して、
この男、奥様が不義をしたと あんたから聞いたって言ってる、
まさか あんた、

イアーゴー(かさ 客席から):俺は思った通りを申し上げ、
あとは閣下自らが事実だとお考えになった、そういうことだ。

エミーリア(かな):でも奥様が不義をしたなんて

イアーゴー(かさ 客席から):いや。

エミーリア(つぶ):
なんてこと あんたは嘘を、忌まわしい嘘を!
奥様がキャッシオーと?
あんたの嘘がこの人殺しの原因。
なんてこと なんてこと なんてこと
思い当たる! ああなんてひどいことを!
あのとき気がつけば。……いっそ死んでしまいたい。
なんてこと!
皆様、どうかわたくしに話をさせてください。
妻として夫に従うのは当然ですが、今は違う。
イアーゴー、あたしはもう家には帰らない。
ああ天よ!
すべてがわかった 黙れだって?

エミーリア(つぶ かな いと あやこ):
あたしは 容赦ない北風のようにしゃべりつづける
天も人も悪魔も、みんなみんなみんなが
黙っていろ と言ったって、あたしはしゃべってやる。
ばかなムーア、あんたの言ってるハンカチ、
あたしが拾って、うちの人にやったんだ。
何度も何度も、真剣な顔をして
盗んできてくれとあたしに頼みこむから。
奥様がキャッシオーに? ばかめ、あたしが拾って
それをうちの人にやったんだ。
皆様、あたしは嘘は言ってない、
まぬけな人殺し!
あんたのような愚かものが あんな あんな立派な奥様を!!
(つぶ かな いと 倒れる)

あやこ:「イアーゴー 後ろからエミーリアを刺し、退場。」

エミーリア(やつ 客席から):
奥様、あの歌はやっぱり前兆だったんだわ?
ああ聞こえる! あたしは白鳥、
歌いながら 死ぬ。〔歌う〕「柳、柳、柳」
ばかなムーア、奥様は無実。あんたを愛してた、ばかなムーア。
あたしの魂は天国へ、ほんとのことを話して
あたしは 思ったとおりにぜんぶしゃべった、あたしは死ぬ、あたしは死ぬ。〔死ぬ〕


<エンディング>

●断片結婚

夫もしくは妻1  おかえり
         はい(あたたかい 湯気の立つ たべもののなまえ)。
         (出す)

夫もしくは妻2  (食べる)
         おいしい
         おやすみ
         (横になる)
         かぞえて

夫もしくは妻1  ひつじが1匹
         ひつじが2匹
         ひつじが3匹
         ひつじが4匹
         ひつじが5匹

夫もしくは妻2  (起きる)

夫もしくは妻1  おはよう

夫もしくは妻2  おかえり

(1 と 2 を入れかえ 繰り返し)


●エンディング 死にたくない

(むらかみ & いとう)

夫もしくは妻1  おかえり 殺して
         はい(あたたかい 湯気の立つ たべもののなまえ)。
         (出す)
         死にたくない

夫もしくは妻2  (食べる)
         おいしい
         おやすみ 愛して
         (横になる)
         かぞえて

夫もしくは妻1  ひつじが1匹
         ひつじが2匹
         ひつじが3匹
         ひつじが4匹
         ひつじが5匹

夫もしくは妻2  (起きる)

夫もしくは妻1  おはよう

夫もしくは妻2  おかえり 殺して

(1 と 2 を入れかえ 繰り返し)

(かさぎ & つぶらや)


1  しあわせ?

2  殺して

1  こわい?

2  うん 信じて

1  どうする?

2  こわい

1  うん
   しあわせ?

2  しぬほど。

1  死にたくない。


(1 と 2 を入れかえ 繰り返し)


(やつだ & かなざき)


1  しあわせ?

2  ん

1  こわい?

2  殺さないで

1  どうする?

2  こわい

1  死にたくない。
   しあわせ?

2  しぬほど。

1  うん


(1 と 2 を入れかえ 繰り返し)


♪メンデルスゾーン 結婚行進曲

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