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トップマネジメントの度量 #23

人はなかなか批判を受け入れないものです。特にプライドが高く、また、その地位が高くなればなるほどそうなるものだと思います。

人が批判を受け入れられないのは、自分の一貫性が崩されて、自分が思い描く理想の「自分」、他人に認められたい「自分」のイメージが傷つけられるからだそうです。

このことをcognitive dissonance(認知的不協和)というそうで、人はこの認知的不協和を少しでも和らげようとします。

あるヘルスケア企業で、トップマネジメント(トップの経営者たち)を従業員がどう感じているかについて、インタビュー形式の調査を行ったところ、トップダウンの情報伝達、上下相互のコミュニケーションが不十分だと口を揃えて言っているのが分かったそうです。

この会社では、トップの方針としてコミュニケーションに力を入れてきたそうですが、従業員はそう感じてはいなかったようです。

しかしながら、上層部の幹部たちにその批判的なレポートを見せたところ、彼らはレポートの信憑性を疑い、ネガティブなフィードバックを否定したようです。

その一方で、同じレポートのポジティブな内容には、肯定的だったようです。

トップマネジメントの意思決定の多くは失敗に終わると言われますが、なぜそのような高い確率で間違った意思決定をトップが行うかというと、

トップマネジメントが、下からのネガティブなフィードバックを受け入れられない
トップが組織的に下からのコミュニケーションを促進しないので、正確な情報が上がらない

ことが原因だと言われています。

したがって、トップは普段からどんなに少ない情報しか得られていないか、という現実を受け入れ、そのうえで、組織的にネガティブフィードバックを受け入れる体制と下からの正確な情報獲得を目指すアップワード・コミュニケーション(upward communication)をマネジメントする必要があります。

一方で、最近、ある大学院生の新聞への投書が話題になっています。国の権力者に対する思いを綴ったこの投書ですが、その中に以下のような記述があります。

権力者は、庶民の生活も、戦場の実情も知らないのではないか。
そのような人たちに支配された国を、なぜ私たちは愛さなければならないのか。

この記述の「権力者」は「トップマネジメント」にも置き換えられると思います。

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従業員の職場環境や現場の実情を知らないトップマネジメントが下す意思決定ほど、やっかいなものはありません。「会社目線」を従業員に求める経営者は多いですが、そういう人は大抵「現場目線」がありません(あるいは過小評価している)。

それぞれ言い分はあっても、結局お互いの納得・腹落ちがないと、何事もうまくいかないということは肝に銘じておく必要があると思います。

トップマネジメントが、自らに対する批判を受け入れる度量があるか、現場からの正確な情報をどれだけ得ているか、それらが意思決定成功のポイントだと思います。「裸の王様」にはなりたくないものです。

出展:40歳からのMBA留学:オーストラリアでビジネスを学ぶ-Chapter32 文系がはじめての会計学に挑戦-

引用索引

Tourish, D & Robson, P (2004), 'Critical upward feedback in organisations: Processes, problems and implications for communication management', Journal of Communication Management, vol. 8, no. 2, pp. 150-167.

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