見出し画像

『無限大穴』


    落下し始めてから30分は経っていた。俺はまだ現実を受け入れられないでいた。

    コンビニに煙草を買いに行く途中だった。目の前を歩くミニスカの女に見惚れていたせいで、道すがら蓋のないマンホールで俺は足を踏みはずしてしまったんだ。こんなバカな話信じられるか?

    あろうことか俺の落ちたマンホールは、都市伝説でたびたび語られてきたあの悪名高い「無限大穴」だった。

    悪い夢に違いない。最初はそう思った。でもどうやら現実らしい。というのも、空中で俺は一度気を失ったが、意識を取り戻した時も変わらず風圧の中にいたんだ。マジで落胆したね。

    意識が戻った時、俺の手は若い女にギュッと握られていた。女は一緒に落下しながら不安げな顔で俺を見ていたんだ。ウソみたいだろ。さらに俺はたまげたよ。あのミニスカの女だったんだ。



「・・・るん・・・・・・たち」
「聞こえねえ。もっと大きな声でっ」
「どうなるんでしょう、私たち」

   お互いの手はつながっているが、風圧でとにかく声が出しづらく、聞き取りづらかった。

「わからん。でも多分ここは無限大穴だ」
「無限大穴? 」
「別名、底なし穴、永遠のスカイダイビング」
「ええっ」

    女の長い髪は天に向かって逆立ち、ミニスカは完全にめくれあがっている。俺は目のやりばに困った。

    次第に感覚が麻痺してくる。漆黒の穴から吹き上がる風の抵抗を受けて、自分が落ちているのか浮いているのかわからなくなってくる。

「ん? 」

    その時、背中にボールのような何かが当たった。俺は空中で全身を泳がせて落下する物体を掴んだ。りんごだった。

「そうか。食料が落ちてくるんだ」
「どういうこと? 」

    俺は思い出した。月刊ヌーに載っていた“無限大穴から生還した男のインタビュー記事”を。彼は落下中たまに落ちてくるアイテムで生きながらえることができたと、確かそう語っていた気がする。


(続く)


#逆噴射小説大賞2020 #小説 #短編

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
TAGO

読んでもらえるだけで幸せ。スキしてくれたらもっと幸せ。

届いた!
多胡伸一朗|コピーライター|フリー|東京コピーライターズクラブ(幽霊)会員|大阪出身・東京在住|人・社会をポジティブにする言葉づくり|逆噴射小説大賞 最終選考・ほっこり4コマ漫画大賞 特別賞