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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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#超短編小説

『嘘の絵画』(超短編小説)

「なんだ、この奇妙な絵は」 「見ていると頭がおかしくなりそうだ」 街の美術館には、評判の悪い一枚の絵があった。数百年前に描かれたとされるその絵は「嘘の絵」と罵られ、街の誰からも忌み嫌われていた。というのも、その絵には存在しないはずのものが描かれていたのだ。 それは、夜空に浮かぶ無数の光だった。大陸の最果てにあるこの街の空は一年を通して万年雲に覆われている。空に光が浮いているはずがない。街の人間にはその光が不吉なものにしか見えなかった。 ただ一人、その絵

『キミとボクの間にある途方もない距離』(超短編小説)

窓から見える校庭は、銀杏の黄色で埋め尽くされていた。 季節が変わっても、授業の退屈さは一年中変わらない。そんな気怠さにつつまれて授業を受けていると、突然、誰かの強い視線を感じた。 教科書から目をはずし、教室内を見渡してみると、窓際に座る花沢さんがボクのことをじっと見つめていた。 「あ・・」 一瞬目が合ってから、花沢さんは照れ顔ですぐに目をそらした。ボクはなんだかすごくドキドキした。 花沢さんは単なるクラスメイトだ。当然、普段からお互いを

『通り雨』(短編小説)

「また雨か。ああ、最悪や」 明日の天気予報を見た風花はそう呟いた。気象予報士のお姉さんは、雨予報の時は暗い顔で話し、雨のち晴れ予報の時は無表情に話し、晴れ予報の時は明るい顔で話す。風花は、雨が大嫌いだったから、暗い表情で話すお姉さんも大嫌いだった。 「なあ、おかん。新しい傘買って」 「え、あの傘まだ使えるやろ? 」 「あの傘、無地の紺で地味やし。傘の内側が青空になってるやつあるやん? 私あれほしいねん」 「そんな変わった傘、いったいどこに売ってんの? 」 「ほら、

『私の愛おしい宇宙人』(短編小説)

私の彼氏は、宇宙人だ。 こんなことを言うと、たいていの人が一瞬固まる。この子は不思議ちゃんに違いないという目をする。でも、本当の話。宇宙人なのだ。 その証拠に、彼氏はいつもテカテカ光るシルバーの服を来ている。謎のペンダントを首からぶら下げている。大きなサングラスみたいな眼鏡を必ずかけている。本人はいつもこう言う。宇宙人なのだから、それっぽいファッションをするのは当然だ、と。 彼の見た目は三十代の日本人男性だ。しかし、ある時から心が宇宙人になった。

『迷宮』(超短編小説)

「お金ってさ、ないよりあったほうがいいじゃない? 」 すぐ後ろの席から、胡散くさい会話が聞こえてくる。 「不労所得って聞いたことある? うん。あっ知ってるよね、うんうん。ね? そうだよね」 男は慣れた口調でハキハキ喋っている。おとなしそうな若者Aと、人の良さそうな若者Bが、黙って話を聞いている。もはや、会話ではなく、一方的な演説だ。 男はなかなか通る声の持ち主で、聞きたくなくても耳に侵入してくる。耳障りだったため、僕はそのカフェを出ようかと思ったが

『いいことを言いたい男』(超短編小説)

「なんだか、いいことを言いたい気分だなあ」 突然、ケンが何か言い出した。 「なにそれ」 「ほら、今の俺たち、むちゃくちゃハッピーじゃない? この雄大な大自然の中で、木々のざわめきと川のせせらぎをBGMにして、最高に贅沢な時間じゃない? 俺、いつもはソロキャンプだからさー、いいこと言いたくても独り言になっちゃうんだよ」 晩秋のキャンプ場は、夜になってかなり冷えこんでいた。吐く息も白くなる。湯気の立ったぽかぽかのコーヒーを口に運んでから僕は言った。 「マジやめて

『言の蟲』(短編小説)

彼は私をぐっと引き寄せ、強引に唇を奪った。 「えっ、急に何を・・」 突然のことに頭が真っ白になった。でもそこには強く拒まない自分が確かにいた。嫌ならば、はっきりと拒否して彼の肩を押し返せばいい。でも、できなかった。抵抗しようとする素振りも見せていても、心は強く彼を求めていた。彼の荒い鼻息が私の首元を熱くする。次第に全身の力が抜けていく。 許されない恋とわかっている。ずっと気持ちを押し殺してきた。自分に嘘をつき続けてきた。 「ま・・待って」 図

5ヶ月間で80本の短編小説を書いた私が、この2ヶ月で3本しか書いていない話。

ここのところ、小説を書いていない。 「書けない」というよりは、「書きたいという気持ちになれない」といった方がしっくりくる。前にも記事で触れたけれど、一度書かなくなると、なかなか新しい一行目が踏み出せない。 80本の短編小説を書いた約5ヶ月間。あの密度の濃い日々は、明らかに“脳の体質”が変わっていた。一文字目の動き出しが早かったし、夢中になって書いていると気がつけば3,000文字を超えていたりした。 今は、脳の運動不足のような状態。やっぱり筋肉と一緒で定期的に鍛えないと徐

『葬られた遊び』(短編小説)

アパートの前の通りで、十歳くらいの少年たちが何やら変わった遊びをしている。ビニール傘を天に掲げながら地面から勢いよくジャンプして空中で数回転。着地の時にポーズを決める。回転数と着地のかっこよさを競う遊びをしていた。 気になった僕は少年たちに声をかけた。 「ねえ、それなんていう遊びなの?」 「・・・つむじかぜ遊び」 「へえ。なんで傘を持っているの?」 「傘があると空中に浮きやすいんだよ」 「そうなんだ」 「次は兄ちゃんの番なんだ。ほら見ててっ!」 どうや

『鳥かご』(超短編小説/ホラー)

春彦が、おもちゃよりゲームより大事にしているもの。いつも肌身離さず持っている一番の宝もの。それは、鳥の図鑑だ。 分厚い一冊は、鳥の絵と写真で埋め尽くされている。赤、緑、青、黄、黒、白・・・色とりどりの鳥たちを眺めているだけでいい気分になって、空を飛べるような気がした。 春彦は学校の誰よりも鳥に詳しかった。知らない鳥なんてほぼなかった。中でも特に好きな鳥はケツァールだ。世界一美しい鳥と言われていて、コスタリカという国にいる。小学校の文集では、将来の夢の欄に

『境界』(超短編小説)

長い参道に沿って露店の明かりが延々と続いている。 ミヤコは父に連れられて、年に一度の稲荷神社の夏祭りに来ていた。参道の先が全く見えないくらい、人でごった返している。浴衣を着た同級生の女の子、恋人同士のお兄さんとお姉さん、団扇を持って歩く大人たち・・・。 父の手をしっかり握り、人ごみを縫うように歩いていく。自分より背の高い大人と大人の狭い隙間を抜けていくのは、人間の木でできた森を探検しているみたいだった。たまに父の手が離れそうになるが、そのたびに指先に力を

『第三の説』(超短編小説/550字)

「空が回っているんだぞ」 「違う。地面が回っているんだよ。僕たちは丸い地面の上にいるんだ」 「嘘つくなよ!コッペ君」 「プット君こそデタラメだろう」 プットとコッペは、朝から、天動説と地動説で言い争っていた。それを見つけたロズウェ先生は、二人に向かって言い放った。 「はははっ、プットもコッペも間違っているぞ」 「えっ?」 「先生までデタラメ言わないでよ」 「本当だ。お前たちが話しているのは、宇宙図鑑13718巻の第211章に載っている太陽系にある地球というチッポケな

『遭遇』(超短編小説)

旅客機は深夜のシベリア上空を飛んでいた。 窓を隔てた向こう側はマイナス40℃の世界だ。窓際に座っているせいか、外の冷気が肩のあたりに伝わってくる。地上にかすかに明かりが見えるが、都会のそれとは違って数えるほどだった。 昨夜パリを発ち、東京まであと六時間。ほとんどの乗客が寝息を立てている中、私の目は冴えるばかりだった。やることも特になく、窓の外の闇をじっと眺めていた。 ふと気づく。はるか空の果てに何かが飛んでいる。その飛行物体は青白い光を放っている

『蟹の城』(超短編小説)

黄色の大きな蟹が砂浜を歩いていた。 その時、私は知った。蟹には赤以外の色がいることを。蟹は足跡を残して波打ち際をゆっくりと横切っていく。そうだ、私は昔、蟹になりたかったんだ。 蟹は椰子の木の根元にある巣穴に入っていった。近づいていくと、十歳の私が好奇心にあふれた眼差しで穴の中をのぞいていた。 二十歳の私は、十歳の私に声をかけた。 「ねえ?」 「ん、誰?」 「きっと未来のキミさ」 そう答えると、驚いた表情で「そんなはずはない」と取り乱し、