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デザイン会社の買収劇。「デザイン」はどこへ向かう?【Web30年史】2014

デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2014年の出来事を中心に振り返ります。

この頃、欧米でデザイン会社が次々とコンサルティングファームや事業会社に買収されていきます。日本のデザイン会社もそれぞれの独自性が高まっていきます。Flashサイトはほとんどなくなり、Web標準+レスポンシブで構築される。フラットデザイン・パララックス・シングルページ・マイクロインタラクションなどのキーワードでデジタルコミュニケーションの領域が作られて行きます。

その頃FOURDIGITは…
FOURDIGITもこの頃は、分社化したチームたちがそれぞれの領域で成長していっていました。僕はサービスの立ち上げに精一杯だったこともあり、プロジェクトに関わるというより、会社をどうにかしなければ!という思いで忙しくしていた記憶があります。


アメリカでの買収劇

2013年、Fjordをアクセンチュアが買収、LUNARをマッキンゼーが買収、このコラムでも何度も取り上げたJ.J.ギャレットがいるAdaptive PathもCaptal One(金融機関)が買収。他にもSofa、Gecko、Fuseprojectなどなどが事業会社やコンサルファームの傘下に入っていきます。

もともと広告代理店の元にデザイン会社やエージェンシーが入ることはありましたが、今回の動きはまた別の要因が大きくありました。


それは、コンサルファームが”DESIGN”を取り入れていく、ということです。

コンサルファームはもともと、経営をするうえで相談(コンサル)する相手としての人材提供やプロフェッショナルサービスを提供しています。前回に取り上げた、UXデザインやデザインシンキングなどがビジネスにおけるインパクトを生み出していることが浸透し、ビジネスや経営の相談を受ける上でデザイン領域をカバーする必要が出てきたとも言えると思います。

コンサルファームが「デザイン」をメニュー化するため、もしくは、コンサルワークのアウトプットとしての「デザイン」を持つ必然性が生まれました。

上記のような買収劇は、これからはビジネスにデザインが必要、と考えた結果である、とも言えます。

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デザイン会社としてのあり方

リーマンショックや3・11による経済のうねりの中で、ROI(投資対効果)が叫ばれたこと、技術的理由、モバイル環境によるユーザー行動の変化によって、Flashによるリッチコンテンツを提供するビジネスが限定的になり、Web標準技術が発展、Webアプリケーション領域やデジタルマーケティングと接続されていく、そんな状況下。

Webプロダクションはそれぞれの「生きる道」を模索し始めます。スタートアップの会社も人材獲得に必死の中で、人材を維持することだけでも難しくもあり、それぞれが構造変化を求められていたように感じます。

クリエイティブで勝負するチーム、メディアを持つチーム、強い業界に特化するチーム、アプリに特化するチーム、サービスを展開するチーム、それぞれのサバイバル戦略がはじまります。


デジタルプロダクション・クリエイティブエージェンシーのコンソーシアム I.C.Eはエキスパートなクリエイティブを中心に。プロモーションやイベントなどに向かう動き。

自社のメディアを持ってトラフィックから広告や多方面に展開する動き。

デジタルアートとして作品によって広めていく動き。

アプリやモバイルコミュニケーションに特化する方向。

業界専門CMSをベースに特化する方向

などなど、様々なチームがいました。


カヤックが上場したのも2014年。面白法人なだけに業界でも目立った会社だったし、面白法人が上場するのも面白かった。

上場資料を見ると、クリエイティブ+ゲーム・サービス+コミュニティが事業内容。受託+ゲームがほとんどなので、スケールを描けないのでは?とか、VCがそろそろ満期だから?とか、などいろいろ憶測や意見はあったようですが、それでも上場を果たしたことで一定の立ち位置を作りました。

XXX Tech / IOT

フィンテックが最初だったように思えますが、〇〇Tech、というワードであらゆる業界がテクノロジーによってアップデートされようとしていきます。

金融だけでなく、教育(Edu Tech)、人事(HR tech)、広告(Ad tech)、農業(Agri tech)……。これらに共通するのはもちろんデジタルテクノロジーです。AIやドローンとかそういうのも絡んでいますが、あらゆる業界におけるテックによるサービスアップデートです。

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デジタル人材の活躍場所はどんどん広がり、Webサイト、Webサービス、アプリ、サイネージ、IOT分野などなど無限に広がっていきました。

2015年から2020年までにIT関連の成長は3.5倍になると言われましたが、デジタル人材がいきなり3.5倍に増えるわけがないので、人材の獲得競争が激化していきます。

人とデジタルの接点が限りなく増加していく中で、 UXが重要になっていくのは、間違いないように思えました。


それこそデザイン会社は何をデザインするのか、仮にWebサイトといっても広く、プロモーション、メディア、ソーシャル、コーポレートサイト、商品サイト、会員ページ、Webアプリケーション、Eコマース、Webアプリケーション、社内ツールなどがあり、サービス、アプリ、リアルとの連動、基幹システムとの連動、デジタルデザインと言われる領域の中にあらゆるものが入ってくるようになりました。

そして、それぞれのユーザーがいて、何を・いかに作るのか、なんで必要なのか、どういう効果を求めているのか、といった形で整理が必要だったり、デザインと一口に言っても、求められる領域が混じり合い、無限に広がっていきます。


フラット・ミニマルであった理由

少し話をビジュアル方面にもどします。

当時、急速に広まったフラットデザインやマテリアルデザインは、アプリケーションの領域だけでなく、Webサイトの表現としても取り入れられていきました。前回触れた技術的理由ももちろんですが、それが受け入れられたのはユーザーサイドの行動の変化でもありました。

Webサイトにリッチな表現を持ち込んだFlashから、Web標準に移り変わり、Googleがリッチな表現の可能性を示しても、広告的にそれをやろうとするプロジェクトは多くありませんでした。

この時代のFWA Awardなどを見れば分かりますが、ユニクロの頃のようにビジネス的に成功しているように思えるものは少ないのです。


ユーザーサイドの行動の変化というのは、Web閲覧において「リッチ表現を求めていない」ということに尽きます。

昔の「ネットサーフィン」とは違い、モバイル環境で見るので、情報取得やツールとして使う目的に移り変わっていきました。余計な表現は邪魔になることが多く、シンプルで、使いやすく機能的であり、それが美しい、ということが重視されます。

シンプルでミニマルなのは、トレンドから来るものではなく、機能的でユーザーから見た合理的な解でありました。この時代よりもずっと前にフラットデザインがあった、みたいな話を見かけたことがありますが、表面的に似てるだけで意味合いがまったく異なります。

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フラットデザインの中の表現

この頃のデジタルデザイントレンドは、フラットデザインや機能的であることを前提としつつ、閲覧体験を高める工夫がなされていきます。

「パララックス」は、視差を活用した表現手法です。スクロールすると画像が浮いて見えたりするやつ。スクロールアクションをトリガーにして横に移動したり、3Dの物体がくるくる回ったりする表現が増えていきます。

スマホ閲覧では、指がスクリーンに触るので、スクロールは指でものを動かすイメージになるんですが、それがパララックス表現によって少しずれたり立体的に見える、というもので、この表現は一般的にもかなり流行しました。

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パララックスを活用した Panasonic / ラムダッシュ

マイクロインタラクションは、インターフェイスをより機能的にする、もしくはインターフェイス自体をリッチ化する動きです。

アイコンが動いたり、選択時にアニメーションされたり、ローディング時にアニメーションが起こるなど、何かユーザー側の動作に応じた動きを活発にさせるものです。これも、スマホ時代の閲覧にフィットしました。

スマホで閲覧していると、アプリでもWebサイトでも、押したら明確な反応が必要になります。インタラクション=双方性、という意味ですが、明確な反応を返す、今やってます、今聞こえてますよ、ということを表現する必要があり、それは、過度でなくさりげない方が気が利いています。こちらも一般的なものとして広がっていきました。

他にもシングルページやビデオ動画、インフォグラフィックなどが流行り始めます。上記のフラットデザインが方向性の土台にあるなかで、閲覧体験を高めるための活動につながっていきました。


いかにデザインするか?

WEBサイトの役割が、ユーザーの目的や行動が情報取得、ツール利用が中心になってくると、それをいかにスムースに達成できるか、というのがウェブデザインのゴールになります。

もちろんビジネス上の要求や技術的制約、オペレーションの条件も含めてではありますが、ユーザーのゴールを目的にすればするほど、リッチな表現よりもユーザービリティファースト・ユースフルであることが重要になっていきます。

そして、ビジネスにおける競合優位性は、単に使いやすい・使える、というだけでなく、サービスとして質が高いことやブランドとして好意を抱くこと、になります。

その一連の体験をデザインしなければならないわけです。

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論点が広義になり、ビジネスの根幹に近づけば近づくほど、今まで定義されていた領域が混じり合っていきます。ビジネスコンサルもデザインに関わりますし、マーケティングもデザインに関わりますし、もともとのデザイン会社も上流工程に関わってきます。

今までの役割の分離や区切り方があまり意味をなさなくなってきます。

結果として、欧米で起こっている、コンサル VS 代理店(エージェンシー)のデザインの争い、といったようなことが起こり始めます。


次回予告

2015-2016年には「デザイン」のあり方や価値が決定的に変わっていきます。DXや〇〇Techという言葉が一般化し、UXデザインはバズワードになり言葉が一人歩きします。世界にインパクトを与えた3つのGO。フェイクニュースやツールの発展など、デザインを取り巻く社会環境が変化していくのでした。

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