椎名エリへ。祈る。挑め。~オペの前に、あなたへの言葉を~

あなたが これを 読むのが、最後にならないことを祈り、 あなたのためだけの 言葉を。

あなたと私はとても似ていて、 だけどとんでもなく違う。

物心ついたとき、 いや、「 死」から、 私たちは 物心がついたものだよね。

性器を犯されたのも、 小学生、 受け取り方は違っても、 同じ頃だった。

阿呆な私は その意味もわからず、 どうでもいいやと 男の子たちと プロレスごっこばかりに 明け暮れていたけれど、 早熟過ぎたあなたは、 犯され続けて壊れてしまった。

何度レイプされても、 どんなに酷い目に遭っても、 自分の体がどうでもいいくらい。

だけれども。

よく分かっている。

オランダに行ったとき、 アダルト ショップで見た SMビデオのパッケージには、 椅子に釘で 身体中打ちつけられた、 糞尿垂れ流した まだ小さな女の子の死体が 写っていた。

マフィアが アダルトビデオを撮っているから、 殺すところまでやるんだと聞いた。

貧しい両親が 娘を売るんだって 聞いた。

16歳以下の子供は 喜ばれるって聞いた。

その隣のビデオのパッケージには、 体中の皮を剥がされて、 目玉が飛び出している 女の子が 緊縛されている 写真があった。

あなたの あの血塗られた箱の中、 あなたが、 爪が剥げるまで もがき続けた 箱の中、 あれはああいった情景だったでしょう。

そしてあなた自身が、 あれらの 少女たちだった。

私は母との心中未遂で、 あなたは焼かれた 火箸で打たれて、 お互いに 記憶の初めが、 生まれてからの記憶の初めが、「 死」 だったね。

そこから急に物心ついたよね。

選んだものは、私は 2歳8ヶ月の時の 自殺未遂、 あなたは牢獄の中に閉じ込められて、 延々と 焼けた火箸で 身体中 打ち据えられたよね。

そして私たちは、 それでも生きたよね。

汚泥の中を ただ迷走するようだったけど。

あなたは椎名エリとして、 苦心した末に ひとつの生きる道を選んだ。

苦しくて苦しくて、 地獄のような道を。

痛めつける痛みでしか、 酔うことができなかった。

その中にいくつもの、 いびつな 愛を 演じたね。

ガラス細工のあなた。

美しく繊細な、 遠くの国で作られた、 ガラス人形のあなた。

だけどあなたは、 這いずりまわりつつも 生きた。

血を流しつつも、 愛を得た。

二十年前、 お互いを壊しあった、 徹底的に破壊された ガラス細工の二人。

離れて、 時を経て、 二人が同じことを考えていたということ。

忘れられず想い合って、 身を焦がしていたということ。

あなたたちは、 やっと 溶け合って、 ひとつのガラス細工になった。

そこまで生きたあなたを、 命を繋いだあなたを、 どんなになっても、 色が見えなくなっても、 この世の地獄に 落ちたときでも、 生き抜いた あなたのことを、 高貴だと言わずして 何と言ったらいい？

あなたは決して汚れず、 背後から ペニスを入れられた 愛しさに、 あれだけ 泣いて、 あれだけ感じて、 あれだけ喜んで、 彼女のために、 生きて来てよかったと 微笑んだ。

あなたを讃えたい。

どの言葉を使っても、 どれも陳腐だ。

あなたたちの結婚が、 どれほど清らかなものだか知れない。

こんな結婚 知らない。

純潔な、 ガラス細工とガラス細工。

美しい、 ガラス細工とガラス細工。

その溶接。

今この瞬間、 生きている自分を誇ってちょうだい。

今この瞬間、 これほどまでに、 愛されている自分を誇ってちょうだい。

首にメスが入る瞬間、 お願いだから念じて。

幼少の頃、「 死」 から始まったあなたが、 ここまで生きたんだ。

こんなところで終わる筈がない。

麻酔がかかったら、 どうか彼女の夢を見て。

あなたは彼女を残していけない。

生きて、 自発呼吸をして、 例え身体が元に戻らなくても、 このオペを乗り切ると、 目を開けて起き上がって みせると、 強く念じて。