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能力を失う先輩の私からお父さんへ。~認知機能障害の私より認知症の夫へ~

お父さんに、 こうお話しした。
「 お父さんよりも 私の方が先輩なんだよ! 自分にがっかりしていくということに関しては、 私の方がずっと先輩なんだよ!」

お父さんはこう言った。
「 俺は、 自分にがっかりしていくことが 初心者だから、いろいろ 教えてくんねえか?」

そこで私はこうお話しした。

「 統合失調症という病気は、 自分で自分にびっくりするような ことをしてしまったり、 自分が全く訳が分からなくなったり、 できていたことが 全くできなくなっていったり、 そういうことを繰り返しながら、 だんだん本当に、 できないことは増えていくんだ。

若い頃は、 喋れない歩けない、 もう廃人になってしまって 退院してきたこともあったよ!
両親が付きっきりで、 2年間リハビリしたよ!

たくさん自分にがっかりして、 リハビリをして、 その繰り返しで生きてきた。

今の私は、 慢性期という状態なの。

認知機能障害 というものが始まっている状態なの。

例えば ATM で お金を 振り込んだり おろしたり、 私にはもうそれはできない。

コンビニのコピー機で、 コピーを取るということもできない。

コンビニは複雑な機械は、 コンビニのお姉さんにやってもらってる。

掃除なんて、 どこからやっていいか分からなくて、 ヘルパーさんがいなければ、 すぐにゴミ屋敷になってしまう。

ご飯を作ろうと思っても、 例えば ゆで卵を剥くとき、 ちょっと前までできていたのに、今では 何回やっても 卵の白身をむいてしまって、 黄身だけになっちゃうんだ。

そんなふうにどんどんどんどん、 できないことは増えていって、 それはゆっくりと、 増えて行ってるんだ」

お父さんにそれを話したら、 お父さんは仰天した。

なぜなら、今 お父さんは、 忘れてしまうことや、 できなくなってしまうこと、 それにがっかりしていたけれど、 お父さんよりも 私の方が、 できないことが多かったからだ。

なんで私がこんなにできなくて、 それでも へっちゃらで、 のんきで、 自分に自信があるかと言うと、 それはこういうわけだ。

『 自分にがっかりすること』 と『 自分に絶望すること』 は、 全く意味が違うのだ。

私は病気になったのが早かった。
と言うか、 生まれつき 多動性障害を持って生まれた。
他の子と違うのは 慣れていた。
他の子ができるのに、 自分にはできない。
それも慣れていた。

いくら自分にがっかりしたって、 私は自分に絶望したことは 数えるぐらい しかないのだ。
これ以上親に迷惑はかけられない、 命を絶とう、 でもそのたんびに両親が、 どこまでもバックアップしてくれて、 私の絶望は どこかへ飛んでいってしまうのだ。

そうやって生きていくうちに、 絶望するのがバカらしくなった。

ひとつ 自分にがっかりするたびに、 そのがっかりを受け入れる。
そして工夫する。
恥なんて かき捨てである。
大体自分は そんなに 大した人間じゃない。
恥ずかしいとか、 そんなプライドは、 もうちっちゃい頃に、 とっくに 木っ端微塵だったじゃないか!

医療と福祉を フルで活用する!
できないことは 誰かに助けてもらう!

そうやって生きてきた。

だから私は、 自分に 何度 がっかりしようと、 がっかりが平気なのだ。

お父さんはこれから、 自分にがっかりすることが、 どんどん増えていくだろう。

だけはお父さんには、 そのくらいで 絶望してほしくない。

いま自分は、 これができなくなった。
いま自分は、 このぐらい 忘れてしまう。

そうか! 自分の 脳みそは、 老化という現象で、 この能力と この能力を 失った のだな!

いやはや! 脳というものは不思議だ!
老化現象というもので、 一体 脳のどの部分が 萎縮したんだろう?

そんなふうに、 私の真似っこして、 自分の脳と できない不思議、 忘れる不思議、 それを面白がって 空想しながら、脳 という大宇宙に 思いを馳せて生きて欲しいのだ。

私もどんどん出来なくなっていく。
認知機能障害が始まっているんだから、 これは当たり前のことである。

お父さんも老化現象で、 これからますます、 どんどん忘れたり 出来なくなったり していく。
当たり前のことである。

人体と言う 大宇宙。
脳 と言う 大宇宙。

その終焉に向かって、 自分を観察すること。
自分が死ぬ頃には、 どこらへんまで忘れて、 どこら辺までできないんだろう?
怖いことじゃなくて、 自分の持ち物である自分の脳が、 どんな働きをしていくのか、 どんな衰えをしていくのか、 それをおおらかに観察すること、 それはとっても面白いことなんだ。

私は7回 精神病院に入院した。
そのたんびに、 自分の脳の 不思議に 思いを馳せた。

そして今、 漫画は描けるけど、 音声入力もできるけど、 あと何もできない自分。
一体脳のどの部分に どんな影響が来てるんだろう?
認知機能障害とはいったい、 どういったものなんだろう?
そんな不思議を考えながら、 統合失調症の患者に やがて 来る、 早期認知症 になった時の 自分の状態を考えている。

私の脳の 寿命は短いかもしれない。
でも肉体は 頑丈だから、 100まで生きるかもしれない。
認知症が始まったら、 もう後はゆったりと、 妄想の中で暮らして、 浮世の憂さを忘れ、 病院の看護師さんの お世話になろう!
と、 勝手に決めている。

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