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楽しみを邪魔する脳内変換

「ああ、今年も終わりか」と思うきっかけの一つに、音楽特番がある。大勢のアーティストが次々と曲を披露していく年末恒例のあれだ。

私が小学生の頃は、月曜に「HEY!HEY!HEY!」、木曜に「うたばん」、金曜に「ミュージックステーション」、土曜に「LOVE LOVE あいしてる」があって、毎週欠かさずに見ていた。だからアーティストが勢ぞろいする特番は好きだったし、近所のレンタルCD屋さんに置いてある歌詞カードを持ち帰っては暗記して、流行りの曲をマスターしていた(当時は2、3回歌えば覚えられた歌詞が、今では何度歌っても覚えられないことがかなり悔しい……)。

それぞれの家庭に、それぞれのルールがあると思う。高尾家には「特別な日」に発動するルールが存在した。お正月や大晦日、誕生日、クリスマスなどが「特別な日」に当たるのだけれど、その日に限っては「食事中に歌ってもいい」というものだった。だからMステのスーパーライブは、ケンタッキーのチキンをかじりながら歌って見ることができる。それが結構うれしかった。

でも最近は、歌番組を純粋に楽しめないでいる。流行りの曲はもうずいぶん昔から追いかけていないから、そもそも知っている曲が少ないというのもあるけれど、気になってしょうがない。歌詞テロップが。

例えば、「夢を掴むために」みたいな歌詞が流れてきたとしよう。そうすると頭の中では「夢をつかむために」と変換されて、画面に映る「掴む」の文字に違和感を感じる。「全てを忘れて」は「すべてを忘れて」だし、「成長の鍵」は「成長のカギ」だし、「あの頃のともだち」は「あの頃の友達」だ。特に校了前はひどい。頭の中が「校正モード」になっているからなのか、次から次に変換していく。それがすごく気持ち悪い。歌が全然入ってこない。脳よ、マジでやめてくれ!

じゃあ画面を見なければいい、という話でもない。歌番組において「音楽を聞いて楽しむ」派と「一緒に歌って楽しむ」派がいるならば、私は後者だ。そして歌詞を覚えられない年齢になった私がサビを口ずさむためにはテロップが欠かせない。見たら気持ち悪いんだけど、見ないと歌えない……というモヤモヤした気持ちを抱えながら、歌番組を見ることになる。これはたぶん、もうどうしようもない。受け入れるしかないんだと思う。ああ、これが職業病ってやつか。

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