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【詩】マグカップの底

マグカップの底に沈んだ椅子は
ちょうど真ん中にあって
ひとつの部屋のようで
この世界は常に見上げている

コーヒーで満たされた世界では
夜になって
真っ暗な世界の中
コクや苦みや酸味を
楽しみながら丸い空には
大きな満月が照らしている
時間とともに少しずつコーヒーは減って
マグカップの底に夜明けがやってくる

けれど夜明けは少しずつしかやってこない
真夜中には真夜中の楽しさがあって
夜明けには夜明けの楽しさがあって
深夜や夜明け前の楽しさがあって

底はしずかな部屋となって
見た人の心を座らせ
沈黙となって存在し
沈んだ椅子が
世界をつくっている

この椅子に座るときは
ひとりになって沈み込み
世界をシャットダウンして
コーヒーで満たし
少しずつ楽しんでいると
心の言葉が
このちいさな世界に満たされて
あふれてくる

あふれた言葉の断片たちは
紙の上に並べられ
パズルのピースとなって
片隅に羅列する世界の断片
その言葉の奥のほうで
自分の無意識とつながって
この生まれた言葉を知るために
他の言葉と組み合わせてみたり
言葉を足してみたり
突き放してみたり
そっとしてみたり

またマグカップの底に
コーヒーが降って
静かに沈んでいく椅子


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