弦巻羊一郎

喜寿(77歳)を迎えました。 凾館に居た頃を思い出し昭和ノスタルジアを書いてみました。…

弦巻羊一郎

喜寿(77歳)を迎えました。 凾館に居た頃を思い出し昭和ノスタルジアを書いてみました。 ■小説のポイント: 昭和30年代函館で過ごした少年が地域の小さなコミニテーの中で、学校、友人、親戚等と関わり多感な感情が表現されている。10編の連作集である。

最近の記事

スタンドバイミー函館⑥「おじさん達と十五号台風」

おじさん達と十五号台風僕は小学五年生、函館湯の川温泉のひとつ手前の駒場町に住んでいる。 パチンコ屋は一軒もないが、競輪場と競馬場がある地域である。父は国鉄職員である、親戚のおじさん達が時々やって来る。 「山のおじさん」     おじさんは、函館の奥地、鉄山に住んでいる。 おばさんと一緒に、年に一、二度やって来る。中肉中背で、あご一面にひげを生やしている。家に来ても特に話すこともなく、手持ちぶささの様子で、新聞を読んだり、タバコを吸っている。おばさんは目を細めて、     「忠

    • スタンドバイミー函館⑤「雑品屋のおじさん」

      雑品屋のおじさん「ちえ、ゴダッペだ」 「また、ゴダッペだ」 友達の寄本と、近くの松倉川の支流に鮒釣りに行った時だ。 松倉川は函館の湯の川温泉海岸に流れ込む中河川である。 鮒を狙っているのだが、先にエサに食いついてしまうのがゴダッペである。正式名は分からないが、体の割に頭が大きい、当然口が大きい、多分ハゼの仲間である、我々はゴダッペと呼んでいる。 「どうするごだっぺ」 バケツの中は二人で、ゴダッペは十数匹、鮒は小さいのがわずか一匹である。 「ゴダッペは捨てよう、鮒も小さいから

      • スタンドバイミー函館④「犬殺し」

        犬殺し「米(よね)あの人見て」 「誰」 「あのおじさんだよ、後ろに針金の輪を持っている人」 「あっ、犬殺しだ」 「犬殺しだよね」 函館の町に、野良犬が相当数いて、その犬を捕まえる人がいた。 我々はその野犬狩りの人を、犬殺しと呼んでいた。 「きっと、この辺の犬を探しているな」 「犬たち逃げてくれればいいのになあ」 と言いながら、 私は友人の寄本と今日の目的である、ばん馬競争を見に行った。 「ハイ、ドウドウドウ」 「それいけ、いけ、いけ」 の大きな声と 「バシーン、バシーン」

        • スタンドバイミー函館③「昔の宿泊学習旅行」

          昔の宿泊学習旅行 「おー!」 「わー!」 車窓から、大沼、小沼、ジュンサイ沼、その後方には、晴天にくっきりそびえる駒ヶ岳。 「おーい、駒ケ岳からの噴煙が見えるぞ。」 右側は波穏やかな噴火湾を眺め、歓声を上げたり、たわいもないおしゃべりをしている私たちを乗せた列車は、函館本線を北上した。 1泊2日の宿泊学習宿で、白老と登別に行くのである。白老では、アイヌ民族村を見学して歴史や展示物の説明を受ける。 ここではアイヌの人たちの木彫りの熊や、こけしが沢山売られていた。私はニポポと

        スタンドバイミー函館⑥「おじさん達と十五号台風」

          スタンドバイミー函館②「競馬場五人抜き」

          競馬場五人抜き 「もういいかい」    「まあだだよ」              「もういいかい」 「もういいよ」 観客がいないせいか声が反響する。 お決まりのかくれんぼである。 しかし隠れる場所は競馬場の観覧席である。隠れると下の芝生広場から見上げてもわからない。鬼は観覧席に上がり一列一列探し回る。私達隠れる方は鬼の足音を聞いて、列を移動して見つからないようにする。 競馬競技が開催されてない時の遊びの一つである。親友の寄本と遊びに来た。ここ函

          スタンドバイミー函館②「競馬場五人抜き」

          スタンドバイミー函館①「一本の紙テープ」

          一本の紙テープ 「開けて、開けて、開けて」 「5時間目、女子だけ集めて、先生が何か話してたよな」 「男子を除けて、何話してたんだよ」 「開けて、開けて、開けてよ」 「あっ、後ろの出口に行ったぞ、後ろ、後ろ」 「何の話をしたのか、教えてくれれば、開けるよ」 「何の話だよ」 「―――――」  私米沢忠夫六年生、学校は2階建ての木造校舎で、2階の窓からは、遠くに函館山が見え、すぐ目の前には、競馬場と保安隊の名称から、変わったばかりの、自衛隊の駐屯地が見える。  放課後先生の指示で、

          スタンドバイミー函館①「一本の紙テープ」