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ただのうまと観る「THE BATMAN」と「バットマン映画シリーズ」

「THE BATMAN」って?

あらすじ

凶悪犯罪が蔓延る街、ゴッサムシティ。この街には、我欲のままに罪を犯す「悪」と、犯罪者に私的に制裁を下す「もう一つの悪」があった。
もう一つの悪の名は「バットマン」。夜闇に紛れ犯罪者に恐怖の鉄槌を下す彼は、犯罪の抑止力として警察に頼られながら、私的に暴力を振るう悪として警察に煙たがられる、街の中でも微妙な立場にいた。
そんなバットマンが活動を始めて2年が過ぎたハロウィンの日、ゴッサムの市長が何者かに暗殺される。
自らを「リドラー」と名乗る凶悪犯は、この街に隠された「秘密」を仄めかす言葉と、現場にバットマン宛のメッセージと暗号を残しており…

どんな人向け?

  • バットマンの名前は知ってるんだけどなぁーって人

  • 「JOKER」からバットマンを知った人

  • サスペンス、ミステリー好きだけどアクションもの、アメコミものに手を伸ばしたい人

  • バットマンファン

作品詳細

マット・リーヴス監督作品
1943年から脈々と続くバットマン映画シリーズの第16作品。このうち「バットマン」というタイトルの作品は2作のみ、「ザ」の冠詞が付くタイトルは今作のみ。今日話題を集めるこのシリーズの集大成とも位置付けられる。

この作品の魅力

今回も、前回同様まずは本作の魅力を語りたい。シリーズ以前の15作品のどれもが持たない「THE」(極めて、まさに、唯一の、といった意味合いを含ませる。)という冠詞を掲げた今作、一体なぜこの冠詞が付いたか、バットマン初心者から大のバットマンファンまで色々な視点で見ていく。

最も初心者向けの、バットマンシリーズ名作群の"集大成"

なんと言っても本作の見どころは、「ダークナイト・トリロジー」や「スーサイド・スクワッド」「JOKER」などで人気急騰中のアメリカンコミック「バットマン」シリーズの映画の中でも、過去に大ヒットしたシリーズの傑作の特徴をそれぞれ取り入れつつ、独自の雰囲気として練り上げている点だ。

本作のバットマン。無機質な建物を背景に、他のヒーローもの映画では味わえない陰鬱とした重たい空気を醸す。

ゴシック調の建物や薄暗いバットマンの秘密の拠点「バットケイブ」は、今尚アメコミ映画の名作と語られる「ティム・バートン版バットマン」を彷彿とするし、街の人々の薄汚く澱んだ夜の姿と過度なまでに清潔感のある昼の姿の二面性と歪さは、2019年の映画界の話題を掻っ攫った「JOKER」の空気によく似ている。また、ヴィランが仕掛ける凶悪犯罪に力と知性で食らいつく様は「ダークナイト」が培ったバットマンのイメージをよく活かしている。
こうした近年の映画界に度々名前を見せた「バットマンシリーズ」に名前を連ねる名作たちが作った「バットマンシリーズのイメージ」を、本作はよく練り合わせて組み立てている。

つまり、バットマンシリーズを全く観たことがない初心者が観るのにうってつけなのだ。言ってしまえば、この映画一本観れば「バットマンとはこう」というイメージが大体掴める。この映画でバットマン映画にハマったなら、どの作品を次に見ても楽しめる。クライムサスペンス風味にハマったならダークナイト、世界の汚さと不条理に生きる人間たちにハマったならJOKER、ゴシック調ながら現代味ある独特の空気から繰り出されるアクションにハマったならティムバートン版バットマンといった具合だ。
シリーズの足がけにちょうどいい。

更にストーリーも、バットマンが活躍を始めてから2年とまだ若く、「悪人に恐れられるカウンターとしての悪人」になった背景や信念も丹念に描写される。バットマンが自身の行動の正当性や自分の抱く正義に疑問を感じながらも、もはや暴力と呼べるようなダーティな正義を振りかざし、悪を誅するために奔走する、「バットマンとは」という命題を観客と共に登場人物たちも模索する作りとなっている。「バットマンって何?」を一から学べるため、バットマンを全く知らない方は胸を張って裸足で飛び込み、自分なりに「バットマンってこうなんだ」という考えを作ってみて、ハマったならハマった気分のまま存分にのめり込んでほしい。

ファンも歓喜のヴィラン選択

バットマンを少し知っている人間なら、「バットマンシリーズを代表するヴィラン(悪役)は?」と聞かれたら、十中八九「ジョーカー」と答えるだろう。

バットマンシリーズ映画等の、歴代のジョーカー。彼が登場する作品はいずれも名作と呼ばれる、名物ヴィランだ。

バットマンシリーズのヴィランの「顔役」であり、バットマン最大のライバルながら最大の理解者。彼の信念と社会の善性の盲点を暴き、嘲り、掻き乱す、ゴッサムシティの悪のカリスマ。なんならバットマンはよく知らないけど、ジョーカーの姿は見たことある、という人も少なくないだろう。

しかし、この「THE BATMAN」では彼が登場しない。では、主役ヴィランは誰か?それがこの「リドラー」である。

なぞなぞ(Riddle)を武器とする凶悪なヴィラン、リドラー(Riddler)。なぞなぞを付した劇場型犯罪でバットマンと知恵比べを挑む。

このリドラー、バットマンシリーズの中では結構際立った人物なのだ。

一つは、半ばミュータントじみた特殊能力を持つなんならヴィランの能力のほうが他社コミックのヒーローみたいなバットマンのヴィランズの中で、彼は全く特殊な能力がない。
バットマン自身はざっくり言うと「金に物言わせてハイテク危機に身を包んだ、打倒悪人に執着する一般イケメン男性」でしかないため、対抗するヴィランは大概さまざまな特殊能力を引っ提げてくる。
極低温下でしか生きられず、液体窒素を武器にする「ミスター・フリーズ」、植物の毒やフェロモンを自在に操る「ポイズン・アイビー」、筋肉増強剤でハ○クみたいなパワーを繰り出す「ベイン」など、バットマンにはいわゆる特殊能力を持ったヴィランが多い中、リドラーは本当に身体能力に関しては単なるインテリ派のオッサン程度しかないのだ。

更に、特殊能力を持たないヴィランは、例えば記憶と精神が錯乱し悪を成さなければ生きられない「ジョーカー」や、二重人格によりゴッサムシティの光と影の姿を併せ持つ「トゥーフェイス」など、大概が精神が破綻している。そこにくるとリドラーは(まあおかしいっちゃおかしいが)「めっちゃテンション高くて頭いい、なぞなぞ好きな変なオッサン」なのだ。

こうしたスーパーパワーも何もない「知能犯」が事件を起こし、バットマンを追い詰め、社会の秘匿していた闇を暴露していくことが、超常的なものに頼らない「身近な思想犯」としての恐怖を掻き立て、本作をヒーローとヴィランの対決アクションではなく「思想と知性がぶつかり合うサスペンスやミステリーの側面=バットマンが他のヒーローものと違う最大の特徴」を浮き彫りにしてくれる。

もう一つは、彼は映像化、特に映画やドラマの登場数が少なく、「こういうキャラ」というイメージ像がない。私が知る限りだと彼が出たのはドラマが2作と映画が本作込みで2作。実はいずれも「テーマカラーが緑色で?マークをモチーフに取り入れている、痩せ型のインテリ男」以外の特徴が共通しておらず、実写的なイメージ像がなかなか作られてこなかった。

映画では、唯一あの「マスク」で世界に爆笑を巻き起こした名優ジム・キャリーが「全身?マークだらけの緑タイツに身を包みめっちゃハイテンションでふざけ倒すオッサン」として演じたのみだ。

ジム・キャリー演じる「バットマン フォーエバー」のリドラー。「リドラーは比較的一般人」という私の言説が揺らぐからやめてほしい。

そこで、20年以上の時を経て再び銀幕に現れるリドラーに、マット・リーヴス監督が与えた姿が、これだ。

ブカブカのコートにフルフェイスの皮マスク。ごめんなさいさっきの愉快なオッサンに戻してください。

まるで現実の凶悪犯のような、シンプルながらリアリティがあり、かつ猟奇性を感じる、全くおふざけも遊びもないキャラクター像。
この男が、被害者の遺体頭部に銀色のダクトテープをグルグル撒きにして、バットマン宛のなぞなぞ入りギフトカードを添える。それを特殊能力も無しに、淡々と、そして次々とだ。比較的一般人に近い立場ながら、メディア露出の少ない彼の特徴を活かしたこの大胆なイメチェンは、彼と彼が行う犯罪をより現実に近づける。

こうした「我々、そしてバットマンと近しい立場にある一般人的なヴィランが、一切つけいる余地の無い凶悪犯としてブラッシュアップされ、現実的な凶悪犯罪を繰り返す」ことの恐怖が、本作を「単なるヒーローアクション」から何段も上の緊迫感をもたらしているのも特徴だ。

「バットマンとは」を考えさせる脚本の命題

あなたがバットマンに興味を持った、あるいはどハマりした理由は何だろうか。
先にも少し書いたが、他のヒーローものと比べて、バットマンは「ヴィランが犯罪と密接に絡むため、愉快犯や暴徒よりも知能犯や思想犯、劇場型犯罪が多く、探偵モノミステリーの色を持つ」点と「バットマンが悪であるが故に悪を討ち滅ぼせるが、悪であるが故に新たな悪の誕生を招いてしまい、善悪という哲学的なテーマにスポットが当たりやすい」点、「ゴッサムシティと街に蔓延る悪の数々が、そのまま我々の社会風刺になっている」点が特徴だ。

こうした勧善懲悪のような一筋縄ではいかない、ディープなミステリー、サスペンスの色合いは他のヒーローものアクションには見られないし、実際バットマンも90年代までは他のヒーローもの同様、ヴィランの犯罪を追いかけてやっつけるアクションとドタバタ劇に焦点を当てていた。

この特徴が明確にバットマンの特色となったのは、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト3部作」からだが、もはや現在におけるバットマンの代名詞だ。

もちろん、本作でもその重厚なミステリーとサスペンスの色、そして善悪の狭間で苦悩するバットマンの哲学的なテーマは踏襲されている。

むしろ、今までの劇場版の中では最も深刻なテーマを抱えていると言ってもいい。リドラーが暴こうとしているゴッサムシティの闇、リドラー誕生の経緯、バットマンの過去…詳細は多く語れないが、リドラーの犯罪を追いかける中で、若きバットマンは己の信念の正当性を3度、最も深刻な形で問われる。
もちろんこの作品が初めての方も楽しめる部分だが、これは「自分の中のバットマンのイメージ」が確立された人だからこそ楽しめる最もディープな問題。ファンの方はじっくり腰を据えて、初めての方は他の作品を見たらもう一回、この問題に答えを見出してほしい。

締めくくり

いかがだっただろうか。
既存のヒーローものとは一味も二味も違う魅力に包まれるバットマンシリーズ。その中でも「THE」の冠しを掲げた今作は、私個人としてはまさに「THE BATMAN」という名にふさわしい、初心者から大ファンまで全員に「バットマンとはなにか」を教え、考えさせる作品になっていると思う。
是非、初めての方はここから一回、大ファンになれたらまたここに帰ってきて一回、本作を見てみてほしい。きっとあなたの中の「バットマンの何たるか」を結論付けるのに一役買ってくれる。


作品からちょっとはみ出して

ここからは、1960年代から続くバットマン映画シリーズの長大な歴史の中でも、個人的に特にイチオシの3作品を紹介する。
THE BATMANからバットマンシリーズを見始めた人、まだ見たことがない人は是非観てみてほしい。
なお、バットマン映画シリーズは、基本「連続したシリーズ」でないものは設定を共有しない。(例:「ティムバートン版バットマン」のジョーカーは事故によって誕生するが、「ダークナイト」のジョーカーは出自が明らかになっていない、等)
よってどこから見始めても良いので、「この順番で観なきゃ」みたいなのはないので安心してほしい。

ダークナイト

2000年以降のバットマンの方向性を決定づけた、クリストファー・ノーラン監督の傑作「ダークナイト三部作(トリロジー)」の第2作。
従来のヒーローものにはない、ノーラン監督得意の「善性、悪性の人間哲学」に焦点を当てながら、スマートで物腰柔らかながらシビアでハードな切れ者のブルース・ウェインが、ハイテク機器をフルに扱い、ダーティながらも人間の心理の芯を突いた犯罪を繰り広げるジョーカーを追うSFサスペンスの色が濃い作品。
THE BATMANと比べるとバットマンがかなりスマートで心理的にもタフ。青臭さが抜けた闇の騎士「ダークナイト」のダークヒーローとしての活躍ぶりがキレる。バットマンのより探偵もの、ミステリーやサスペンス要素にほれ込んだあなたに。

ティム・バートン版バットマン

ナイトメア・ビフォア・クリスマスでお馴染みのあの名監督、ティム・バートン全盛期の本気。子供向けだったアメリカのマンガ実写化映画のイメージを180度変えた、子供も大人も楽しめる作品。ガチの風景の作り込みや色彩は、まさに「漫画の実写化」の一言がふさわしい。ポップな画作りやジョーカーのどこかチープで笑えるがシャレにならない気味の悪い犯行は、まさに現実に現れたジョーカー。ちなみに演じるジャック・ニコルソンはあのシャイニングを撮った後なので本当に狂ってる可能性がある。
当時の撮影技法をフルに駆使したアクションシーンや、お得意の止め画式で表現されるバットモービルの変形シーンは必見。
アメコミヒーローものやアクションが好きな、原作コミックスの雰囲気を忠実に味わいたいあなたへ。

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

DCコミックスの二大ヒーロー、夢の対決。MARVELのアベンジャーズシリーズと同様、DCコミックス内のヒーローが世界観の枠を超えて共演。
そしてなんと、あの誰もが知る「ヒーロー」の代名詞「スーパーマン」が悪役=バットマンの敵として立ちはだかる。
善を成すために多くの人々に犠牲を強いたスーパーマンと、悪を滅ぼすためなら自ら悪に落ちるバットマン。凶悪な災害と化した正義の味方に、人類の希望となった闇の騎士が戦いを挑む、ヒーロー動詞の主義の殴り合い。
前作「マン・オブ・スティール」はスーパーマン単独のヒーロー映画として描かれており、本作とは主に冒頭の部分でのみかかわるので、未見でも十分楽しめる。
自分の中の「ヒーローの何たるか」を問い詰めたい、生粋の考察厨のあなたへ。

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