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身代わり狸物語

 〇 あらすじ

 四年生の太郎は、学校から帰る近道の川沿いの小さな農道で、一級上級生の意地悪三人組が、死にかけた尻尾の付け根に白い模様のある狸を橋の上から大川に流そうとしているのに遭遇しました。

「やめろよ! まだ生きているのでかわいそうだよ!」と太郎必死になって止め、お父さんに頼んで狸を助けてもらい、隣りの六年生の敦子ちゃんの家の鶏小屋で飼うことになりました。

 太郎は、この三人組が、緊張すると少しどもる弟の次郎(二年生)をからかったり、女の子をいじめたりしていても、これまでは、「やめろよ!」と強く言えなかったが、かわいそうな狸を助けたことで自信がついたのか、その後は、この意地悪三人組とも同等に話せるようになりました。

 助けた狸を一か月余り買っておりましたが、野生の動物をいつまでも飼っておくわけにもゆかないので、お父さんが、建設会社の応援に上京する機会に自然に帰しました。

 クリスマスイブに、お母さんと太郎と次郎と三郎(四歳)の四人が、スーパーに買い物に行った帰りの、川沿いの小道の溝の中に、お腹をすかしている、太郎達の飼っていた、尻尾の付け根の白い模様のある親狸に出会いました。三郎が三個しか買えなかったメロンパンの一個をこの狸に与えたため、クリスマスイブは、メロンパン二個のわびしいものになりましたが、一本のローソクに照らし出された四人の顔にはしあわせに満ち満ちた明るい笑顔が浮かんでいました。

 大晦日の午前三時ごろ、太郎の自宅前の国道で、お父さんの助けた尻尾の付け根の白い狸が、交通事故に遭い死んでしまいました。この時間帯と全く同じ時間帯に、東京に出稼ぎに行っているお父さんが、風邪で体調を壊して宿舎に帰る途中の国道で、大型トラックの交通事故に遭い、救急車で病院に担ぎ込まれました。

 お母さんが看病のため、上京する飛行機内の夢の中に、何度も白衣姿のお大師さんが出てきたり、五年前に病死したお母さんの父親が、お四国参りに連れて行ってくれた子供の頃のことが思い出されてきました。その夢の中で「お父さんを助けてもらったら、子供たちを連れて、必ずお礼参りをいたします」とお母さんは一心に祈っておりました。

 また、運転手さんの話で、いきなりトラックの前に、黒いものが飛び出したことやお父さんが高熱でうなされていた時、尻尾の付け根の白い狸の親子が何度も出てきたり、お母さんが、上京する飛行機内で見た夢と同じ内容に、お父さんも遭遇したことなどを考え合わせると不思議でなりませんでした。

 そこで、お母さんは、お父さんの健康が快復したら、子供たちを連れて、必ず、四国八十八か所参りをしたいと、改めて誓いを立てました。




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