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母の教え№20  嫁と姑たちの戦い(2)  2 火 事


 ある日、この上に妹を激怒させる事件が起こってしまった。
その日の朝早く、『二人とも風邪を拗らしてしんどいから、今日は、子供の世話ができんので頼む……』と4歳の次兄と1歳の私を小姑が連れてきた。
 『長兄は、学校から帰ったら母屋に来るように言ってある』ということであった。

 昼を過ぎたころ、集落内の火災を知らせる半鐘が鳴り響いた。実妹が飛び出して確認すると、姑が住んでいる家から、少し川下の朝鮮人(朝鮮半島から帰化した人)の一軒家が燃えているということであった。しかし、姑の家までは、山を隔てていたので安心していた。
 ところが、それから暫く経った時、火の手が山に燃え移り、姑の家の近くまで来ていると近所の人が知らせにきた。

 『今日は、姑たちが風邪を拗らして寝付いているので、何とか助けて欲しい!』と母が寝床の中から近所の人に懇願し、駆けつけてもらったそうだ。
 実妹も慌てて駆けつけてみると、家には板戸が閉めてあり、鍵が掛かっていたとか……。ドンドンと戸を叩いても、誰も出てこないので、皆が心配して、鍵をこじ開けて入ってみるともぬけの空だった。風邪を拗らしていたということなので、なお一層、皆が心配して、近くの医院とか、隣村の病院等に問い合わせするなど大騒動になってしまった。

 お陰で火事は、姑の家の近くまで来たところで消しとめられたので一安心したが、姑達の行方が分からないものだから、近所の人達や地域の消防の人までもが心配してくれた。
 ところが、夕方近くになって、姑達が……、
 『皆が騒いでいるが、なんどあったんじゃろか?』と言って、ヒョコヒョコと歩いて帰ってきた。聞くところによると、姑の長女の嫁ぎ先の田植え休み(田植えが一段落した時に、ご馳走を作って祝う)に招待されて、出かけていたそうだ。
 『母屋に風邪をひいたなどと嘘をつかず、それならそうと正直に言ってもらってさえおれば、大騒ぎせずに済んだのに……』と実妹が怒り出したが、母の手前我慢するしかなかった。近所の人や消防の人たちには、母に代わって実妹が謝罪して回ったが……、
 その後は、『気難しい人たちで、大変ですね』と今まで以上に、皆が同情してくれた。
 『何よりも良かったのは、この事件以来、姑達が隣近所に来て母の悪口を言っても、話し半分に聞いてもらうようになったことだった』と母が笑いながら話してくれた。
 また、『いくら実妹であっても、いちいち姑達の悪口を話す訳にはいかなかったが、看病に来て、直接、姑達の難しい面に触れてくれて、少しの理解者が増えたと思うと随分と気休めになった』と言っていた。
 しかし、母は、『両親には、心配するだけだから、私が苦労していることを言わないでくれ!』と実妹に念を押すのを忘れなかった。 

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