【スタートアップ】ユニコーン3社育成、ルクセンブルクの異色アクセラレーター、日本企業も入居表明

スタートアップや起業家の活動をサポートし、その成長や規模拡大を促す人材や会社、団体がアクセラレーターといわれる業種。文字通り、スタートアップの成長を加速させる重要な存在だ。そうした中でも、ルクセンブルクにあるTomorrow Street(トゥモローストリート)は異色の“スケールアップアクセラレーター”。携帯電話大手の英ボーダフォンとルクセンブルク政府が共同で立ち上げ、グローバルに事業を展開する。すでに英米のユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未公開企業)3社の育成にかかわった実績を持つという。

ボーダフォンと政府が共同で

2017年にインキュベーションセンターとして設立されたTomorrow Streetは、ボーダフォンの調達担当子会社Vodafone Procurement Company(VPC)のビル内にある。ルクセンブルク中心部から、ICT Spring 2022の会場となるLuxExpo The Box行きのトラム(乗車無料)に乗って30分ほど。VPCはボーダフォンのサプライチェーンを支える重要なグループ会社で、ルクセンブルクらしく62カ国出身の850人が働いているという。

TomorrowStreetの説明をするClaudia Machadoさん(左)とMarisa Rodriguesさん(右)

Tomorrow StreetのClaudia MachadoさんとMarisa Rodriguesさんの説明によれば、同社の社員は12人。ロンドンとサンフランシスコにもスタッフが駐在する。レイトステージ(後期段階)にあり、かつさらなる成長が期待できる有望スタートアップのスケールアップ支援に特化し、アクセンチュアなどのキーパートナーと協力して有料でコーチングを提供する。

事業活動を通しての狙いは二つ。外国企業を含め急成長が期待できるテック企業の人材をルクセンブルクに呼び込むこと、そしてボーダフォン自体のデジタル変革(DX)や新しい顧客ソリューションの創出につながる次世代技術を発掘することだ。そのため、同社の門を叩けばどんな起業家でも受け入れてくれるわけではない。Tomorrow Street自ら有望企業のスカウティング(発掘)を行うほか、スタートアップや起業家に対しては大きく成長する余地があるかバリデーション(検証確認)を徹底する。

そうした過程を経て、ユニコーンという一定の成功レベルに達した事例として、米Sitetracker(サイトトラッカー)、米Security Scorecard(セキュリティ・スコアカード)、英Quantexa(クオンテクサ)というIT関連3社の名前を挙げた。

一方、Tomorrow Streetを通じ、ボーダフォンが求める事業領域は、人工知能(AI)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、オートメーション、サイバーセキュリティー、さらにデジタル分野でゲームチェンジにつながる技術やビジネスモデルなど。ハードウェアは対象外なのか質問すると、先進的でスケーラブル(拡張可能)な技術であれば採択されるかもしれない、ということだった。

日本のoViceも関心

今回はルクセンブルク貿易投資事務所のご厚意により、6月30~7月1日開催のスタートアップイベントICT Spring 2022に参加する皆さんとグループで訪問した。その中で、Tomorrow Streetのプレゼンテーションに強い興味を示し、即座にプログラムに参加したい意向を申し出た起業家がいる。バーチャルオフィスやイベント向け仮想空間を手がけるoVice(オヴィス、石川県七尾市)のジョン・セーヒョンCEOだ。

セーヒョンCEOにその理由を直接聞いてみると、「欧州には(創業間もないスタートアップを支援する)シードアクセラレーターは多いが、シリーズAやシリーズB以降の、ある程度成長したレイトステージのスタートアップに対応する優れたアクセラレーターが少ない」。こう不満に感じていたのだという。

oViceはシリーズAの資金調達ラウンドで約20億円を調達し、7月にはシリーズBのクローズも予定。ユニコーンへの規模拡大を目指すとともに、ちょうど欧州への拠点進出を検討している最中でもある。そんなセーヒョンCEOの目には、Tomorrow Streetの支援プログラムが頼もしく映ったようだ。

Tomorrow Streetは特に英国、米国、イスラエル、韓国とスタートアップ育成に向けたエコシステムづくりで協力しているが、日本とはまだこれから。oViceの入居が決まれば、日本企業としてTomorrow Streetのプログラムに参加する初のケースとなり、エコシステムの交流という意味でも弾みがつくかもしれない。

10月にはArch Summit開催

実はTomorrow Streetはイノベーションにつながる次世代技術の発掘や事業交流を目的に、スタートアップカンファレンスも開催している。コロナ禍の影響で3年ぶりとなる今年の「Arch Summit(アーチサミット)2022」は10月26~27日に、前出のLuxExpo The Boxで開かれる予定だ。

70カ国から100社以上のスタートアップの出展と、5000人以上の来場者を見込んでいる。世界の先進的なスタートアップや、欧州およびルクセンブルクのスタートアップエコシステムに関心のある皆さんには、ぜひ参加をお勧めしたい。

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