ispace、月面プロジェクト支える欧州拠点

日本を代表する宇宙スタートアップ企業のispace(アイスペース、東京都中央区)。月面資源開発をミッションに掲げ、日本と米国(コロラド州デンバー)、欧州(ルクセンブルク)の世界3拠点でグローバルに事業活動を進める。うち欧州子会社のispace EUROPEは5年前の2017年3月に開設され、日本側を補完するミッションコントロールルーム(管制室)を持つほか、小型月面探査車(マイクロローバー)の開発まで担うという。

ルクセンブルク駅から南西方向に歩いてわずか10分ちょっと。ispace EUROPEのオフィスがインキュベーション施設のPaul Wurth InCubの建物内にあった。今年5月2日にはルクセンブルク皇太子らが出席し、開設5周年の記念式典が開催されたばかりで、そもそも同社がルクセンブルク政府と覚書を交わした2017年当初は、宇宙資源開発で外国政府と日本企業が連携する初のケースだったという。

ispaceが全世界で170人以上の人員を抱える中、欧州拠点では25人以上が在籍。その3分の2が宇宙ロボット工学やデータ解析、宇宙資源利用などの研究者を含むエンジニアや専門家だ。

月面そっくりの実験施設

驚いたのは、ここに月面を模した砂一面の実験スペースがオフィス開設当初から設置されていること。実験の際には光源を一つしか使わず、かなり暗い。この風景だけ切り取れば、ほとんどの人が月面の写真? と思うかもしれない。

この「ルナヤード(lunar yard)」と呼ばれる実験場では、月面ローバーのナビゲーション技術の開発支援や走行実験が実施されている。当日、「月面」を走行していたのは大型と小型のローバー計2台。それらに対し、タブレット画面からローバーに対する前進や回転といった移動指示を行うと、実験室に設置されたモーションキャプチャーカメラで実際のローバーの移動量を追跡。月面をシミュレーションした環境で、ナビゲーションの訓練や正確性の確認作業などが行える。

月面を模したispace EUROPEの実験施設

説明によれば、月面ローバーの上部に搭載されたステレオカメラを使ってのローバー周囲の立体マップの作成や、本体前後のアンテナによる地下探査の機能も開発しているという。後者では、月の土壌に存在する水分や極地の氷を探り当て、推進燃料の「資源マップ」の作成に役立てる。水や氷を月面から掘り出して使えれば、わざわざ地球から燃料を運ぶ手間とコストが省ける。火星などほかの惑星を目指す探査ミッションで、月を燃料供給基地にできる可能性があるためだ。

こうした自前のルナヤードは日本側にもあるものの、欧州拠点のほうが規模が大きいという。もっともispace本社では宇宙航空研究開発機構(JAXA)と契約し、JAXAの持つ広大な実験施設を使えるようにもなっているそうだ。

「月市場」利用へ 国際協力の基盤に

ispaceによる最初の月面着陸ミッションである、月着陸船(ランダー)の打ち上げがいよいよ年内に迫っている。そのM1ミッションに向けては、仏アリアングループの施設におけるランダーの組み立て・試験ステージがこのほど完了。米フロリダ州から米スペースXの「ファルコン9」ロケットで年末ごろにランダーを打ち上げ、月面に軟着陸させる予定だ。

続く2024年のM2ミッションでは、欧州拠点の開発によるマイクロローバーを搭載したランダーを打ち上げ、ローバーでの月面走行とデータ収集を実行に移す計画という。

月はこれまで、遠くから眺めるもの、あるいはせいぜい観測するものだった。それが近い将来、月面での商用物資輸送サービスやデータ提供、そして資源探査といった「月市場」へと変貌を遂げていくのかもしれない。

そこで留意すべきことは、少数の国や機関による市場独占ではなく、平和的な国際協力の枠組みの構築だろう。ispaceの進める民間ベースでの欧州や米国との協力体制が、月市場活用に向けた基盤の一つとなるよう期待したい。


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