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米国で開発進む人型ロボット、工場・倉庫での利用想定、生成AIや車メーカーとの連携も

米国や中国の民間企業による人型ロボット (ヒューマノイド) の商用開発に拍車がかかっている。人工知能 (AI) および制御技術の向上と、インフレに伴う労務コストの上昇や人手不足が背景にあり、工場や物流倉庫などへの導入が想定されている。5月に米ボストンで開催されたロボット展でも人型ロボットが出展され、すでにアマゾンや自動車メーカーと開発企業との間で連携も始まった。単なるブームで終わるのか、それとも生成AIに次ぐゲームチェンジャーとなるのかどうか。

「これからの時代、ロボットは人間の普通の生活の一部になっていく。そこで我々としては人間の空間に存在し、人間が行うワークフローを実行し、私たちと一緒に働き、対話できる人間中心のロボットを作ろうとしている」。

基調講演を行うAgility Robotics 最高ロボット責任者のJonathan Hurst氏

ボストンで5月1日と2日に開かれたRobotics Summit & Expoの基調講演でこう述べたのは、米Agility Robotics (オレゴン州) 最高ロボット責任者 Chief Robot OfficerのJonathan Hurst氏。オレゴン州立大学の教授時代にロボット研究所を立ち上げ、2015年にAgilityを共同創業した。

現在では人型ロボットの「Digit (ディジット) 」などを開発。Digitはロボットが棚まで歩いて行って部品や商品の入ったコンテナを両手で掴んで持ち上げ、別の所定の場所まで運んで行ってコンテナを下ろすことが可能だ。すでに物流企業やAmazonが配送センターの倉庫にDigitを導入し実証実験を進めているほか、Amazon自体もAgilityへの出資を行なった。

これについて、Amazonの物流ロボットシステムを開発・製造する米Amazon Robotics (マサチューセッツ州) のチーフ・テクノロジスト Chief Technologist、Tye Brady氏も基調講演で「ヒューマノイドが興味深いのは、異なる領域にも歩いて行けること。実際のフルフィルメントセンターでの運用開始までに検討すべき点はまだあり、現在はインキュベーション (事業の創出・育成支援) の段階だ。だがAgilityは素晴らしい仕事をしているし、我々は他のメーカーとも定期的に試験運用を行う」と話し、人型ロボットの進展に期待を示した。

Amazon Robotics チーフ・テクノロジストのTye Brady氏

ではなぜ安定度が高く移動に適した四足歩行ではなく、二足歩行によるヒューマノイドなのか。それについてHurst氏は「高いところに手を伸ばし、人が行くところにロボットが行くようにするためには小さな設置面積が必要」と説明する。人間中心のロボットを作り出すには、人が行う複雑でさまざまな動作をロボットが再現しなければならない。人と同じ空間で作業し、障害物を避けながら階段も含めて自由に移動できるようになっている。

こうした機能を実現させたのが、周囲の状況を把握するさまざまな種類のセンサーや、外力を受けても倒れずにバランスを保ちつつながら作業できるリアルタイム制御技術の進展だ。Agilityは2023年9月、オレゴン州に年間1万台以上の生産能力を持つ世界初のヒューマノイド工場「RoboFab」も開設した。さらに搬送だけでなく、ロボットハンドの先端に取り付ける複数種類のツールも用意し、人が行う組み立て作業の代替にも取り組む。

そこでHurst氏にDigitで日本市場に参入する意向があるか直接聞いてみたところ、「ソニー (イノベーションファンド) から出資を受けており、日本市場には大きな関心がある」としたものの、「円安もあり北米などに比べて日本での労務費がかなり低いため、進出のメリットが想定しにくい」との返事が返ってきた。従来型の産業用ロボットの普及の進む日本では、労務費がよほど高くなるか、人型ロボットのコストが劇的に下がらない限り、工場や倉庫への導入は難しいかもしれない。

電気駆動機構を採用したBoston Dynamicsの新型Altas

かたや人型ロボットで先行する米Boston Dynamics (マサチューセッツ州) では4月半ばにネットで公開した動画が大きな話題を呼んだ。「さようならHDアトラス (Fairwell to HD Atlas) 」と題したビデオでは、まるで人間のように不整地走行やジャンプをこなし、宙返り、ダンスまで披露する人型ロボット「Atlas」の過去10年以上の道のりを、走行中に足を踏み外たり、着地をしくじって倒れたりする失敗シーンも交えて公開。

日本でも販売されている四足歩行ロボットの「Spot (スポット)」とは異なり、いくらバック転ができてもそれ単体では事業化が難しい。「ついに撤退か」と思われたところ、油圧駆動 (HD) モデルの引退という話。翌日には、見た目だけでなくモーターによる電動式と駆動機構も一新した「新型Altas」の動画をアップした。

同社のRobert Playter CEOは米国電気電子学会 (IEEE) のIEEE Spectrum誌のインタビューに対し、新しい小型アクチュエーターを開発するなどして、油圧式に比べ非常に大きなパワーと俊敏性を備えた機構を小型軽量なパッケージに詰め込むことができたという。確かに油圧に比べて電動式の方が滑らかに動き、精密な位置制御もしやすい。さらにPlayter CEOは「早ければ2025年にも親会社である韓国・現代自動車グループの工場での技術テストの証明を目標にしている」ことも明らかにした。

同様の取り組みを進めるのが電気自動車 (EV) 大手の米Tesla。家庭や工場など向けに「Optimus (オプティマス)」を開発中で、2023年に第1世代を発表。今年5月には第3世代を発表し、オフィスを歩き回ったり、円筒型のEV電池を棚からつまんでコンテナにきっちり詰めたりする動画を公開した。

完全自律で工場での作業を行うTeslaの第3世代Optimus (同社が公開した動画より)

Elon Musk CEOは4月の投資家向け会議で「年内に工場での作業が可能になり、2025年末までに外部販売できるかもしれない」と話しているが、中には「Musk氏の予言に対して自動運転の実現時期がどんどん後ろ倒しになったように、ヒューマノイドの実用化もまだしばらくかかるのでは」(カナダのAIロボットメーカーCEO) といった冷ややかな見方もある。

このほか、「Chat GPT」で知られる米Open AIもスタートアップの米Figure AIや、ノルウェーと米国に本社を置く1X Technologiesに出資済み。フィギュアは公開動画で、生成AIの活用により、人型ロボットが人と流ちょうに対話しながら求めに応じてリンゴを手渡したり、食器を片付けたりする様子を見せた。またMusk氏が設立したAI企業xAIの開発した生成AIの「Grok (グロック)」もいずれTesla車やOptimusへの搭載が予想されている。

先のAgility RoboticsのHurst氏も、人間を介さず、生成AIを支える大規模言語モデル (LLM) がロボットのAPIに直接プログラミングして動かすデモを紹介した。床に散らばったゴミやプラスチック、紙などについてディジットがそれらを識別し、人間の文脈の中で何を意味し、どう行動すべきか特定。自分で計画を立て自律的に収集・分別を実行したという。

Hurst氏は「物理的な知性 (Physical Intelligence) と意味的な知性 (Semantic Intelligence) との融合は非常にエキサイティングだ」と話し、人型ロボットと生成AIとの融合に期待を示した。

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