【東京ゲームショウ2022】 VRとメタバースはリアル世界を侵食するか

「東京ゲームショウ2022(TGS2022)」が9月15日から18日まで、千葉市美浜区の幕張メッセで開催された。3年ぶりのリアル開催で、コロナ禍でのバーチャル開催から、展示会自体がリアルの世界に帰ってきた格好だ(今回もTGR VR 2022というVR展示会を開催)。会場では各社のゲーム最新作がお披露目される中、ゴーグル型のヘッドセットを使ったVR(仮想現実)ゲームやメタバース(仮想空間)の展示も海外勢中心に目についた。

東京ゲームショウ2022でのPicoのブース

中国Picoと米Meta(旧Facebook)というVRヘッドセット大手のブースには、VRゲームを体験しようと長蛇の列ができていた。Metaではリズムゲームやスポーツ、アクション、RPG(ロールプレイングゲーム)、シューティングなど7種類のゲームを用意し、同社の「Meta Quest 2」を装着して楽しむことができる。

Meta Quest 2は2020年10月の発売。59,400円(消費税込み)からと比較的手頃な価格で、ゲームをはじめエンターテインメント、フィットネス、学習など幅広い分野で人気が高い。出荷台数は公表していないものの、2022年2月の時点でオンラインのMeta Questストアでの売上高が10億ドルを突破したという。

同社の担当者に聞いたところ、「パソコンやゲーム機がなくともこれ1台、オールインワンでVRゲームが楽しめる手軽さが受けている。価格に対してスペックも高く、VR市場を牽引しているデバイスと認識している」。こう自信を示す。

初出展となったMeta Questのブースも大賑わい

VRゲームで日本から世界へ

メタのブースで体験できるVRゲーム7タイトルのうち、マルチプレイ剣戟アクションゲーム「ALTAIR BREAKER(アルタイルブレイカー)」とマルチプレイタクティカルシューティング「X8(エックスエイト)」の2作品を提供するのがThirdverse(サードバース)。東京都千代田区に本社を置く、れっきとした日本の会社だ。ALTAIR BREAKERは今年8月に発売し、X8は今年冬にリリース予定という。

同社の前身である株式会社よむネコは、「ソード・オブ・ガルガンチュア」などで知られるVRゲームの開発会社。2015年にゲーム会社GumiのXR投資部門から出資を受けたあと、株式譲渡を経てスピンオフ。自宅や職場・学校ではない、自分の心が落ち着く「第3の居場所」をバーチャル空間に創造し続けていこうという信念のもと、2020年6月に現社名のThirdverseに変更した。

「X8」のキャラクター役の方がポーズをきめてくれた

「PlayStationなど人気のゲーム機はどれも世界市場での出荷台数が1億台程度にまで伸びている。それに対して、VRヘッドセットはMeta Quest 2とPicoの合計で現在約4000万台。これに加え、来春にはPlayStation VR2が発売されるほか、VRやAR(拡張現実)も含めたXRの分野ではアップルや中国・テンセントもデバイスを発表する。そうなるとヘッドセットでもゲーム機とほぼ同じ1億台という規模が見えてくる。VRゲームでは海外が先行するが、ゲーム大国でもある日本にもまだまだチャンスがある」

Thirdverseの取締役CBO(最高ビジネス責任者)でサンフランシスコの米スタジオ子会社の代表も兼務する大野木勝氏はこう話し、拡大する世界のVR/XRゲーム市場に果敢に挑む構え。前出の「X8」は来春までにグローバル市場でのローンチを予定しているという。

スイス発、音楽を制作・演奏・共有できる「ミュージックバース」

TGS2022にはゲーム以外のVRも出展されていた。2020年に設立されたスイスのスタートアップ、パッチXR(PatchXR、チューリヒ)は、「PatchWorld(パッチワールド)」を日本で初めて披露した。オリジナルのデジタル音楽や楽器、アバターを含めたビジュアルアートを自由に作成し、それらをMeta Quest 2に対応したメタバース内で演奏したり、ほかの参加者とセッションしたりできる。

PatchWorldを使い、アバターがオリジナル楽器をメタバースで演奏するシーン(PatchXR提供)

Kokiの名前で東京を拠点に活動するDJ・音楽制作プロデューサーの杉山功樹氏は、こんなPatchWorldに惚れ込み、日本での普及を買って出た人物。電子音楽とデジタルアートによるライブコンサートなどを行うMUTEK.JPのメンバーでもあり、その活動を通してPatchXRと出会った。代理店としてではなく、PatchWorldについてのウェブサイトとソフトウェアまわりの日本語化、それにコミュニティーづくりなどをサポートする。

「PatchWorldは、仮想空間に没入した形でインタラクティブに音楽を制作できる最先端ツール。音楽をやっている人だけでなく、音楽に関心のある人や子どもさんも含め、音楽を作る新たな入り口になれば」と杉山氏。MUTEK.JPで教育プログラムも担当することから、「PatchWorldを使ってXRコンテンツのワークショップも展開していきたい」と今後を見据える。

PatchWorldのメタバースでMUTEK.JPによるライブパフォーマンスやジャムセッションが行われる日も、そう遠くないかもしれない。

PatchWorldについての日刊工業新聞の記事

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