コンサドーレ札幌対清水エスパルス_1

札幌対清水 レポート ~札幌の清水を破壊した2種類の攻撃戦術&プレッシング~ [2019J1リーグ 第3節]

どうも、J1第3節です。今回は札幌対清水の試合を取り上げます。札幌が組織的な守備で昨シーズン好成績を残した清水からA・ロペスの衝撃の4ゴールの大活躍(そして衝撃のジャンプしてサポータのところに行こうとしたら高すぎて大落下した件)も含めて5点を奪って5-2と大勝した試合です。攻撃の印象が強いペトロヴィッチ監督ですが、この試合では、守備でも戦術的柔軟性が高いところを見せていました。ではその札幌の戦術を中心に、試合を見ていきましょう。

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ゴール コンサドーレ札幌 5:2 清水エスパルス

コンサドーレ札幌 19分鈴木 45+2分A・ロペス 49分A・ロペス  65分A・ロペス 69分A・ロペス

清水エスパルス 36分松原 83分滝

スターティングメンバー

札幌は、前節の浦和戦で2ゴールを挙げた鈴木が先発。僕がフルで見た開幕戦では早坂がスタメンで出ていましたが、今シーズン新加入のL・フェルナンデスが先発です。そしてシステムはいつもどおりの3-4-2-1。清水は、ここまでの2節は5-3-2でプレーしていましたが、昨シーズンからのベースである4-4-2を採用。川崎から新加入のエウシ―ニョが右SHとして清水加入後リーグ戦初出場。

札幌・攻撃 清水・守備

まずは札幌の攻撃、清水の守備からです。

こちらがマッチアップの図です。札幌はWB(菅、L・フェルナンデス)が上がって幅を取ります。清水の4バック(松原、ファン・ソッコ、立田、飯田)に対して5対4の数的優位ができていることについては後に触れますのでここでは置いておきます。ではまず、札幌の2種類の攻撃戦術、ビルドアップの形について見ていきます。最初に清水が4-4-2から形を変えず、2トップでプレッシングをかけてきた場合にどう札幌は清水のプレッシングを交わしていくのか。それが下の図です。

このように、相手が2トップのままで来るなら、システムは変えず、シンプルに相手2トップ脇を使ってCBが持ち運ぶか、フリーの1人からボランチにパスを通してプレッシングを突破。相手が形を変えなければ、3-4-2-1のままでプレーします。では、相手が形を変えて、プレッシングでハメてこようとした時のそのプレッシングを交わす方法がこちら。

1枚目の図のように、清水が片方のSHが(図では金子)出て、3対3でプレッシングしてきた時には、2枚目の図のように、ボランチの片方(図では深井)がDFラインに下りて、左右のCB(福森、進藤)はサイドに開く。こうしてDFラインの枚数を4枚にして4-1-5に可変し、相手の3トップに対して4対3の数的優位を獲得。こうすることで、1人フリーを作り出します。

では、次に4バックに可変して、どう相手のプレッシングを交わすのか、について見ていきますが、これにはいくつか種類があります。まず1種目。

このように、1人のフリーを使って、ボールを納めることができるA・ロペス、鈴木に長いレンジのくさびを打ち込みます。そのパスが通れば、一気にライン間から相手の2CB(立田、ファン・ソッコ)に対して2対3(チャナティップ、鈴木、A・ロペス)の数的優位で攻撃できます。また、鈴木、A・ロペスの2人だけでなく、大外にポジショニングしているWB(菅、L・フェルナンデス)や、チャナティップにパスを入れるシーンもありました。では2種目。

このように、フリーの選手が持ち運んで第一プレッシャーラインを突破する、というとてもシンプルなものです。最後に3種目です。

上図のように、シャドーのチャナティップが下りて来て、相手がマンツーマンをつけていないのでフリーマンとなってパスを受けることでプレッシングを突破する、というパターンです。また、

この図のように、2ボランチ(荒野、深井)の2人共がDFラインに下りて、左CB福森がライン間まで入っていって、中盤完全に空洞にしちゃえっ!っていうこともやっていました。これから分かることは、「この選手は絶対ここにいる」というように選手のポジションを固定せず、それぞれの選手が様々なポジションのタスクを理解しているので、いるべきポジションにちゃんと人がいればそのポジションにいる人は誰でも良いよ、という感じでして、「ポジション」ではなく、「タスク」という考え方で攻撃戦術を構築している、ということです。それは、福森がライン間に入っていくシーンだけでなく、ボランチの荒野がゴール前に進入していくシーンからも分かります。

札幌の中盤で持つ時間を「減らす」珍しいポゼッションサッカー

ではここで、先に紹介した、札幌の可変した状態の図をもう一度ご覧ください。

このように、ボランチの片方が下りて、4-1-5に可変している図ですが、システムの数字を見るだけで一発で分かりますが、中盤は「1」人しかいません。なので、中盤でボールを奪われると、中盤が空洞状態になりますので、簡単にカウンターでボールを運ばれ、DFラインが対応しなくてはならなくなります。なので、この4-1-5システムでプレーするうえで、中盤でボールを長い時間保持することはとても危険なことだ、ということです。では、札幌はどのようにしてこのリスクを回避しているのでしょうか。

それは、「中盤にボールがある時間をできるだけ短くする」ことです。必ず相手の第一プレッシャーラインに対してDFラインは数的優位を獲得しているので、経由したりすることはありますが、中盤で長くボールを保持する必要なく相手のプレッシングを交わすことができています。そして、相手のプレッシングを突破すると、早いタイミングでライン間、サイドのアタッカーにパスを送り届けます。こうすることで、中盤にボールがある時間を最低限に留めることができていて、中盤でロストしてカウンターを受ける、というシチュエーションを避けていました。ですが、中盤でのボール保持を避けて高い位置(ゾーン3)にボールを運んだとはいえ、ボールを奪われた後は、M・シティ、マリノスがやっているような「偽SB」のコンセプトなどで中盤に人を配置しておくことしておらず、依然中盤に1人しかいない状況ですので、ネガティブトランジション(守→攻の切り替え)で弱みはあるのですが。ですがここまで書いたように、中盤でボールをロストし、中盤に大きなスペースがある状況でカウンターを受ける、という事態が起こる確率を抑えようとする工夫はされています。札幌のようにポゼッションの時間を長くすることで攻撃サッカーを演じるチームのほとんどの場合、一番重要なのは「中盤」です。中盤で技術の高い選手がゲームをコントロールし、ポゼッションし、チャンスを作り出すのです。しかし、札幌は、あえて中盤の人数を減らして、ポゼッションサッカーをしています。これが「ミシャ式」と言われる理由でしょう。

一方の清水の方は、序盤、プレッシングに行くのですが、全体が連動していなかったりして、上手くいっていませんでした。しかし、前半のうちに追いついてからは、全体の連動ができた組織的なプレッシングができていました。ですが、札幌の2種類の攻撃のシステムには勝てなかった、という感じです。

札幌・守備 清水・攻撃

では札幌の守備、清水の攻撃に移りましょう。

マッチアップは上図のようになっています。しかし、札幌は守備でも、可変システムを用いていました。その可変システムを用いたプレッシングがこちら。

はい。この図のように、攻撃時右シャドー、守備時セオリーなら右SHを務めるA・ロペスが中央に絞り、鈴木と2トップを形成。そして、攻撃時左シャドー、守備時セオリーなら左SHのチャナティップが、一列下がり、中盤に加わります。そして、右ボランチを務める荒野が一列上がり、チャナティップと荒野が2トップ下になり、5-4-1から、5-1-2-2(5-3-2)に可変していました。では、この可変システムでのマッチアップはこちら。

上図のように、相手の2CB、2ボランチにはがっつりはめ込んでいるので、清水が中央でパスをつなぐ、ボールを保持するのは楽ではありません。しかし、中央はマンツーマンでハメている代わりに、サイドでは、WBが1対2の数的不利を抱えることになっています。なので、中央でのビルドアップに対しては有利ですが、サイドから攻撃されると、数的不利ですので、ピンチに陥る可能性があります。では、札幌はどうそのサイドでの数的不利を解消していたのでしょうか。

(図に相手右SHと書いていますが、左SHです。)

まず1つ目。ボールを持つ相手SBに対して右WBが出て、フリーになる相手左SHは、右CBがマークすることで、数的不利を解消していました。このように、CBが1枚サイドの選手に対応しても、中央に2枚CBが残っている、というのは、5バックの強みです。

次に2つ目。こちらはシンプルにA・ロペスが下がって右SHとなって対応する、です。

このようにして、サイドから攻撃されても臨機応変に対応し、チャンスをあまり作らせませんでした。しかし、札幌は後半、前半と違うシステムの、プレッシング戦術を見せました。

このように、ベース通りの5-4-1で守備をするようになります。

ですが、SHのチャナティップ、A・ロペスは低い位置まで戻って守備をせず、前線に攻め残ります。なので、CFの鈴木と合わせて3人が前線に攻め残っていることになります。相手にカウンターの脅威を与える事ができますが、結局後半も、サイドで1対2の数的不利を抱えることになります。では、後半はどうサイドの数的不利を解消していたのでしょうか。

はい、こちらは1種類目です。こちらは前半の5-1-2-2と同じように、右WBが相手SBに出て、左右のCBが相手SHを掴みます。

続いて2種類目。ボランチの片方がスライドして対応します。しかし、ボランチのポジションからサイドの出て行くのは距離がありますので、強くプレッシャーをかけることはできません。ですから、牽制程度のものです。前半の途中ではなく、後半の頭から2種類目の戦術を見せたことで、前半の守備戦術に対する対応策を恐らく清水はハーフタイムに練っていたと思いますが、それを裏切る、という大きな意味があります。

では、前半の攻撃についてはほとんど書いていませんが、後半は清水の攻撃の視点からも見ていきましょう。

先ほども書いたように、清水は、札幌のSHが下がらないことでサイドで2対1の数的優位を得ているわけです。しかし、

上図のように、清水はビハインドを背負っていて、焦りもあったとは思いますが、中央から突っ込んでいくシーンが多かったです。なので、サイドの数的優位を生かした攻撃はできませんでした。また、上図には続きがありまして、中央から、無理して強引に突っ込んでいき、

はい、結末は上図の通りです。待ち構えているように札幌がボールを奪い、攻め残っているA・ロペスに長いパスを入れて、一気にA・ロペスのフィジカル、突破力を中心に強烈なロングカウンターを繰り出します。実際に、何点目だったかは思い出せませんが、実際にこの2枚の図と同じく清水が中央から突っ込んで行ったところを宮澤が奪って、一発でA・ロペスに長いパスを通し、A・ロペスがハーフウェーライン付近から1人で独走してシュートを決めてしまう、というゴールがありました。清水は、そりゃビハインドですんで焦るのは分かりますが、2-5になっても最後まで攻める姿勢を貫いていましたので、それだけにもっと冷静に攻める事ができていれば、もっとチャンスを作れたと思います。それ以外にも、清水は、ボール保持者に対する連鎖的なサポートがなく、縦パスが入っても、様々な選手が動き出してパスをもらいに行く、というものが見られないので、相手の守備を迷わせることができていなかった印象です。「連鎖的なサポート」については、1節、2節のレポートでサガン鳥栖のプレーから書いていますので良ければそちらもご覧ください。

清水が4-4-2に戻したのは正解か。

ではこの最後の章で、清水のシステム変更について書いていきたいと思います。清水は、ここまでの2節採用していた5-3-2から、4-4-2にシステムを戻しました。ではヤン・ヨンソン監督のその選択は正解だったのでしょうか。

上図のように、清水は4バックですが、札幌はWBが高い位置を取って、両WB、2シャドー、CFの5トップ状態になっているので、4対5の数的不利になっています。このDFラインの数的不利が色々引き起こします。ではまずはこちらをご覧ください。

上図のように、札幌がDFラインの数的優位を生かしてボランチにパスを入れます。そこで、清水のボランチ(竹内)が出て、プレッシャーをかけると、図で示したように、背後にスペースができ、鈴木、A・ロペス、チャナティップへのパスコースが空いています。なので、ボールを持っている荒野から直接出なくても、もう片方のボランチの深井を経由してでもライン間にパスを入れる事ができ、速攻に移行されてしまいます。ということですので、札幌のボランチにパスを通されてしまうと、清水はプレッシャーをかけるのが困難です。ではもう1種紹介します。

この図のように、第一プレッシャーラインが2対3の数的不利ですので、実際の試合でも見られましたが、3対3でプレッシングをかけようと片方のSH(図ではエウシ―ニョ)が出ます。そしたら、まず4バックに可変されてどっちにしろ交わされるわ!っていう話ですが、4バックに可変されなくても、フリーのボランチにパスを通されてしまえばSHの背後のスペースに運ばれてしまいます。3対3なのでボランチにパスを通すのは難しいように見えますが、ボランチは先ほどにも書いたように、清水のボランチが札幌のボランチにプレッシャーをかけるのは、背後にスペースと、複数のパスコースを与えてしまうために困難ですので、フリーの状態になっていて、自由に動いてパスコースを作る事ができるので、CBからボランチにパスを出すのは可能です。そしてCBが浮き球を使ってSHの背後のスペースにパスを入れる、という選択肢もあります。SHの背後にボールを運ばれると何があるんだ、という事ですが、SBが札幌のWB+シャドーの2人に対して1人で対応しなくてはならなくなるので、サイドを突破されやすくなってしまいます。

この2つの例からわかることは、4-4-2は3-4-2-1に対して絶対的に噛み合わせが悪い、ということです。噛み合わせが悪いと、フリーの選手ができやすいので、守備側はとても不利な状況になります。

総括

札幌 まず攻撃では、相手が2トップでも3トップでも可変システムを用いてプレッシングを交わす術があり、清水がどちらで来ても、プレッシングを交わす事ができていた。また、「ポジション」ではなく、「タスク」という基準でプレーしているので、いるべきポジションにしっかり選手がいれば、そこにいる選手はどの背番号でも良いよ、という考え方なので、2ボランチの両方がDFラインに下りて福森がライン間に上がっていったり、ボランチの荒野がゴール前に走り込んでいくシーンがある。守備でも、前後半で違うシステムでのプレッシングを見せ、前半の5-1-2-2システムに対しての対応策をハーフタイムで話していたであろう清水の予想を裏切り、実際にA・ロペスを前残りさせたことが、ゴールに繋がった。攻撃の印象がとても強いペトロヴィッチ監督ですが、守備でも、柔軟な戦術を見せた。この調子で行ければ、優勝争いに絡めるぐらいの強さを持っていると思います。

清水 前節まで採用していた5-3-2から、このチームのベースである4-4-2に戻したが、2トップのままでプレッシングをかけたら元々2トップに対して相手は3バックなので、2対3の数的不利を抱えているので容易に交わされ、SHを出して3トップでプレッシングに行くと、4バックに可変され、清水としては、全体が連動したプレッシングができた時間帯があったものの、札幌の2種の攻撃戦術には完敗。攻撃でも、前後半共にサイドで2対1の数的優位を得ていたわけだが、札幌が臨機応変に対応していたとはいえ、上手くその数的優位を生かしたサイドアタックができず、後半は、ビハインドを背負い、焦りからサイドに目を向けず中央から突っ込むシーンが増え、中央で奪われて攻め残りをしていたA・ロペスにロングボールを入れられてカウンターを受ける、というシーンが失点シーン含め何度を見られ、修正はできず。そしてヤン・ヨンソン監督の、4-4-2に戻した決断は失敗だった。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、このnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!


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