見出し画像

私たちのみち

ゆうちゃんは私の幼馴染だ。幼馴染だが常に一緒にいたわけではない。

同じクラスになったりならなかったり、一緒のグループにいたりいなかったり。

でも、ずーっと一定の距離にいて、幼稚園から高校までおなじだった。


6/10

「いまは自分のことで精一杯で、恋愛しなくていいと思ってる」

最近ゆうちゃんがよくいう言葉だ。

「恋愛なんて自分がしたい時にすればいいと思うよ」

これはいつも私がいうセリフ。

私は女子大だが、ゆうちゃんは工学部で理系だから周りに男子が多い。

ゆうちゃんには最近仲良くしている男の子がいる。名前は便宜上「ナガセ」と呼ぶ。最近売れてるアイドルに少し似ているらしい。

「ナガセといると自分が自然にいられるというか、楽なんだよね。恋愛したいとかそういうわけじゃないけど」

いつもの調子で愚痴るゆうちゃん。男子が多い学部だと、強制的に関わらずを得ないから大変らしい。

「授業で必要なものを空きコマで買いに行くだけで、同じクラスの子にいい感じだねとか言われんの。」

「それはめんどくさいね」

一緒にいると楽っていうのは、好きってことにはならないのかとか思うけど言わない

そこまで責任は持てない気がするから



6/20


「実は、告られたんだよね」

「マジで?」

まずは驚きが先に来た。そのあとに先を越されたような気がして悲しくなった。私はまだ男の子と付き合ったことはない

「告白されたはいいんだけどさ…別にときめきがあるとかではないんだよね」

何回も似たようなことを聞いている気がする。

「できればこのまま友達で居たいんだよね。学部同じだから面倒なことになるとやだし」

私は何ていうのが正解なのか分からなかった。背中を押してあげるべきなんだろうか。ゆうちゃんが嬉しい言葉はなんだろう。私が言いたい言葉は何だろう。

「とりあえず考えさせてって言っといたら?」

「そうだよね。でも毎日会うからな。気まずいな。明日どうしよう」

自分のことを好きで居てくれる人と毎日会えるのは純粋に羨ましい。けど、そういうことも言ってらんない

「うーーん難しいね」

「なんかさ、もう19歳なのに恋愛経験ゼロなのはまずいんじゃないかって思えて、でもこういうの焦っても仕方ないかなとか色々考えて、よくわかんなくなってる」

「真面目だなぁ。みんなそんな深く考えてないと思うよ」

ゆうちゃんは昔からすごく真面目で、そう昔からずっと。

「とりあえず保留だわ、話聞いてくれてありがと」

付き合ってみれば?と声をかけれなかったのは、先を越されると思ったからだろうか、それとも彼女のことを取られたくなかったからだろうか。


7/1

土曜日の11時、電話は突然かかってきた。

「今、動物園にいるんだけど今日暇?」

「いけるよ。今起きたばっかりだからあと二時間ぐらいかかるけど」

精一杯早く準備をして向かう。動物園についたのは一時頃だった。

「おまたせ」

久しぶりに会うゆうちゃんは、髪を切り今流行りの軽い前髪を下ろしていた。おだがい前会った時よりあか抜けていると思う。

「友たちにドタキャンされちゃってさあ。えみちゃんが来てくれてよかった。」

二人でおなじ白熊かきごおりを買って食べた。写真を撮ってインスタに挙げる。ゆうちゃんのインスタはフォロワーが多い。学科の友達や浪人した時の予備校の友達がいっぱいいるから。わたしの知らないところのゆうちゃんが増えていく

「久しぶりに来たなあ、」

久しぶりに来た動物園は多くのコーナーがリニューアルしていた。ゾウ舎はきれいな薄だいだい色に塗装されていたし、コアラ舎ではより近くでコアラが見えるような出窓が設置されていた。前は全体的に既製品じみた作りだった気がする。

ここはかなり大きめの動物園だ。丘の上に造られているので視界がひらけて心地いい

だんだんと太陽がかたむき、オレンジのグラデーションが空にできてきた。

一通り回り、入口のゾウ舎が見えてきた。たわいもない雑談をしながらぐるぐると回ってきた。

「結局付き合おうと思うんだ」

そっか

一瞬だけ体が硬直したけど、その後はどうってことなかった。

高校を卒業して2年、どんどん私たちの人生は変わっていく。これからきっとゆうちゃんは工学部を卒業してそれを活かして働くんだろうし、そこにわたしはいない。

違う男と付き合って

家庭も別にもって

そうやって道が分かれていく。思えば最初から同じ道を歩いてたわけじゃない。きっと並走していた道が離れていくだけなんだろうって

「そっかー」

ただ自分の仲間が離れていくようなひとりぼっちになる気がして怖かった

最寄りの駅まで一緒に帰ってまわり道してダラダラ喋る。

おばあちゃんになってもこうしていたいな

変わっていくものの中に変わらないものがあればいいけど

家に帰ってご飯を食べてるとまた電話がかかってきた。

ゆうちゃんだ

「いまごはんだった?ごめんね?喋り足りないからまた夜電話していい?」

ふふふ

多分変わらないと思う。この先もずっと

そう思いたい


おわり

この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?