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大きな玉ねぎの下で〜直島『SAZAE』で感じた内省的アート〜

直島と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

アート。

そう答える人が多数だと思う。

今回僕が体験した不思議なその現象は、その直島が舞台。もちろん、アートと直結するもの。

直島といえば、

これや、

これ、

これとか。
瀬戸内海に浮かぶ島で、アート作品が点在していることで有名。美術館も多く、島ひとつが丸ごと美術館だと表現される。

しかし、今回直島を訪れた目的は、サウナだ。

グランピング型リゾート施設「SANA MANE」に、併設された「SAZAE」がそれだ。

目の前には瀬戸内海の入り江が広がり、他から隔絶された世界。

施設内に入るとすぐに目につくのが、こちら。
SAZAE!

全体像はこんな感じ。

巻き貝状となっていて、

ここが入り口となっている。

さらに進むと、ガラス扉で二重構造になった入り口が。

中はポッカリと空間が広がっていて、その中央にはフィンランドHARVIA製のストーブが鎮座。

そのストーブを取り囲む様に座れる構造になっている。

温度が70℃、湿度60%。
体感としてはもっと熱い。きっと高い湿度を保っているからだろう。
ぬるくて、ガッカリするサウナも正直多い。
しかし、SAZAEに関しては、ぬるさ、は感じない。
心地よい。これが第一印象だ。

巻き貝の角部分が、明かり取りとなっている。外は夏の午後の強烈な日差しが照りつけるが、SAZAEの中には、あくまで優しい光が降り注ぐ。幾重にも重ねられた板が幾何学模様を作り、それが光のイレギュラー反射を生んでいる。僕はしばらく、無言で天井を仰ぎ見てしまった。

セルフロウリュをおこなっても、すぐに強烈な蒸気は降りてこない。天窓の方へ立ち昇っていく。しかし、それでも不思議と湿度上昇を感じ、発汗速度が加速する。上方に吸い上げられた熱を、床の方へ循環するシステムがあるのかも知れない。

しっかりと汗が流れるが、いつまでも入っていたい、そう思わせる空間だ。
壁の厚みは45cmほどあり、そのため断熱材を使っていないとのこと。しかし僕は、壁の厚みが断熱効果以上のものをこの特異な空間にもたらしていると感じた。

音だ。
外は、入り江に打ち寄せる波の音、けたたましく鳴く蝉の声、子連れ客のはしゃぎ声、まさに夏休みの音が飽和している。
それが、SAZAEの中ではいっさい聞こえないのだ。僕はサウンド オブ サイレンスの中、深く自分の心と体と向き合うことができた。壁の厚みが生み出す遮音効果が、雑音を全てシャットアウトしてくれるのだ。額から、顎を伝わり、床に落ちる汗の音を聞いた。

水風呂は、巻き貝を出た窪みに設置されている。
水温は20℃以上ある。冷たい、とは言い難い。

刺激を求め続けるあまり、水風呂が冷たいことこそ正義である方程式が、いつの間にか世間には出来上がってしまった。
ただし、SAZAEの水風呂の中で、僕はひとつの答えを導き出した。

SAZAEは、通常のサウナと違い、入るのではない。浴びるのではない。そこで、過ごすのだ。SAZAEと一体となる。SAZAEの一部と化すのだ。
過ごすために最も大切なこと、それは心地よさに尽きる。SAZAEには、それが溢れている。

SAZAEと一体化し、外に出て水風呂に入る。僕はこの時、なんとも懐かしい気分に包まれた。自分がまるで、SAZAEから生まれ落ちた生命体の様に感じたのだ。水風呂はうぶ湯であり、そこに必要なのは、刺激よりも安心感だ。
静かなSAZAEの胎内から、けたたましく夏が響く世界に、僕は生まれた。それほどまでに、僕の心は、清く透き通ったものとなり、一切のフィルターのない目で世界を眺めることとなった。

夏、世界は、美しい。

大きな玉ねぎの下で起きた、この摩訶不思議な体験を、僕はアートと呼ぶ。

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