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砂浜の見える病院で。

空気が肌に馴染む、そんな秋の日が続きます。
そう、今日は金曜日。僕が僕の思いをぶちまける日だ。

勝手ながら、そう決めてしまった。
だから書く。指がちぎれ飛んでも書く。
そう。
僕はそんな人間だ。

こんなページに来てくれてありがとう。
どうかヤクルトでも飲みながら読んでいただきたい。

どうせ大したことは、書いていない。


今週の振り返り

まずは今週の振り返りから。
飽きもせず、今週も普通一直線の日々だった。

仕事は忙しい。
火曜日は有休を使って、漫喫で一日執筆。
あとは仕事。
仕事。

そんな一週間。
あ、日曜日は草刈りもやったな。

しんどかった。

そう、そんな一週間だった。


本日のテーマ

ここまで書いて、僕は頭をひねる。

何も決まっていないからだ。


でもね、書いているうちにきっと思いつく。
頑張れ脳。働け脳。






……そうだな。


今日は、ちょっと思い出話風な話を書こうかな。

小説風に。ちょっと脚色もして書く。

思いつきで、どんだけ書けるかわからないけど。










ショートストーリー「砂浜の見える病院で」


西暦2000年の秋。
ひとりの少年が、長い戦いを終えた。
月明かりの指す病室。横たわる少年の頭には包帯が巻かれている。
目を真っ赤に腫らした母親が、眠る我が子を眺めている。


「ごめんね。痛かったね」

母親は少年の髪をかき上げた。
耳の上あたり、10円玉ほどの大きさだろうか。
そこだけポッカリと、毛が生えていない。

母親はつぶやく。

「……怖かったよね」



病室は二人部屋。
隣のベッドには誰もいないから、ほぼ個室のようなものだった。
眠りにつく子と、うなだれる親。
静けさの中に、蚊の鳴くようなつぶやきが浮かんでは、消えていく。


もぞり。
少年の身体が、動いた。


「XXX、どう? お腹痛い?」

母親が声をかける。
手術直後の様子とは違い、麻酔は完全にその役目を終えたようだった。
頭だけでなく、腹部にも包帯が巻かれている。


「お腹、減った」


痛々しい見た目とは裏腹に、少年はのんきだった。
いや、命をつなぐためか。その真意は分からない。

手術が始まったのは、昼の11時。
前日から絶食が始まり、今はもう夜中の3時を回ったところ。
育ち盛りの少年が空腹を感じるのも当然のことだった。


「もう少し、我慢ね」


母親はその手に握るバッグを、ぎゅ、と強く握った。
バッグの中には、サンドイッチ。

母親自身が、お昼に食べようと買ったものだった。

主治医から食事の許可は下りていない。
許されるのは、水分のみ。


「水ならあるよ。飲む?」
「うん」


母親は、水の入ったペットボトルにストローをさした。
ベッドのリクライニングをゆっくりと起こす。少年はベッドに張り付いたままゆっくりと、10時間ぶりの重力を肌で感じとる。

「水、うまー」
「よかったね」

少年はペットボトルの水をあっという間に飲み干す。
先ほどまでは死人のような顔付きだった。それが今や、生気に満ち溢れている。
水は命の源。改めてその力を目の当たりにする。


「ねえ、背中がかゆい」
「あら、じゃあちょっと起こすね」


ずっとベッドに横たわっていた少年。背中には汗が滲んでいることだろう。
母親はほんの少し、少年の体を抱き起こした。その瞬間。





ぶちっ。





「あっ」
何かが抜けたような音が響いた。母親が声を漏らす。
ベッドには力無く垂れ下がる管。おそらく何らかの薬剤が投与されていたであろう。

腕に刺さっている点滴ではない。
それは少年の背中に取り付けられていた管だった。
母親はナースコールのボタンを連打する。


程なく当直の主治医と看護師が駆けつけた。若いがどこか安心感のある、端正な顔立ちの医師。すぐに診察が始まる。


抜け落ちた管は、痛み止めだった。
少年の背中から脊髄に投与されていたもの。

主治医はキョトンとする少年の顔をまっすぐ見つめ、ゆっくりと少年に問う。



「XXXくん、よく聞いてね。
 今ね、君の背中の痛み止めの管が抜けてしまった。
 ちょっと大変だけど、もう一度痛み止めのお注射をするか、
 お腹と頭の痛みを我慢するか、どっちがいい?」

「ん、我慢する。大丈夫」

少年は、即答する。
看護師に謝り続ける母の姿をちらりと見た。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「お母さん、落ち着いてください。大丈夫ですから」
看護師が母親の肩を掴み、なだめる。


「わかった。
 先生はいつでもいるから、何かあったらすぐに呼んでな」
大きなその手を、主治医は少年の頭にポンと置いた。

主治医は振り返り、母親を見る。

「お母さん、XXXくん、大丈夫ですって。
 抜けたのは痛み止めです。抗生物質とかではないので、安心してください。
 何かあったらすぐ来ますから、お母さんも少し休んでください」

「すいません、すいません、私が抱き起こしたから……」

母親は真っ赤な目を、さらに赤くした。
主治医はうんうん、と頷き、微笑んだ。


「XXXくんは強い子だから、大丈夫です。
 奥のベッドを使っていいので、お母さんも横になっていてください」

医師はそう告げ、少年の顔をもう一度、見た。
少年も、医師の目をまっすぐ、見つめ返す。

「じゃ、また後で来るからね。寝れそうなら、寝ちゃったほうがいいよ」
医師と看護師はそう言い残し、部屋を後にした。


「本当に大丈夫なの? 痛いんじゃないの?」
「うん、全然平気。お母さんも少し寝たら?」

「でも」
「いいから寝てよ。
 きっと朝になったらしゅーちゃんとなっくんが来るよ。
 ひどい顔、見られちゃうよ」

しゅーちゃんとなっくん。
少年と同じ病気を持ち、同時期に手術を行なう予定の子どもたちだ。
しゅーくんは明日。なっくんは明後日。手術を行う予定。
少年と合わせて「仲良し三人組」「いたずらっ子三人組」と異名を轟かせる、
いつも元気一杯の2人だ。


「目、すごいよ。パンパンだよ」
「……分かった。お母さんも少し横になる。
 でも起きてるから、なんかあったらすぐに呼ぶんだよ。」
「オーケイ」

母親は隣のベッドに腰掛け、涙を拭った。
ぐしゃぐしゃのタオル地のハンカチは、いつまでも乾かない。


1時間後。


少年は目を固く閉じ、歯を食いしばる。
時計を何度も睨みつけるが、時間は頑として進もうとしない。
大粒の汗が額から噴き出るが、タオルですぐに拭き取る。


母親はそれからも、数分おきに我が子の顔を見てはベッドに座る、を繰り返した。








砂浜の見える病院に陽光が差し込むまで、
母と子の想いは交差し続けた。






それから一週間後。




「じゃ、お母さんたち帰るからね」
「また明日ね!」
「悪いことすんじゃないよ!」

別れを告げる、母親たち。
面会時間の終わりまで、もう間も無くだ。


「はーい、バイバイ」
「また明日ー」
「じゃねー」

寸分の名残惜しさもない、子どもたちの返事。
母親たちが部屋を後にした瞬間から、彼らの「戦い」は始まるのだ。


「ジャンケン、ポン!」
「あー、またおれのカードかよぉー」
「しゅーちゃんはさ、最初はグーのあと、いっつもパーだもん」
「おいXXX!それ言うなよ!」

病室に響く、子どもたちの声。

「おれのカードだから、番組はおれが決めるからね!」
テレビに映ったのは、子どもたちに大人気のバラエティ番組だ。

「おいーやっぱりかよー」
「マジもうやめようよ」
「ふっふっふ。みんなで見ようぜ、な!」


小さな笑い声と同時に、悲鳴が聞こえる。


「いひひ、いててて」
「ククク、いてて」
「ぷっ。いてて……」


どうやら笑うと傷口が痛むらしい。
3人仲良く、ベッドの上を転げ回る。
テレビから目を離すことは許されない。

痛いのか楽しいのか。きっと楽しいのだろう。

ジャンケンで負けた人のテレビカードを使う代わりに、
報復のバラエティ番組を見るのが彼らの掟。


砂浜の見える病院から、小さな笑い声が3つ。




母親たちは、しっかりとした足取りで、
それぞれの家路につくのだった。






おわり。
呼んでくれてありがとう。
よしなに。

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