見出し画像

アルビオンオンライン ロイヤル大陸滞在記『タゲ取り物語』第三話

三、タゲ取り物語

 アルビオン・イーストが正式にオープンするまでの2日間は、ティア4装備一式を揃えるための準備をしたり、フィールドの固定ダンジョンに遊びに行ったり、釣りをしたりして過ごした。
 ダンジョンには、ハムさんと二人で、パーティを組んで出向いていたのだが、知らない人たちといつの間にか共闘することになって、一段落したついでにパーティを合一させる、という流れが実に自然に行われていることに新鮮味を感じた。UOではそのようなことは日常茶飯事だったけれど、その後にプレイしたMMOでは、パーティを組むということは、それなりに覚悟を要する行為だったからだ。
 釣りについては、正直なところ「FFXIの釣りの面白さには、遠く及ばない」という第一印象を受けた。魚の種類や釣り竿の種類、釣り餌の種類の少なさもさることながら、何よりもまず釣り場にロマンがない、と思った。例えばFFXIでは、運航中の船の甲板から釣りをすることが出来たし、街中で釣りをしながら、海上を発着する飛空艇の水飛沫みずしぶきや、乗り降りする乗客の様子や、上下する跳ね橋のギミックを眺めながら釣りをすることが出来た(船釣りの際に、うっかりクラーケン〈大ダコ〉を釣り上げてしまい、大暴れするクラーケンに乗客全員が皆殺しにされる、というようなハプニングも、また一興だった)。まぁ、今後印象が変わるかもしれないので、釣りに関する話題は、ひとまず横に置いておくことにする。
 アーリーアクセス最終日のマウンテンクロスは、いつにも増してプレイヤーでごった返していた。人が多すぎて、周囲の人々が簡易表示されるほどだった(藤子・F・不二雄の『パーマン』に登場するコピーロボットのような外見になる)。「この急激な人口増加は、ブロンズファウンダーを購入した人たちが大挙して押し寄せて来たからに違いない」と思った。「アーリーアクセスの段階でこの動員数なら、明日は凄いことになるかもしれない」と期待感をつのらせたことを覚えている。

 アルビオン・イーストのオープン日(2023年3月20日)の夜、わくわくしながらイーストサーバーを選択すると、画面に見慣れないメッセージが表示された。サーバーがかなり混雑しているらしく、プレミアムに加入していない人は、ログインするまでに6000人待ちの状態だという。友人のマリさんからも「一向に順番がまわってくる気配がない」という連絡があった。そんなマリさんを差し置いて、僕はすんなりとアルビオン・イーストに入場することが出来た。ダブルファウンダーさまさまである。
 僕の次なる目標は、全身をティア5装備でかためることだった。採取道具をかばんに押し込んで、早速ギャザリングの旅に出つつ、仲間たちがやってくるのを待った。しばらくしてからハムさんと合流し、続いて初ログインとなるカクさんとルサリィと合流した。4人で釣りをしながら、未だログイン出来ない仲間たちの到着を待っていた。が、その日は結局合流することは叶わなかった。

 僕はふと、アルビオンオンラインをパソコンでプレイしてみたくなった。というのも、僕が使用しているiPad Proでは、混雑時に周囲の人々が――簡易表示されるならまだしも――全く表示されなくなることが多々あったからだ。本当はその場に大勢の人々が居合わせているはずなのに、画面に表示されているのは僕一人きりという、MMORPGにあるまじき惨状には、せっかくの興が削がれる思いがした(勿論、端末への負荷軽減を試みるべく、ゲーム内の各種設定を可能な限り低くしてみた。が、状況は少しも好転しなかった)。
 とはいえ、かつて『バトルフィールド3』をプレイするために購入したゲーミングPC(windows7から10に変更)は、とっくの昔に壊れてしまっていた。手元には2017年に購入した執筆用MacBookが1台あるのみ。スペックは次のとおりだ。

■12インチMacBook 512GB - スペースグレイ
 • 1.4GHzデュアルコアIntel Core i7プロセッサ (Turbo Boost使用時最大3.6GHz)
 • Intel HD Graphics 615
 • 16GB 1,866MHz LPDDR3メモリ
 • 512GB SSDストレージ

 僕はまず、MacBookのタイプCポートにAUKEYのUSB-Cハブ(6in1)を接続し、新たに増設されたUSBタイプAポートに、FFXIV時代に愛用していたLogicoolのゲーミングマウスG600rとゲーミングキーボードG105を接続した。

AUKEY/USB-Cハブ 6in1/USB Type-cバススルーハブ/4K HDMI出力/4ポートUSB3.0/USB-C充電ポート (PD対応)


 G600rは、MMORPG用に開発された20ボタンマウスだ。右親指だけで12個のボタンを操作することが出来る。
 キーボードの「WASD」キーを使って移動するタイプのゲームの場合、スキルのボタンはキーボード上部の数字キー(1~0まで)やF列(ファンクションキー)に割り振られていることが多い。つまり、左手だけで移動とスキルの両方を操作しなければならないため、行動に遅延が発生しやすいという難点がある(右手のマウスでは、ターゲティングや視点の変更を行う)。
 この左手の操作煩雑問題は、G600rを使用することによって瞬く間に解消される。
 キーボードに設定されたスキルと同じスキルを、マウス側の任意のボタンに割り振ってやればいい。そうすれば、左手はキーボードの「WASD」キーの移動操作のみに専念することが出来るし、それまでマウスを保持するためだけに存在していた――つまり、ほとんど遊んでいた――右手親指は、役割を与えられて俄然活気づいてくれる。
 コンマ1秒の反応の差が生死をわけるオンラインゲームの世界において、たったこれだけの違いが、とてつもなく大きな恩恵をプレイヤーにもたらしてくれるのだ。
「ふふふ、勝ったな」
 一通りのスキルをG600rに設定し終えた僕は、不敵な笑みを顔に浮かべながら、MacBookからアルビオンオンラインにログインした。
「見える、私にも人々が見える!」
 敬愛するシャア・アズナブルの台詞を借用しながら、それまでとは明らかに見え方が違う風景――道行く人々の姿――に、僕は歓喜した。
 続いて、「早速20ボタンマウスの威力を試してみるか」と僕は思い立ち、フィールドに出てモブと対峙した。
 アルビオンオンラインの操作方法は、MOBA系のそれを踏襲している。MOBAとは、Wikipediaによれば次のとおりだ。

 マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(英: Multiplayer Online Battle Arena)とは、コンピューターゲームにおけるリアルタイムストラテジー(RTS)のサブジャンル。通称MOBA。
 複数のプレイヤーが2つのチームに分かれ、各プレイヤーはRTSゲームの要領でキャラクターを操作し、味方と協力しながら敵チームの本拠地を破壊して勝利を目指すスタイルのゲームのこと。

 MOBA系のゲームでは、移動はマウスで行う(クリックで行き先を指定してやると、キャラクターは自動的にその場所まで移動する)。また、スキルは、キーボードの文字キー(Q、W、E、R等)を使って発動させる。最初から左右の手の役割分担がしっかりと考えられているのだ。だから、マウスにスキルを割り振ってしまおうものなら、右手だけで全ての操作――移動とスキルの発動――をしなくてはならなくなる。
 話しをフィールドに戻す。
 僕は、右手のマウス操作にあたふたしている間にあっけなくモブに倒されてしまった。
 アルビオンオンライン(PC版)がMOBA系の操作方法を採用しているということは、MacBookからログインした際にわかりきっていたことなのに、なぜ僕がそのような過ちをおかしてしまったのか、正直なところ自分でもよく分からない。iPadでの操作方法とPCでの操作方法が頭の中でごちゃ混ぜになっていたのかもしれないし(iPadは左手で移動し、右手でスキルを発動させるのに対して、PCは左手でスキルを発動させ、右手で移動する)、G600rゲーミングマウスを是が非でも活用したい、という一念によって引き起こされたミスだったのかもしれない。
 いずれにせよ、この敗北の一番の問題は、モブをうまくタゲることができなかった﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅点にある。それが、右手に操作を集中させ過ぎたことに起因しているのか、それとも――僕がまだ気づいていない――別の要因があるのかは、このあと検証してみる必要があった。
 ちなみに、オンラインゲームでは、敵にカーソルを合わせる所謂いわゆるターゲティング行為のことを〈タゲる〉とか〈タゲを取る〉などという。タゲる速さとその正確性は、イコールその人の強さをあらわす、といっても過言ではない。それは、居合でいえば抜刀速度と抜き打ちの正確性に該当するし、ガンファイトにおける早撃ち――ホルスターから銃を抜く速度と射撃の正確性――に相当する。
 僕は長年、タゲ取りの速度と正確性にそれなりの自信を持ってきた。そのことを象徴するシーンを今でも鮮明に覚えている。舞台は、UOのダンジョンだ。僕が単身デーモン狩りをしていたとき、後からやって来たプレイヤーが僕に何の断りもなくそこで狩りを開始した。カチンときた僕は、以後そこに湧いた全てのデーモンのタゲを独占した。彼も果敢に挑んでは来たものの、遂に一匹のデーモンも捕まえることが出来なかった。
「どうやったら、そんなに早く敵をタゲられるんですか?」と、彼は僕に話しかけてきた。
 僕は、狩りの手を止め、それまで培ってきたターゲティングの秘密(UOAという公式公認の外部ツールの活用法)やモンスターが放つブレスや魔法攻撃を食らわずに済む特殊戦法――僕のUOにおける奥義――を、彼に語って聞かせた。
 そのような、いわばタゲ取り名人(今やタゲ取りのおきなと言ってもいいかもしれない)だった僕が、こともあろうにフィールドのモブ(雑魚)を上手くタゲることが出来なかったのだ。これは、僕の沽券に関わる問題なのである。
 僕は、「意地でもアルビオンオンラインをパソコンでプレイしてやる」と心に決めた。

Logicool G600r 「ふふふ、勝ったな」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?