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アルビオンオンライン ロイヤル大陸滞在記『タゲ取り物語』第二話

二、アーリーアクセスとチュートリアルの罠

 2023年3月15日、楽しみにしていたアルビオン・イーストのオープン日(クリスタル&ゴールドファウンダー購入者限定のアーリーアクセス)がやってきた。
 会社から帰宅して、晩ごはんとお風呂を済ませた僕は、満を持してアルビオンオンラインのアプリを起動させた。
「あれ?」、僕は自分の目を疑った。クローズドベータに参加した際に作成したはずのキャラクター(Takion)がリストから消えている。
「――もしや」とひらめいた僕は、キャラクター名入力欄に〈Tachyon〉という、僕の本来の名前を入力してみた。すると、何とあっさりとTachyonの名が通ってしまったではないか。「キャラクター名の保護とは一体……」。僕は、公式ホームページの説明に目を通した。

○ギルド名とキャラ名の予約の仕組み
 3月14日の10:00UTC(アルビオンウェストメンテ開始時)にアクティブなギルド名とキャラ名がアルビオンイーストのリリースに向けて予約されます。
・キャラクター/ギルド名の予約には、アルビオンイーストファウンダーパックを有効(購入済み)にして、アルビオンウェストサーバーに希望する名前のキャラクター/ギルドが存在する必要があります。
・90日間予約されるので、2023年6月13日に予約期限が切れます。他のファウンダーパック特典は永久的に受け取り可能です。
・注:予約されるのは名前のみです。キャラとギルドの進行はベータと正式リリースに引き継がれません。
・注2:ギルド名はギルドリーダーのみ予約可能です。

 何度読み返してみても一向に腑に落ちない、まるで喉に詰まった餅のような文章だ。恐らくは「アルビオン・ウエストの既存キャラクターと同じ名前を、アルビオン・イーストに予約することが出来るよ」という内容なのだろう、と僕は理解した(自信はない)。ファウンダーを購入するにあたって最も惹かれた特典が、実は新規プレイヤーには全く無縁の内容だったことに僕は衝撃を受けた。
「ま、結果オーライだからいいか」、そんなことよりも待望のアーリーアクセスである。
 アルビオンオンラインでは、ゲームの開始地点を5通りの選択肢の中からチョイスする必要がある。

・Mountain Cross(マウンテンクロス)
 雪深き山岳地帯
・Forest Cross(フォレストクロス)
 緑多き森林地帯
・Steppe Cross(ステップクロス)
 荒涼たる砂漠地帯
・Highland Cross(ハイランドクロス)
 風薫る草原地帯
・Swamp Cross(スワンプクロス)
 沼深き湿地帯

 僕は、あらかじめマウンテンクロスを選択しよう、と決めていた。ネットで調べていたマウンテンクロスの景観が、僕の大好きなドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のウェスタロス北部の景色を彷彿とさせたからだ。
 クローズドベータのときには、否応なしにハイランドクロスに飛ばされたので、早くマウンテンクロスに降り立ちたかった僕は、ろくすっぽ画面を見ずにその後の選択肢をチョイスして、晴れてマウンテンクロスに降り立ったその瞬間に、ハッと気づいた。僕はチュートリアルをスキップしてしまったのだ。
 チュートリアルをスキップしてしまうと、チュートリアル中に入手することが出来る装備や道具、ラバ(移動用マウント)を入手することが出来なくなってしまう。途方に暮れた僕は、しばらく考え込んだ。そして、背に腹はかえられないと、早速ゴールドマーケットを利用する決断を下した。
 僕は、半ベソをかきながらゴールドマーケットへと通ずるコインボタンを押した。そこで手持ちのゴールドを使って必要最小限のシルバーを購入した僕は、マウンテンクロスのマーケットに駆け込んで、装備や道具、ラバ一式を買い求めた。
 出鼻をくじかれた僕だったが、アーリーアクセス初日のその後は、Discordの画面共有機能を使って、まだアルビオンオンラインにアクセスすることが出来ない友人達(ハムさん、カクさん、まりさん)に見守られながらの、まったりプレイとなった。3人は、同世代であるにも関わらず、「過去にMMORPGをプレイしたことがない」というので、「MMORPGとは何ぞや」というところから解説しなくてはならなかった(しかしそのお陰で、この滞在記の序文の構想が頭の中に出来上がった)。ボイスチャットで話しながら、例の銀行付近にいる司令官から与えられた初心者クエストを、テキパキと進めた(一度やっていたので、要領は分かっていた)。初心者クエストを一通りこなすと、もはやアルビオンオンラインには、クエストの類は存在しない。謳い文句通りの自由がプレイヤーを待ち構えている。
 翌16日には、「みんながくるまでに準備を整えておこう」と思い、残りのゴールドをシルバーに替え、そのシルバーをギルド設立費用にあてた。当初は、UO時代に使用していたギルド名〈A'pKnights(ファイブスター物語より)〉を使おうと思っていたのだが、それでは芸がないと思い直し、僕がゲームの開始地点にマウンテンクロスを選択した動機でもある、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』から〈House Stark(スターク家)〉の名を拝借した。ギルドを立ち上げた後で、ギルドファインダーという、既存のギルドをサーチする機能を使って自分のギルドを見てみると、すぐ下に〈House Steak(ステーキ家)〉なるギルドが存在していることに気がついた。ギルドマーク(白地に灰色の狼マーク)まで酷似していることから、ステーキ家が『ゲーム・オブ・スローンズ』のスターク家を意識して作られたことに間違いはない(果たして、この名前がスターク家のパロディなのか、それとも単なるスペルミスなのかは、現在も定かではない)。いずれにせよ、僕と同じような理由で開始地点にマウンテンクロスを選択した人がいるという事実は、僕にとって喜ばしい出来事だった。
 17日には、シルバーファウンダーを購入していたハムさんがゲームに入ってきた。
「チュートリアルを絶対に飛ばさないように」と僕が注意していたのにも関わらず、ハムさんはチュートリアルをすっ飛ばしてしまったらしい。しかし、辛抱強いハムさんは、街中で繰り広げられるプレイヤー同士の決闘を物陰からこっそりと覗いていて、決闘後にその場に残された敗者の死骸から物資を漁ってまわり、何とかその難局を乗り切った、というから驚いた。
 その夜から、今度は友人のイノコさんがDiscordにやってくるようになったので、僕は再びプレイ画面を共有しながら「MMOとは何ぞや」を繰り返した(イノコさんも過去にMMORPGをプレイしたことがないらしかった)。VCで話しながら、僕はひたすら素材を採取していた。アルビオン・イーストがオープンするまでに、自身の装備レベルをTier4まで上げておきたかったからだ。
 アルビオンオンラインの装備のティア(階層)は、1から8まである。ティア1からティア3までが初心者装備らしいので、ティア4を装備することが出来れば、脱初心者という訳だ(ティア3までは初心者の町やフィールドの施設を使って無料でアイテムを作成することが出来るのだが、ティア4からは最寄りの大都市まで出向いてユーザーが運営する加工屋を利用する必要がある。この加工屋を利用すると手数料を取られる)。
 装備の入手方法は、自分でつくるか、マーケットで買うか、の二択だ。
 僕は前者を選択した。MMORPGにおける金策の秘訣は、自給自足と昔から相場が決まっている。が、生産作業を大の苦手としている僕は、いつも着手を先延ばしにしてきた。今回は、生産スキルを先に上げることによって、後々お金に困らないような盤石の体制を構築しておきたい、という狙いもあった。
 僕はまず、山岳フィールドに赴き、突起した岩肌めがけてツルハシを振り下し、鉄鉱石を採掘した。そして、集めた鉄鉱石を町に持ち帰って、精錬所の炉で溶かして鉄の延べ棒を作った。続いて僕は、森林フィールドに赴き、そこに生息する狼たちを倒した後、スキニングナイフを使ってその皮を器用に剥ぎとった。そして、集めた皮を町に持ち帰って、革なめし業者のところで皮を革に精製した。最後に僕は、鍛冶屋を訪れ、鉄の延べ棒と革を使ってブロードソードを作成した。このようにして、僕は自身の装備を徐々に充実させていった。
 アルビオン・イーストの正式オープンまで残すところ後2日、マウンテンクロスを行き交うプレイヤーの数は、日々着々と増えている感があった。

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