2024年4月 観た映画感想文

タイトルの通り、2024年4月に観た映画の感想文です。
対象は映画館で観た新作のみ。
ストリーミングで観た分や再上映で観た過去作品などは末尾にタイトルだけ備忘録として書いておく感じでいきます。
前月の分はこちら↓


ブルックリンでオペラを

終始どっちへ転ぶのかわからず、予想もつかない展開にあれよあれよと流されているうちに何かよくわかんないけど大団円を迎えるコメディ作品。

こういう「みんな〜!!良い話だったよねェ〜?!」って観客に押し付けて煙に巻く感じの作品は結構好み。
下品で行儀の悪いストーリーのくせに画面作りはなんか小洒落た雰囲気で一見すると「うちはコメディじゃないです、真面目なヒューマンドラマです」みたいな顔つきしてるのも憎たらしい、何を気取ってるんだって話。

登場人物のほとんどがどうしようもない残念な人たちばかりなんだけど、観てると段々それがどこか愛らしく感じてくる。
というのも、彼ら・彼女らは(速記者のオヤジを除いて)みんなそれぞれ自分自身がどうしようもないヤツであるということを薄らと自覚していて、その「どうしようもなさ」をどうにかしたくて踠いている。

そしてそれぞれがそれぞれの苦悩との対峙する姿が一つ一つ丁寧に描かれるんだよね。
彼ら・彼女ら(速記者のオヤジを除いて)全員が自分自身の「どうしようもなさ」から逃げずにちゃんと真正面から向き合い、最後にはそれぞれが正しいと思った選択を取ったからこそこの物語はハッピーエンドを迎えるわけ。

一方で、速記者のオヤジを「学は無いが上辺の知識だけは下手に持っており、態度だけはやたら尊大で、実態としてはただのニワカなのにも関わらずまるで専門家であるかのように振る舞い、自身を顧みることもないナチュラル人種差別主義者」っていうやたら解像度の高い「真にどうしようもないヤツ」として徹底的に対比させた描き方をしている点には潔い割り切りを感じる。
そんなオヤジも他の人たちと同じく「自分が正しいと思ったこと」を遂行しているだけに過ぎないわけだけど、それがまた「どうしようもなさ」に拍車をかけているってところもある意味生々しい。

最終的に「何か良い話だったなぁ」って感じさせられるのも登場人物それぞれの「自分自身の抱えるどうしようもなさとどうやって向き合うか」って態度が良きにしろ悪きにしろ最後まで描き切られるからなのかな〜と思った。

美と殺戮のすべて

90年代後半のアメリカで巻き起こり、今もなお燻り続けている「オピオイド危機」
オピオイド危機を引き起こした鎮静剤を販売する製薬会社に対してデモ活動を展開する民間グループの中心人物の一人、写真家ナン・ゴールディン。
彼女がなぜ写真家となり、これまで一人のアーティストとしてどう生きてきたか、そしてなぜ現状に至ったのかをインタビュー形式で追うドキュメンタリー作品。

観ていて思ったのは、恐らく撮影を始めた当初はナン・ゴールディンという個人にもっとフォーカスした作りになる予定だったのでは?というところ。
しかしインタビューを重ねていくなかでナン・ゴールディンの半生が徐々に紐解かれていていくと、彼女がオピオイド危機という大きな渦へ参画するにあたって前段が計り知れないほど存在していることが明らかになっていく。
それらを踏まえると、彼女がオピオイド危機と対峙するのはもはや必然であったのではないかと思わずにはいられない。

製作陣も「これはオピオイド危機についても本腰入れて盛り込んでいかないと作品として成り立たないな」と思ったのか、この映画は前半と後半でやや毛色が変わってくる。
これは作品の最大の特徴と言ってもいい点で、特に後半はアメリカという国の抱える暗部めいた部分にも鋭く切り込まれていて、この手のドキュメンタリー作品にしてはかなり満足感があった。

ゴーストバスターズ/フローズン・サマー

まさか続編が作られるとは思わなかったから嬉しい。
前作が見事としか言いようがないほど素晴らしいリブート作品だったから今回もかなり期待して観に行ったけどやっぱりおもしろい。

前作では「大人びた子ども」だったヒロインのフィービーが今作では「賢いミドルティーン」に成長していて時の流れを感じる。
他だとポッドキャストがめちゃくちゃデカくなってて最初誰だかわかんなかったレベル、成長期とは恐ろしい。
何となくだけど前作公開から今作公開までの期間と作中の経過時間がリンクしてるのかな?という気がする。

前作は爽やかジュブナイルって感じで終始カラッとした雰囲気だった覚えがあるけど、今作ではそれがガラッと一転してちょっと湿っぽさを感じるような内容だった。
思春期の少年少女が抱える漠然としたモヤモヤ感と、それに接する親たちの微妙な距離感、その何とももどかしい感じが丁寧に描かれていた。
子どもは否応なく成長し、その影響を受けて親もまた否応なく成長(変化ではなく成長)せざるを得ない……という循環は前作でも描かれてはいたと思うけど、今回はそれがもっと前面に出されていたように感じた。

ただゴースト退治というよりはゴースト退治をめぐるヒューマンドラマに重きが置かれていてゴーストバスターズらしい軽妙なノリが抑え気味だったところは惜しい。

観ていて一番「何だかな~」と感じたのは事態の解決手段がゴーストバスターズじゃなくてどこの馬の骨とも知らない超能力者頼りだったという点。
もしかしたら世界観を拡張させたかったのかなと思わないでもないけど、こんだけ丁寧にリブートして主要メンバーのキャラクター性を整えてきたのに最後の最後で活躍するのはポッと出の新キャラっていうのはちょっと残念。
それもあって「出来すぎ」とも言えた前作に比べるとやや小粒な印象は拭えないかな〜という印象を受けた。
今のところ続編が制作されるかはわかんないけど、続きが作られたとしても何となく次回を最終回とした三部作で完結するんじゃないかなという気がする。

クラユカバ

昭和レトロ×スチームパンクって感じのケレン味が物語・画面・劇伴すべてにギュッと詰まってて雰囲気がたまらなかった。

特にキャラクター同士の軽妙な掛け合いが作風とマッチしていてずっと聞いていたいくらいだったし、ときどき挟まる口上は洒落がきいてて楽しい。
いかにも関係が深そうな『クラメルカガリ』と同時上映ってことでどれくらい繋がりがあるんだろうな〜とワクワクしながら両方を一気に観たわけだけど、結果的にストーリー上はそれほど直接的な関係は無さそうだった。
ただどっちにも共通して登場するキャラクターもいたし、世界観は同じっぽい。
「箱庭」っていうユニバースの中で展開される群像劇の一場面みたいな感じ。
強いて言うならいくつもの階層に分かれてる街の比較的高階層な部分を舞台にしたのが今作、比較的低階層な部分を舞台にしたのが『クラメルカガリ』ってだけで、片方を観ればもう片方をより深く理解できる!みたいな作りではなかった。

連続行方不明事件を切っ掛けとした謎が謎を呼ぶ怪異ミステリって感じのストーリーで終始「この先どうなっちゃうんだろう」ってグイグイ引っ張られるんだけど、最後は結構投げっぱなしで終わっちゃうのがちょっと消化不良だった。
事態は終息するんだけど問題の根本的な解決・解明には至らず、ようやくそのための糸口が掴めたぞ!ってところで「あゝ、クラユカバ」って幕を引かれてしまう。

そもそも回収されていない(するつもりの無い?)伏線や布石が物語・キャラクター・舞台のそこかしこに転がっていて何とも考察のしがいがあるな〜といった趣。
かなり設定が練り込まれている印象を受けるから多分作中で明かされてないネタとかもいっぱいあるんだろうなって思う。
ただあまりにも匂わせぶりで思わせぶりなもったいぶった終わり方だったから、こうなるともちろん続編を作ってくれるんですよね?!と製作陣を問い詰めたくなってしまう。

上映時間60分ちょいとは思えないほど濃密な時間を味わえます、オススメ。
観るならぜひ『クラメルカガリ』とセットでどうぞ。

クラメルカガリ

一つ前の『クラユカバ』と同じ世界観で、こっちもまた違った方向性のケレン味が目いっぱいに詰まっていてたまらなかった。

ただ『クラユカバ』の方でも書いたけど、両作に物語上の繋がりはまったく無い。
観る前はどっちから先に観ようかな〜順番とか結構大事かもな〜ってちょっと身構えてたんだけど、結果的にはどっちから観ても大丈夫だった。

『クラユカバ』が昭和レトロなロマンっぽさ重視しているのに対してこっちはスチームパンクっぽさがより強めな感じの雰囲気。
物語の面でもこっちはジュブナイル冒険活劇って印象で全体的に明るい雰囲気だし、終わり方も後を引く感じではなくめちゃくちゃ爽やか。
監督曰く『クラユカバ』が辛口だとすれば『クラメルカガリ』は甘口って話なんだけど、まさしくそんな感じの仕上がりで比較的エンタメ色が強く、あまり人を選ばない。

あとヒロインのカガリがめちゃくちゃ可愛い。
デザインは言わずもがな、一見すると惚けた感じなのに根はキレ者で実は強かってキャラクター性がかなりツボ。
それもあって個人的にはこっちの方が好みだったかな。

詳細はネタバレになるから割愛するけどタイトルは恐らく「目を眩ませるカガリ」と「目が眩んでいるカガリ」のダブルミーニングになっているんだろうな〜と思った。

『クラユカバ』ほどの量ではないにしろよくよく考えてみるとこっちにも回収されてない伏線・布石がいくつも転がっていてやっぱり思わせぶり。
パッと思いつくだけでも過去に起きた機械たちの暴走事件とか、カガリの顔の傷とか……特にカガリの顔の傷に関してはいかにも重要そうな雰囲気だったのに作中では何の言及もなかったしな~。
やっぱり続編を作る気満々なのでは?と思わないではいられない。
舞台である「箱庭」を一つのユニバースとしてどんどん話を展開できそうな気がするし、今からワクワクが止まらない。

こっちも『クラユカバ』と同様に上映時間が60分ちょいと大変観やすいのに短さを感じさせないほど濃密な仕上がり。
ぜひセットで観ましょう、オススメ。

リンダはチキンがたべたい!

フランス発の前衛的なアニメ映画。

NHKあたりが作ってそうな子ども向け教育番組のちょっとしたコーナーで流れるような短編アニメをそのまま2時間モノに拡張したような雰囲気。
特筆すべきは映像表現が他では見たことないくらい独創的な点。
水彩画で作られた絵本みたいな絵柄の背景と、その絵本チックな景色のなかをちょこまかと動き回る極端に単純化されたキャラクターの対比は観てると何だか不思議な感覚をおぼえる。

特に色を使った表現が面白い。
画面作りやキャラデザの都合上、線だけだとどうしてもキャラクターが曖昧になってしまうという部分を、キャラクターの上にベタッと単色だけを乗っけることで直感的に区別させるっていう形でクリアしているのは一種の発明だと思う。

ストーリーは童話めいていてわりかし子ども向けな印象。
ただ登場人物たちの行動が結構ムチャクチャな場面がいくつもあってなかなか尖ったユーモアセンスを感じる。
あとちょいちょい挟まるミュージカルパートがいよいよ教育番組のコーナー感マシマシにさせてくるし、本当にどこを切り取っても強烈な個性があって飽きない。

示唆的な結末でドタバタ群像劇をシュッと〆るオチも後味が爽やかで大変よろしい。

ゴジラxコング 新たなる帝国

とにかくデカくてパワーのある連中がハチャメチャに暴れ回る様をたっぷり味わえる、「こういうのでいいんだよ」を目一杯詰め込んだエンタメの極地みたいな映画。

怪獣映画としてではなく怪獣というキャラクターどうしのバディものとして割り切って作ることで一皮も二皮も剥けた印象がある。

冷静に考えると話の中身が薄すぎてビビるけど、そんなんは本当にどうでもいいんだよね、俺たちはゴジラとコングがとにかく暴れ回るところが観たいだけなんだから。
敵が一体何者だったのかとか今となってはさっぱり覚えてないけど、別に何も問題はない、だって楽しかったから。

一応取ってつけたような人間サイドのドラマパートもあるにはあるんだけど、完全にただモスラを呼び出すためだけの舞台装置としてしか使ってなくてニッコリしちゃった。

客に全力で観せたいモノがあるのなら他の要素は多少雑な方がむしろノイズにならずスムーズにコトを運べる……この視点こそがこの映画を非凡たらしめる最大の理由だと思う。

あとモスラに対してキャラ萌えの波動を感じます。
凄くないですか?
信じてもらえないかもしれないけどモスラが完全に頼れる姐御系ヒロインでめちゃくちゃ可愛い。
生真面目で頑固なコング、暴れん坊で人の話を聞かないゴジラ、二人の喧嘩を仲裁して叱りつけるモスラの姐御。
この絶妙な関係性もまた萌えである。

マジで一体何を観せられているんだ?という気持ちになれる最高の映画です、オススメ。

ストリーミング or 過去作の再上映

◆バジュランギおじさんと、小さな迷子

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