2024年7月 観た映画感想文

タイトルの通り、2024年7月に観た映画の感想文です。
対象は映画館で観た新作のみ。
ストリーミングで観た分や再上映で観た過去作品、テレビアニメなどの総集編作品、観るのが2回目以上の作品などは末尾にタイトルだけ備忘録として書いておく感じでいきます。
前月の分はこちら↓


THE MOON

月面の有人探査ミッションを遂行するべく月へと向かう宇宙船が不慮のトラブルに見舞われ、搭乗していた宇宙飛行士3人のうちベテラン勢2人が死亡、最後に残された一番の若手(主人公)が国の威信と亡くなった先輩たちの思いを胸に何とかミッションをこなし地球へと帰還するため奮闘する……という筋書き。

あらすじだけだと『オデッセイ』みたいな感じなのかな?と思って観に行ったんだけど、実際は比にならないくらいシリアスな物語だった。「さすがにこれ以上事態が悪化することはないだろ……」ってところから一段と事態が悪化する、って流れを何回も丁寧に繰り返すから物語が進むにつれ「もうやめてあげて!!」って感じで主人公が不憫で堪らなくなってくる。

そんな主人公の物語と同時並行する形で、主人公の乗る宇宙船を地球からサポートする管制室側を舞台にした国家間の権力闘争を巡るドラマが描かれるんだけど、こっちに関してはちょっとお粗末かな〜というのが正直な感想。敵対する陣営を悪者然として描きすぎていて小者感が前面に出てしまっている点が、近未来ハードSFとしての作風にあまりマッチしていないなと思った。この辺は好みの問題かもしれない。

あとヒロインが置き物すぎて「これだったらこのキャラいてもいなくてもいいのでは?」って感じだった。彼女にどういうバックグラウンドがあってなぜこの場にいるのか、って部分を尺の都合で省いたんですか?ってくらい全然説明してくれないのが置き物っぷりに拍車をかけている。

ただ、このヒロイン、べらぼうに可愛いのである。

シリアスを煮詰めたかのような激重ストーリーの中における唯一の良心、薫風、荒野に凛と咲く一輪の花。いてもいなくても物語自体に影響はないんだけど、いることによって辛うじて作品がエンタメの領域をはみ出ないようになってるという絶妙なバランサーとしての役回りを担っていた。だからこそキャラ的な深掘りが一切無かったのが惜しい……。

と、ここまでネガティブなことばかり書いてしまったけど、単に細かく観ようとすると大味ってだけで、最後は大団円だし間違いなく面白い映画ではあります。

フェラーリ

『フォードVSフェラーリ』とか『グランツーリスモ』みたいなレース映画なのかと思って観に行ったらフェラーリの創業者エンツォ・フェラーリの伝記作品としての面が主体で予想していたような感じではなかった。

もちろんレースシーンはしっかりと描かれるんだけどあくまでフォーカスしてるのはエンツォの方って印象。作品全体的にはヒューマンドラマ色がかなり強い。

またこのエンツォ・フェラーリとかいう男が本当にどうしようもない男で、車作りの才能が無かったらマジでただの人格破綻者だろってレベル。その車作りも資金的にはカツカツなのに「レースで勝てばどうせ売れる」と言って聞かず、とにかく予算度外視でレーシングカーを作る作る。

ただエンツォが一流のエンジニアだったことに異論は無いから、作中で取り上げられるのが彼の破天荒な側面ばかりだったのは少しだけ残念だった。もっとエンジニアとしてのエンツォ・フェラーリを描いてくれてもよかったんじゃないかと思う。作中のシーンだと、例えば不倫相手との間に生まれた婚外子の息子に自分が引いた図面を見せてエンジンのロマンを語る姿とか、ああいう部分をもうちょっと見せてくれたらな〜と思った。

察するに「スキャンダラスなキャラクターとして描きたい」という確固たる狙いがそもそもあって、その軸を一本通すうえではエンジニアとしてのエンツォをあまりにもしっかり取り上げてしまうと方向性にブレが生じることになるのでは……と判断したのかもしれない。

それに「エンジニアとしての側面をもっと描いて欲しかった!」と感じるのは自分自身が工学の世界の人間だからだろうな〜とも思う。

化け猫あんずちゃん

あとから調べたらロトスコープで作られた作品とあってめちゃくちゃ驚かされた。絵柄とかキャラデザとか、とにかくパッと見た感じだけじゃ全然そんな風には思えないんだけど、よくよく思い返してみれば確かにキャラの動きにアニメっぽい嘘くささが無かったような?気がしないでもない……勝手に脳がそういうことにしているだけかも。キャラがヌルッと動くところはロトスコープっぽいと言えば確かにそう。

加えてロトスコープのために撮った映像で俳優たちが演じたセリフをそのまま作中で使用してるから、アニメを作ったあとのアフレコはしてないらしい。この点に関しては納得感があって、作中でセリフの音質がアニメっぽくない箇所(音質が悪いということではない)がチラホラ見受けられて、映画館では「凝った演出だなぁ」と感心してたんだけど、実際はアフレコによる演出ではなくて撮ったまんまをあえて出すことで演出として機能させていたってわけ。そういった点で結構実験的な作品だったと思うんだけど、そんな気配を微塵も感じさせない作風なのがまた良い感じ。

前半と後半でストーリーの雰囲気がガラッと変わるんだけど、個人的には前半のちょっとユルい日常モノな感じが好みだったかな。後半は冥界下りになるんだけど、前半の「なんてことない日常の中に何か変なヤツがいるんだけど誰も気にせず進む」感じが個人的なツボにハマりすぎた。あの感じのままユルい人情もの日常系シュールコメディを貫いてみても面白かったんじゃないかな〜とか思ってしまうけど、それは流石に好みの押し付けかも。

全体としては好印象なんだけど気になる点もある。特に「ヒロインの母親がヒロイン自身の言動によってその後どんな目にあうことになるのか」について、どうにもヒロインが理解していなさそう……というより、そんなことどうでもいいと思って考えようともしていないように見えたところが「分別のつかない年齢ってわけでもないのにそれはどうなん?」と思ってしまった。禁忌を犯してまで会いたいと願った相手なのに慮る様子が一切なくて、終始自分の感情だけに目を向けているといった印象を受ける。子どもらしいワガママといえばそこまでなんだけど、何かスッキリしない後味だった。

デッドプール&ウルヴァリン

1も2もそうだったけど作品全体を通じてとにかく推進力と牽引力が強くて、エンターテイメントとして本当に楽しい。最初から最後までずっとブチ上がった熱量とテンションを維持しながらズンズン話が進んでいく。これこそ模範的なポップコーンムービーってやつだと思う。

デッドプールという「模範的」という言葉の対極にいるようなキャラクターが主人公だからこそ、この映画のひたすら真っ直ぐな面白さが強烈に輝くと言ってもいい。

あとは前作、前々作と同様デッドプールの戦闘スタイルが刀や銃による肉弾戦なのもあって戦うシーンがとにかくかっこいいのも魅力。見せ方のレベルも格段に上がってるなと感じた。スーパーパワーでド派手に吹っ飛ばすのも良いけどさ、やっぱり血みどろの殺陣が最高ってわけなんだよね。

加えて、シリーズ3作目にしてデッドプールのキャラクター性を更にグッと掘り下げたなって印象もある、軽い言動、不真面目な態度、何でもかんでもすぐ茶化す姿勢がデッドプールをデッドプールたらしめているのは言わずもがな。だけどその一方で「世界を救いたい」「ヒーローになりたい」という純粋な思いが根っこにあって、いつまでもその火が燻り続けているという二面性もデッドプールは持ち合わせている。今作ではその二面性を丁寧に取り上げることで、デッドプールを真のスーパーヒーローとして独り立ちさせようとしているんじゃないかと思った。そのサポート役としてウルヴァリンを当てがってるんじゃないかと考えれば色々と合点がいく。

もちろんデッドプールシリーズらしい、良い意味での「しょうもなさ」についても健在で、中でも唐突に始まるショボいマッドマックスみたいなシーンが本当にくだらなくて最高だった。あえての演出なのか、あるいは本来ならもっと大規模の予定だったけど予算の都合でああなってるのかは分からないけど、あのショボさはあのショボさでかなり味がある。

最後はちゃんとヒーロー映画らしい結末を迎えるところが爽やかで観終わった後の余韻も良い感じだった。次回作にも期待。

ストリーミングで観た作品など

◆フォレスト・ガンプ/一期一会
◆マッドマックス 怒りのデス・ロード

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