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ホックニー『はじめての絵画の歴史』

子どもがいつか読むかな、とデイヴィッド・ホックニー展で購入しておいた絵本『はじめての絵画の歴史』。大人にこそ、十二分に読み応えがあった。

絵をつくること、みることは、人間の習性

「絵」ときくと、美術館にかけられた作品を想像しがち。でもホックニーは、「絵」を「言葉」と同じくらい身近なものととらえて、わたしたちの日常にぐっと引き寄せてくれる。「絵」は人が生み出す平面をさし、PCやスマホ、雑誌、新聞、本など、身の回りに溢れている。絵画もその延長線上にあるのだ。

彼は、作家がひとつの絵を描きあげるまでの経緯を、どの時代も変わることのない「人間の習性」にまで落とし込んで分析する。絵を描くこと、みることが、人にとっていかに根源的な営みなのかを思わされる。

優れた画家という立場で、制作時のねらいを惜しみなく語ってくれるのが嬉しい。同時に、良き鑑賞者として、他の画家の心情を、愛情と敬意をもって豊かに想像するホックニー。本当に絵が好きなんだなぁ…という当たり前の感想、でもその熱量がこの本の一番の魅力かもしれない。

結局ホックニーの思う「絵画」をもっとよく知りたくて、絵本ではなく書籍の『絵画の歴史』も購入した。より深掘りされた、彼の絵に対する愛情に触れられるのが、めちゃくちゃ楽しみ!

特に印象に残ったところをメモ↓


本の覚え書き

①人はなぜ「絵」をつくるんだろう?

絵を見た時の二つの疑問。
◆ この絵はなぜ作られたのか?
◆ この絵の中に、何が見えるだろう?

  • 絵をつくるには、物をよく見る。その絵を見た人は、次に対象を目にした時、よりはっきり見えるのでは。

  • 絵の決まり事は、自分の視点で絵を描くために、作り手が定めている。見え方は人それぞれ
    例)古代エジプトの壁画では、王が大きく描かれている。実際は同じサイズだ
      ったはずだが、当時の人々の心の中では、王はほかの人より大きな存在

  • 芸術家はこの世界を表現するための新しい方法を模索してきた。それは地図を作ることに似ている=平面に世界を描く

  • ディズニーはアメリカが生んだ偉大な芸術家のひとり。1930〜40年代で最も人気のあった映画スターはミッキー。今でも人気だからすごい!ピノキオのワンシーンで、ピノキオがクジラに飲まれるシーンは、波の表現に浮世絵を参考にしたのでは。

  • 絵には、周りの世界をどう見るか、その見方を左右する力がある。


②しるし

  • 紙にペンで2つか3つしるしをつけたとたん、それが何かに似ているように見える。ほんの少しのしるしで、風景や人間、動物を表現できる

  • しるしは、動きがあるから面白い。あの筆使いを見れば、その線がゆっくり描かれたか、素早く描かれたからわかる。

  • 中国の画家は、同じものを何度も描いて練習した。筆を10回動かして鳥を描き、練習したのち、線を減らしていく。ここぞという場所に「しるし」をつける。

  • レンブラントのデッサン「あんよを教えてもらう幼児」ー少ない「しるし」で表情や感情まで伝わる

  • 写真が登場する前は陸軍や教師もデッサンを学んでいた。→よく見ることも学んだのでは?


③光と影

  • 「モナリザ」は、いくつもの影を重ね合わせて描いた肖像画として、最も古い。顔に素晴らしい光が当たっている。光が黒々とした影に溶け込んでいるところは、ホックニーにもどうやって描いたのか想像もつかない!

  • 影は、物体の後ろにある、光の当たらない範囲。「光がない」部分

  • 影には実体がない。錯覚を起こすことだってできる。

  • 写実的な表現には光と影が必須

  • 16-17世紀のヨーロッパでは静物に暗い場所で強い光が当たるふうに描いた

  • カラヴァッジョ 物を印象的にみせるための光の当て方

  • 絵の中で光がどんなふうに使われているのか、影がどうなっているのかを、よく観察する


④空間に注目する

  • 作家は最初に「この画面をどう使えばいい?」と考える。人物や物をうまく空間の中に配置できるか?

  • 人は風景を目にした時、最初何を、次に何を見るかを無意識に考えている。視線は常に動く

  • 「遠近法」が開発され芸術家たちを虜にしたが、そこに従わないことで生まれる効果もある(描かれた人が近くに感じられるなど)

  • ホックニーの写真コラージュ。人間は一つの視点からものを見ているわけではない。動き回って撮った写真で一枚の絵を作っている

  • 中国や日本の古い絵では、視線が動き回り、自分も一緒に旅をしている気になる。動き続けている。

  • 絵巻物は、西洋の絵とは異なる種類の絵。特別な時に取り出して少しずつ広げて眺めていくもの。端っこというものがない。

  • 絵の中で物語を語る。最後の晩餐。エドワードホッパー。

  • キュビズムが与えた衝撃。人物を正面から見た姿と、後ろから見た姿が一枚に描かれており、見る方は人物の周りを一周したことになる。頭の中の絵。



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