野球の映画<実話編>①
再び野球映画のお話です。前回からノンフィクション映画の紹介をしていますが、なんといっても実話の良いところは、実際の映像や本人インタビューなどが多く含まれている作品が多いことです。ただでさえ感動的な話に、それらの映像を観ることで感動は数倍にもアップしますよね。
今回まずご紹介させて頂く作品は、「オールドルーキー」(2002年/ジョン・リー・ハンコック監督/ブエナビスタ)です。
簡単にあらすじを言いますと、(以下ネタバレあり)主役のジム・モリスは、マイナーリーグでプレイしていましたが、度重なる怪我で引退を余儀なくされ、メジャーの夢を諦めてしまいます。
その後、テキサス州の片田舎の高校で教師をしながら野球部の監督を務めていました。しかし、そんな彼がなんと逆に教え子たちに、再びチャレンジする事の尊さを教えられます。そしてジム・モリスのメジャーへの再挑戦が始まります。
ジム・モリスを演じるデニス・クエイドがメジャーリーグ史上最年長35歳にして、初めてメジャーのマウンドにブルペンから上がるシーンと、映画の後半に出てくる実際の映像を観た時は、鳥肌が立ちました。
彼のメジャーデビュー1球目はなんと時速156km/hでした。ちなみにご本人もこの映画ではちょい役(審判役)で出演されています。
次にご紹介するのは、みなさんご存知、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの人生を描いた「42〜世界を変えた男〜」(2013年/ブライアン・ヘルゲランド監督/ワーナー・ブラザーズ)です。
1947年当時は、MLBは白人だけのもので、黒人は黒人だけのリーグ(二グロリーグ)が組まれていました。そんな中、MLBブルックリン・ドジャースのGMは、「才能のある人間には人種に関係なくチャンスを与えるべきだ」とジャッキー・ロビンソンを入団させます。しかし、当時の人種差別は相当に激しく観客、他チームだけでなく、味方であるチームメートからも差別され、本当に孤独な戦いが続きます。
それでもジャッキー・ロビンソンは耐えに耐え、どんな状況に置かれても必死にプレーすることで、周りの人達や観客の態度を変えていきます。この周りが変わっていく様子は本当に感動します。ジャキーに酷い罵声を飛ばす大観衆の前で、ドジャースのある白人選手がジャッキーをグッと引き寄せ、肩を組むシーンは最高です。まだご覧になっていない方は、是非ご覧になってください。
私がメッツに在籍していた1997年は、ジャッキー・ロビンソンメモリアルイヤーとし、全球団のユニホームの右肩の部分にジャッキー・ロビンソンの名前とBREAKING BARRIERS (ブレイキングバリアーズ=障壁を破る)と入ったワッペンが付けられていました。
みなさん、ジャッキー・ロビンソンの背番号42番はメジャー全球団で永久欠番になっている事はご存知だと思いますが、これは、メジャーリーグだけでなく、マイナーリーグはもちろん独立リーグ、アマチュアリーグも永久欠番になっています。つまりアメリカの全プロ野球チームの永久欠番なのです。どれだけジャッキー・ロビンソンの功績が大きいかという事が理解出来ます。
次の映画は、いわゆる'ブラックソックス事件'と呼ばれる野球賭博、八百長疑惑を題材にした「エイトメンアウト」(1988年/ジョン・セイルズ監督/オライオン・ピクチャーズ)です。
時はさらに遡り、1919年のワールドシリーズ、シカゴホワイトソックスvsシンシナティレッズで八百長疑惑が起き、ホワイトソックスの主力8人が刑事告訴されました。
裁判では無罪となるのですが、当時この事件がきっかけで、コミッショナー制度が設けられ、その初代コミッショナーは、この8人をMLBから永久追放に処すると判断を下します。後に様々な事がわかり、世間は永久追放処分を受けた選手たちを同情の目で捉えアンラッキー・エイトと呼び、むしろ悲運のヒーロー的な扱いにしました。これをモチーフにした様々な作品も作られました。この8人の中には、永久追放されても野球をしたい気持ちを抑える事が出来ず、名前を変えてマイナーリーグでプレーする者もいました。
この8人の野球を奪われた無念、特に8人の中でシューレスジョーことジョー・ジャックソンの無念さとフィクションではありますが、野球映画の名作「フィールドオブドリーム」が繋がっていきます。以前もお伝えしましたが、この「エイトメンアウト」をご覧になってからフィールドオブドリームを観ると、感動はまた増すと思います。ちなみに、この作品には若き日のチャーリー・シーンも出演しています。
そして、次はインド人初のメジャーリーガーを生み出した物語の映画「ミリオンダラーアーム」(2014年/クレイグ・ギレスピー監督/ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ)です。
アメリカでは、野球はクリケットから考案されたスポーツと考えられています。
つまり野球とクリケットはよく似ている競技と言えます。そこに目をつけた冴えないエージェントが、クリケットが盛んなインド各地でトライアウトを敢行します。そこで2名のインド人をアメリカに連れて帰り、投手としての練習が始まります。
映画の後半に、いよいよMLBのスカウトの前で投球を披露するのですが、その直前に意外な人がこの2人の投手を励まします。またエンドロールが始まっても最後の最後までご覧になってください。実際の映像、写真がたくさん出てきます。
そして、この映画も有名ですね。「マネーボール」(2011年/ベネット・ミライー監督/ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)です。
ブラッド・ピット演ずるアスレチックスのGMビリー・ビーン。資金が潤沢な球団に良い選手が集まり、自前で育てた選手もすぐにFAで高年俸をオファーするチームに引き抜かれてしまう。
そんな資金が少ないチームは勝てないという常識を覆してくれる映画です。この映画を観ると、主観と客観という言葉が頭に浮かびます。主観とは、判断や行動が自分だけの感じ方や経験に基づいていることで、客観とは、自分の思いを入れるのではなく、具体的な数字や前例などから、物事を考えることです。映画の冒頭のスカウティング会議では、ベテランスカウトからは、主観的な意見ばかりが飛び交います。しかし、ビリーが引き抜いたGM補佐の「球団は選手を買うのではなく、勝利を買うべきだ」という考えのもと、先入観を持たず、統計学を用い、膨大なデータを集め徹底的に分析し、客観的なデータをもとにチームを作っていきます。
これがきっかけで、今では常識的となったセイバーメトリクスを採用し、野球界は大きく進歩しました。2004年発売の書籍で先に読んでいたのですが、映画の方が遥かに面白かったです。映画後半ビリーの口から「人は野球に夢を見る」というセリフが何度か出てきます。クールでカッコいいです。
次は、中村雅俊とジュディ・オングが主演という、日本映画のようなアメリカの野球映画です。「アメリカンパスタイム〜俺たちの星条旗〜」(2007年/デズモンド・ナカノ監督/ワーナー・ブラザーズ)という作品です。
1940年第二次世界大戦時、アメリカ人なのに日系であるがために、アリゾナ州の砂漠の中の日系人の強制収容所に入れられます。
自由や財産を奪われた日系アメリカ人は、収容所内にアメリカの国家的娯楽(ナショナルパスタイム)である野球のチームを作ります。そして、野球を通して、または戦争を通して、人間としての、いやアメリカ人としての尊厳を取り戻していくドラマを描いています。
この作品は、野球が好きな方だけでなく、ジャズが好きな人も楽しめるのではと思います。私はまったくジャズに詳しくはありませんが、母がジャズ喫茶店を経営していたので、ジャズを聴くと子供の頃を思い出します。そういう意味でも好きな作品です。
ちなみにですが、私が知る限り、中村雅俊が野球の映画の主役を演じるのは、これが2作目になると思います。1作目はフィクションになりますが、「さすらいの甲子園」(1980年/斎藤光正監督/ユニオン映画)という作品です。30歳になっても野球から卒業できない野球中年を演じています。
次ですが、私のジムには、アマチュア、プロを問わず女子野球の選手たちも、治療やリハビリ、トレーニングをしに来てくれています。また私どものジムから、昨年まで女子プロ野球埼玉アストライアに女性のトレーニングコーチを派遣していました。ですので、女子野球も身近に感じています。
私が初めて女子プロ野球選手を実際に見たのは、数年前まで関西ローカルの某テレビ番組のレギュラーをさせてもらっていたその時に、8〜9年前になりますが、女子プロ野球の取材に行った時です。
その時、とある女子プロ野球投手のピッチングをブルペンで拝見させてもらったのですが、そのレベルの高さには驚きました。
ポニーテールの可愛らしい女の子の投手がキャッチャーに「外スラ行きます!」(アウトコースのスライダーを次投げますという意味)と言います。今では当たり前だと思いますが、当時の私は、女の子の口から「外スラ」って聞くとは夢にも思いませんでした。そして、ちゃんとアウトコースにスライダーが投げ込まれました。野手陣もそうですが、私はレベルの高さに驚いたものです。嬉しいことに今、女子野球の人口が年々増えています。
そこで、次にご紹介する作品は、アメリカ女子プロ野球野球の実話に基づいた映画「プリティーリーグ」(1992年/ペニー・マーシャル監督/コロンビア・トライスター映画社)です。
1943年〜1954年まで存在していた女子プロ野球のお話です。1939年〜1945年にかけて起きた第二次世界大戦でMLBの選手たちも出征し、リーグ戦の継続が困難となる危機を迎えます。
そこで1943年に全米女子プロ野球リーグが結成されます。当時のことを徹底的に取材し、実話に基づいて製作された作品ではありますが、この映画に出てくる姉妹でのバッテリーはフィクションだそうです。それでも十分当時の様子や女性も男性顔負けなくらい「野球が好き!」というのが伝わってきます。
この映画のストーリーとはあまり関係がないのかもしれませんが、あるシーンが印象的でした。黒人初のメジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンが登場したのが1947年です。この映画の設定は1943年です。映画を観ていてもやはり、このリーグには黒人女性選手は1人も在籍していません。女子プロ野球選手がキャッチボールをしているシーンである選手が暴投を投げます。そして、そのボールが試合を見に来ていた黒人女性の足元まで転がっていきます。そして、その黒人女性はボールを拾って投げ返すのですが、「私も凄いのよ」とばかりに、とてつもない豪速球を投げてきます。このシーンを見た時、制作者の人種差別で平等にチャンスを与えられていない悲しい時代があったという事を伝えているように感じました。
この映画を初めて見た時、日本でも野球好きの女の子が増えたらいいなと思ったものですが、まさかここまで女子野球が盛んになるとは思いませんでした。本当に嬉しい限りです。
この映画には、スーパースター、マドンナが選手役で出演し挿入歌も歌っています。マドンナが打って、投げて、捕って、そしてスライディングしてという姿は当時かなり話題になりました。是非ともこの映画もご覧になってください。
次回も野球映画実話編をお伝えさせてください。お付き合い宜しくお願いいたします。
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