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ベルがブルった、青春時代。

2024/04/14

つながることが承認欲求を満たす

インターネットが誰でも使える時代になる少し前、私は厳しかった父に内緒でポケットベルを持った。
クラスのお金持ち女子がベルを持ち始めたのは中学3年生の頃。

お金持ちから順に手に入れていくものとして、奥行きがえげつなくてマウスの底にはボールが付いていたクリーム色のパソコンや、CDウォークマン、MDウォークマンがあった。
私の家はその頃、まだお金に余裕があったようだし、新しい家電は全て最初に買いたい父がいたので、ごついパソコンを中学2年で入手していた。

当時の虐待理科教師が雑談で、
「この中でパソコン持ってるやついるか?」と言ったら、私と野球部の男子だけが手を挙げた。
「MDウォークマンは?」と言ったら、クラスの半分くらいが手を挙げた。

私の狭い部屋の面積を相当奪うことになったごついパソコンは、インターネットにつないでもらえなかった。
当時はインターネットし放題なんていうプランがなく、インターネットにつなぐためには電話線を独占し、電話料金がかかるというシステムだったのだ。
それに、受験を控えた年だったのでそれも懸念していた様子。

ネット環境のないごついパソコンなんて、正直何の役にも立たなかった。
一太郎で文章作成することもないし、使うソフトはソリティアとマインスイーパくらいだ。

意味のないパソコンと同居しながら受験勉強をしていて、高校は第一志望校に合格。
入学祝いということで、「勉強に差し支える」という理由をつけて何でもダメダメと頭ごなしに言う父には内緒で、母にポケットベルを買ってもらった。

高校に入ったらみんながベルを持っている。
ベルがないと友達が作れない。
そんな錯覚とも言い難い感情に襲われて、半ば無理やり買ってもらったのだ。

メル友ならぬベル友の時代

おかげで入学してから友達を作るのは簡単だったし、うわべだけの友達もたくさんできた。
そんなクラスメイトの間で流行り始めたのが『ベル友』をつくることだった。

メル友とつくり方は似ていて、適当な番号にベルを入れる。
それで返信があったら、そこから仲良くなっていくというもの。
相手の顔がわからないやり取りというものが初めてだったので、なんだかいけないことをやっているみたいでとてもワクワクした。

ベルの番号は電話番号のようなものだ。
市外局番があり、電話番号がある。
市外局番を自分と同じに設定すれば、わりと近いところにベル友をもつことができた。

短かった『ポケベル時代』。
高校1年生のうちにPHSも入手し、1年間くらいは2刀流だった。
もちろんピッチも父には内緒。
隠すのが大変だった。

最初はベルしか持っていなかったので、友達から『イマナニシテル?』とベルが入れば自転車で数分かかるスーパーの公衆電話に出向き、ベルを返していた。
それがしんどくなったので、家からベルを返すためにピッチを買ってもらった。
家の電話から返すのでは、電話料金の明細でバレるから。

ピッチでもショートメールができたので、そのうちみんながピッチを持ち始め、ポケットベルは流行らなくなっていった。
この短いポケベル時代に、私は4人のベル友と出会った。
今で言う、『出会い系』の前身だろう。

学校にいても、制服の胸ポケットには常にベルが入っていて、落ちないように付属のチェーンでひっかけてある。
みんな胸元にチェーンをキラキラさせていた。
学校の玄関にある公衆電話もいつも並んでいて、話をしているひとはいなく、みんなボタンを高速で打ち、ベルを打っているのだ。

入力方法は後に『ポケベル方式』と呼ばれるようになったもので、11は「あ」、12は「い」というように入力する。
「スキ」と入れたい場合は、「3322」。
ハートマークもあったけれど忘れてしまった。
女子高生はそれを打つのがとても速かった。
確か最初に「*2*2」とか打ったっけ?

気分が落ち込みやすくなったのはベルのせい

何人かのベル友とか付き合ったりもした。
高校生の恋愛なんて週単位で別れたり付き合ったりするし、私の時代は手つなぎやキスくらいまでだったので、恋愛の練習みたいなものだ。
でも、相手をスキという気持ちは一人前で、朝のオハヨウがないだけで気持ちがブルーになった。

相手がどう思っているのかわからなくて怖い。
ベルを返してくれない。
この不安な気持ちは、今で言う鬱や不安症みたいなものなのだろう。
ベルが来ないだけで1日中凹める人間だったが、周りには友達がいたのでなんとか平常運転を保てていたというところ。

不安に押しつぶされそうになっていたら、胸ポケットのベルがブルった。
『スキダヨ』
その無機質なカタカナだけで、今まで落ち込んでいた気持ちはパアッと華やいで、
「今日帰りにミスド寄らない?」なんて友達を誘ったりする。

そんなカタカナ、本当はそう思っていなくても打てるのに。
誰でも打てるのに。
恋愛初心者にとっては大事な心の支えになり、逆にすぐに心を壊す凶器にもなった。

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