あなんすぃえいしょん
ベランダの窓を小さなこぶしで
こんにちは
男の子がふたり
手を繋いで 兄弟みたいに
きみたちのことはよく知っているよ
逢いにきてくれたのでしょう
舞い踊る金箔に虹が乱反射するひとすじの光の中
ただ歯を見せて嬉しそうに
向かいの窓から下界を覗くと
石がごろごろと残る土の上に
新しい家々が新しい町として生まれてゆくのが見渡せた
顔を上げれば水平線に
多角形のオパールが幾つものレイヤーを揺らして
歩き出せば 世界は拓けて
拡がっていることを語りかけていた
大きい方の男の子とクリスタルを転がした日も
母音でおはなししながらよちよちと歩いて膝に辿り着いた日も
あなたは
目尻をうんと下げて笑っていたし
詩を書いたし
相変わらず消え入りそうだった
私は声も涙も出さずに泣くんだ
あなたの母も小さい方の男の子に逢いたがっていて
ぼくは薬のせいでもう子どもは望めないんだ
ごめんねって
冷たい雨の夜も深まる秋への日々も
終わりをなぞるからまだ少し怖い
黒い海を嘆いて動けなくなったとき
あなたの言葉に呼ばれた人と
破けて血だらけの胸を撫で合いながら
怖くて寂しくて待ちわびて泣いているだろう
小さい方の男の子を迎えに
大きい方の男の子はあなたのように思慮深く
生きることに惑う様が美しい時を過ごしている
小さい方の男の子は待ち続けたからきっと
ひとりになるのが怖くていつもくっついている
みんなが賑やかににこにこと過ごしていることが好きで
おどけるところを見せるのが好き
時々男の子ふたりで寄り添っていたりして
あの日ベランダで乱反射した光が奇跡のように浮かび上がるよ
あなたと繋いだ男の子
あなたが繋いだ男の子
ふたりの男の子に逢わせてくれてありがとう
さようならを言ったはずなのに
今は内緒で涙を零しながら
あなたもベランダから逢いにきてくれれば
いいのにって
*
2021.10.19
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?