Microbiome - 生態系としての人体 #5

 堅い表現となって恐縮だが、マイクロバイオームを有する「あなた」という存在は、多種多様な個体からなる集団性、複数性を内包している。これは列記としたパラダイムシフトだ。あなたは単一の個体ではなく、複数の生命体が合わさってできた複数者なのだ。ある個体の遺伝情報の総体をゲノムというが、消化管に群生する微生物のゲノムを数えあわせてみると、ヒトゲノムの少なくとも100倍以上の遺伝子を含んでいる。このゲノムの集合、すなわちメタゲノムはあなたを成り立たせるために欠かせぬ必要条件であるのかもしれない。そういった視点から、人体はヒトの細胞と微生物の集合からなる「超個体」であると提唱する科学者もいる。さらに、マイクロバイオームの平衡状態の破れは、古典的な感染症のみならず、発がんや自己免疫疾患、炎症性腸疾患などの発現にも関与している可能性が示されている。

 本書の目的は、人体と微生物の有機的な相互関係をマイクロスケールで描くことによって、あなたという存在が、時にその境界線を曖昧に変化させながら、絶えず変容し続ける動的な存在であることを示すことである。


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