サラブレッドの競りを楽しく見るために

1.はじめに
この記事はサラブレッドの競りを見るのが好きだという、かなり変わった性癖を持つ僕が独断と偏見で書き上げた記事になっています。
5月で2歳馬の競りも終わり、6月からは1歳馬の競りが始まる。まずは九州1歳市場。そして7月には八戸市場、そして大注目のセレクトセール(当歳・1歳)があり、セレクションセール。8月には上場頭数が最大のサマーセールがあり、9月のセプテンバーセール、10月のオータムセール、NF MIXセール(当歳・繁殖)と続いていく日本国内のサラブレッドの競り市。
各競りにおけるLIVE中継の視聴者数はかなりのものだが、競りをもっと楽しむ方法が知られていないのではないか?と普段から思っている。
確かに、何も考えず競りを見て、カネ持ちの札束を使った殴り合いを見たり、オークショニアの煽り文句、ビットスポッターが鑑定台にいるオークショニアに向かって大声を出しているのを聞いたりするのも楽しいのだが、僕は競りの魅力ってそれだけではないと思っていて、いろんな見所があることを知って欲しいと切に願うそんな僕の記事です。

2.まずは情報収集と馬に対する学びから
競りの前に、どんな馬が出てくるのか?をチェックするのが競りを楽しむための第一歩だと僕は思っています。各市場に上場される馬の情報をチェックするために僕はこのアプリを使っている。

いわゆる、競りの電子版カタログを見られるアプリ。どんな馬が出てくるか?をザッと見るにはちょうどいい。そして気になった馬をピックアップし、各市場のホームページにアップされている上場馬の馬体写真を見て、自分なりに好きな馬を選ぶのが、僕が競りを楽しむ上でのルーティンとなっている。

そして、競りを楽しむ上で知っておきたいことのひとつとして、悪癖や手術歴などの公表事項があるということ。
公表される悪癖あくへきは、ゆう癖(熊癖)・さく癖(齰癖)・旋回癖せんかいへきで、他に身食いみくいがあるものの、競りでアナウンスされるのは、だいたい最初にあげた、ゆう癖、さく癖、旋回癖、この3つのどれか。ゆう癖と旋回癖など、2つの悪癖を持つ馬もいる。自分はまだ見たことがないけれど、3つの悪癖を持つ馬もいるだろう。
人間側の勝手な都合で言えば、悪癖はしないほうがいい。なぜ悪癖と呼ばれるか?と言えば、サラブレッドとしての価値を下げるものであるから。
ただこれが競走能力に影響するか?と言われたら、誰にも答えは出せない。
細かいことを言えば、さく癖をする馬は疝痛せんつう(腹痛のこと)のリスクが、さく癖をしない馬と比べたら高いのだが、なぜそうなるのか?というのは、未だによく分かっていないところ。
詳しくはJRA日高育成牧場のブログを参照されたい。

さく癖やゆう癖がどういうものなのか?というのは、YouTubeで動画が上がっているはずなので、それを見て貰うのが手っ取り早い。
旋回癖は文字通り馬房内で旋回する癖。
ゆう癖は体を左右に揺らす癖で、ひづめの形に影響を及ぼす。
こんな風に馬の悪癖を知っておくのも、大事なことだと思っている。そして先程も言ったが、これらの悪癖が競走能力に影響するかどうかは分からない。ただ、価値を下げるものとして扱われているのは間違いない。

そして、先程添付したブログでも触れられているが、なぜ悪癖を競りで公表するのか?と言えば、競りが終わった後に公表されていなかった悪癖が見付かると、購買者は売買契約の解除を求めることが出来る。
ですので、この公表事項は非常に重要。
(まぁ、実際に買う訳じゃないんでそこまで気にする必要もないかもしれないが。)

また、公表事項としての手術歴だが手術の種類も様々だ。
一番多いのは、OCD除去手術ではないだろうか。OCDとは離断性骨軟骨炎または離断性骨軟骨症のことで、こんな説明じゃ何がなんだかさっぱり分からない。ここでまた分かりやすく解説してくれているJRA日高育成牧場のブログを参照されたい。

30年ほど昔は「手術を受けた馬なんて走らない」と言われていましたが、今では医療技術の進歩も相まって、そんなことを言う人は居なくなったと言っても良いでしょう。

また公表される手術歴で「肢軸矯正術しじくきょうせいじゅつ」というのもあるが、僕が知っている範囲では現在種牡馬となっているG1レースの勝ち馬(今年の日本ダービーで勝った馬の父)も、当歳時に肢軸矯正術を受けている。
手術を受けたからといってレースで結果を残せないか?残せるのか?というのは、結局のところ馬次第。
OCD除去手術や肢軸矯正術など手術にはいろんなものがあるが、手術を受けたから走らないとは言い切れない。そこは頭の片隅に入れておいて欲しい。
肢軸矯正術については、北海道市場の「馬獣医のよもやま話」2012年4月号「当歳の肢軸異常について」が参考になるだろう。

他にも手術としては、関節洗浄手術というのがある。関節洗浄手術とは免疫力が低い若齢期に起きる細菌性感染で、細菌が入った関節内をきれいにするため内をよく洗い抗生物質を注入する治療が実施される。治療により回復した馬は後遺症を見せることもなく、また競走能力に影響を及ぼすことがないとされています。と、社台グループのオーナーズ募集ページに書いてありました。
他にも開腹手術だったり色々あるのだが、それは割愛させていただく。手術を受けたから、走らないという訳ではないという程度で理解していただけたらそれでいい。

また、競りの前に知っておきたいこととして「競りで買い手が付かなかった馬は、その後どうなるか?」
これは、パッと競りの中継を見た際に誰からも声がかからず、主取りぬしとりの馬が現れた場合に思う疑問のひとつだろう。
これについては、過去の競り取引情報を見ていれば分かるのだが、結論から先に言ってしまうと、売れなかったとしても気にする必要はない。

馬を売る手段は色々あるし、販売者が自前で所有して競馬に使うという選択肢もある。そうやって実際には、ほとんどの馬が競走馬としてデビューする。

正直な話をしてしまえば、ただ競りを見ている自分たちが「売れなかった馬はどうなるんだろう?」と気にしても仕方ないし、結局はなるようにしかならない。
ただ、売れなかった=肉になる という図式は今の状況だとなかなか無いことだということは言っておきたい。

あとは、1歳競りにおいて、JRAが参加し馬を購買しているのを知ってる人は多いだろうが、パッと見ならなぜ買うのか?というのは分からないだろう。
簡単に説明すれば、翌年の4月に主催のブリーズアップセールで売るために仕入れる。予め断っておくが、これはJRAが儲けたいからやっていることではない。仕入れた馬を使って研究し、その成果を発表、周知すると共にレベルアップを促すというのが目的のひとつだ。

このあたりまで知っておくと、競りを楽しく、そして少しは楽しんで競りを見ることが出来るはずだ。

3.競りをもっと楽しみたい人へ
もっと知りたい、楽しみたいという人には、僕が普段からやっていることだが、馬の立ち姿写真が各市場のホームページ等にアップされるのでそれを見て、各々が注目する馬を決めてそれを追いかけるということをオススメしている。

その時にはだいたい「馬を見るときって、どこをどう見たら良いの?」と言われるが、その時に僕はこのサイトを見れば、なんとなく分かるよと答えている。

このサイトを見て、ある程度こんな馬が良しとされているんだと分かった上で、最終的には個人の好き嫌い。

競りに向けて馬を作るところもあれば、競り前日まで夜間放牧を行っているところもある。見映えがいいのは前者だろうが、競走馬は最終的にレースに出て勝つことを目標にする。このあたりは、人それぞれの考え方が違うというのが表に出るところでもある。
また、馬体写真を見て、今は体のバランスが崩れていても、これから成長すれば戻ってくるかもしれない。
生き物であるからして、人間の思い通りにはなかなかうまく行かず、正解はないものだと個人的に思っている。

そこで、馬を選ぶにしても最終的には個人の好き嫌い。
選んだ理由はパッと見で気に入ったから。

こんな感じで、好きな馬を選んでその馬を追いかける。1歳競りで選べば、順調にいけば翌年にデビューする。

もちろん全てが順調に行く訳じゃない。勝てる馬もいれば、なかなか勝てない馬もいるだろう。だから競馬における「1勝の重み」を実感する。1つ勝つことがどれだけ大変か。
それを知れば、今までとは違った視点で競馬を楽しむことが出来るはず。
そう僕は考えていて、同じように考えてくれる人が少しでも増えて欲しいという願いも込めて、この記事を作成している。

POG(ペーパーオーナーゲーム)と近いこの楽しみ方。かかる費用はゼロ、そして楽しさは無限だ。こういう楽しみ方も競馬はありだろう。

また、序盤に説明した公表事項の他に測尺表というのが競り当日には公開される。
北海道市場の場合、体高・胸囲・菅囲・馬体重と、その馬のお台が表記される。
ここまで読んで下さった人はそれなりに知りたい人だと思うので、菅囲って何ぞや?と僕が語るより、調べてみてください。

測尺表を見て、今がこれだから、将来どれくらいの馬体になるのか?を予想するのも競りにおける楽しみのひとつだろう。
(もちろん実際に馬を買う訳ではないから、これくらいの説明に留めているが実際に買うとなった場合だとまず予算はどれくらいか、どこに預ける予定なのか、競り購入代金の補助金はあるのか、レポジトリーのチェック、測尺表に書いてあることはもしかすると嘘かもしれないと勘繰る、下見で他に誰が競ってきそうなのか、その人がどれくらいまで競ってくるのか、引くのか引かないのか色々あるんですが、ここに関しては深入りしない方が良いです。馬を買わないですし、楽しく見る上では、深く知らない方がいいこともあるということで。)

測尺表にはお台が書かれていて、原則値下げ交渉は出来ないのだが、九州市場や八戸市場、サマーセールからオータムセールまではちょっと事情が変わってくる。
購買希望者が、価格交渉をすることが出来るのだ。お台の価格より下で受けてくれたなら、入札しますよという意思表示が出来る。

もちろん、販売者側はこの申し出を拒否することも出来る。競りの最中で見かける「ちょっとご相談をさせていただいております」「こうなりませんでしょうか?」なんてアナウンスは、この価格交渉があるから。

セレクトセールやセレクションセールではこんなやり取りが無い。
そして僕は、そんなやり取りを見るのが好きなので、サマーセール以降の競りが好きなのですが、まぁこれはマニアックでしょう。

馬主も人ですから、1円でも安く馬が欲しい。ただ、他にも欲しいという人がいたら競るか引くか。予算があって、何頭買いたいとか色んな思惑があっての交渉と、売る方は少しでも高く売りたいけど相場というものがある。
そんな綱引きの関係が、見てて面白いんです。
お台の値下げ交渉を受けて売るか、受けずに売れ残るか、これは生産者のプライドもあるはずだ。そういうところを端から見てるのが競りの面白さだと個人的に思う。実際に買う訳でも売る訳でも無いからこそ言えることでもあるわけですが。

4.最後に
ここまでくればだいぶ通な見方が出来るはずです。競走馬の競りは面白い。そこに気付いてくれる人が増えてくれたらいいのになと願ってます。
間違った情報が蔓延る世の中ですから、少しでも本当のことを届けたい。売れ残ったら肉になるなんて、少し知ってたらそれはないと分かるんですが、知らない人にとってはそれすらも分からない。
現状だと競りの開始前には、古谷剛彦氏が出演し注目馬を何頭か挙げていく。これを単に聞くだけでは楽しめない。そして楽しみ方は教えてくれない。
ただ、この記事を読んで貰えば事前にカタログをチェックして馬体写真も見る、そうすれば注目馬はこんな血統でこんな馬体なんだと分かるから、楽しめるポイントが増えるはず。何も情報集めをせずに見るより、事前に調べて見る方が楽しめる。そんな思いを込めてこの記事をまとめました。


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