【詩】二十歳の原点より 5 音なき音、色なき色 2024年4月15日 21:14 夭折した天才が紡ぐ言の葉。そこから滲み出る純粋性。折に触れて読み返す詩も多いです。そのなかで誰か一人挙げるとしたら。真っ先に浮かぶのは、高野悦子さんでしょうか。世間的に有名なのは、孤独と向き合った哲学的な独白。でも、私は彼女が書いた自然の詩も好きなんですよね。まっすぐな眼差し。若さゆえに拗らせた感性からこぼれ落ちる言の雫。様々なものを抱えた者が自然に浄化を求めるさまの愛おしさ。以下、著書の末尾に記された詩です。旅に出ようテントとシュラフの入ったザックをしょいポケットには一箱の煙草と笛をもち旅に出よう出発の日は雨がよい霧のようにやわらかい春の雨の日がよい萌え出でた若芽がしっとりとぬれながらそして富士の山にあるという原始林の中にゆこうゆっくりとあせることなく 大きな杉の古木にきたら一層暗いその根本に腰をおろして休もうそして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して暗い古樹の下で一本の煙草を喫(す)おう 近代社会の臭いのする その煙を古木よ おまえは何と感じるか原始林の中にあるという湖をさがそうそしてその岸辺にたたずんで一本の煙草を喫おう煙をすべて吐き出してザックのかたわらで静かに休もう 原始林を暗やみが包みこむ頃になったら湖に小舟をうかべよう衣服を脱ぎすてすべらかな肌をやみにつつみ左手に笛をもって湖の水面を暗やみの中に漂いながら笛をふこう 小舟の幽(かす)かなるうつろいのさざめきの中中天より涼風を肌に流させながら静かに眠ろう そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう『二十歳の原点』高野悦子 ダウンロード copy この記事が参加している募集 眠れない夜に 68,301件 #眠れない夜に #文学 #高野悦子 #二十歳の原点 #ブンガク #詩で一服 5 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 記事をサポート