肌の追憶


こっそり泣いているのを見つけても焦ってくれないのは、そして逃げるように部屋から出て行くのはどういうわけなのか。はじめてセックスをしてからもう2年になるのに、逆を言えば2年しか経っていないのにもかかわらず、とにかく冷徹、残忍、矛盾、つまるところ孤独以外の何でもない。だから自分の体を百発以上殴った。他にできることがなかったし、乱れた心を黙らせたかった。部屋の明かりをつけた。それからパソコンで自傷行為の記事を読んだ。対処法からの文面が有料会員限定だったのでまた殴った。涙をぬぐい、水を飲んでからもう一度殴った。両腕は赤くなり、しばらくすると小さな痣の群体になった。どこかの角に足をぶつけていつの間にかできるものとはだいぶ違う。右利きなので左腕のほうが黒かった。それに妙に感心して、今度は右腕に狙いをつけた。顔も五十発は殴ったが、近くに鏡がないので確認しようがない。だけど自分の筋力では試合後のボクサーのようにはなれないようだった。頬を打つと耳の奥から鼓動が聞こえた。彼女はよく耳の形がきれいだと言った。そして体じゅうの肌さえも褒めた。それは世間知らずだと見下されているように思え、自分のいろいろな無垢さが悲しいものに思え、しいては彼女の体と舌の味わいに昔の記憶を見つけるとき、誇りはますます消えていくみたいだった。

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